その恋を名前をつけて言うのなら。
きっとこういう名前が一番あっているだろう。

なんて、素敵な、殴り愛。



新宿の某所。
今日もそこは、あやしいネオンで町を彩る。
赤・黄・青…
町並みを鮮やかに彩って。


その人通りから少し離れた場所に、古びた喫茶店がある。

小さな、でも少しレトロでお洒落な雰囲気のそこ。


ここまで辿りつくのには、結構かかるし探しだすのもかなりの時間を要する。

なにせ、新宿は広い。
それに古びた喫茶店なんて沢山あるのだから。


聞いた話、その喫茶店は、ある族の根城になっているらしい。

13歳〜18歳までの男を集めたそのグループは喧嘩負けなし更には謎に包まれたグループというのも相まって、最早伝説と噂されている。

少人数で纏められたそのグループは、どのグループよりも統制がとれており、腕に強いものが集まっている。


特にそこの総長『彩』は敵にしたら最後、命はないと言われているのだが…



「今から俺、天龍寺きゅんに告ってくる!」
「は…?」
「止めないで、マイフレンド!もうこの想い、止められないの。ああ、天龍寺ぃぃ。俺の思いを受け取ってぇぇぇぇ」
「おい、総長、」


誰も知らない。
その最強の総長は、とてもアホで、ネジが取れた人間だという事に。

可愛い小柄の、愛らしい顔をしていることに。
本当は。ただ一人の男に恋しているという事に…。

今は、まだ…知らなかった。
今は、誰も…。

―なんて素敵な、殴り愛。



「って、ことで、天龍寺、スキ、結婚して、そのあとちゅーして。抱きしめて」
「……」
「ああ、その鋭い瞳、しびれるぅぅ」

俺が可愛く誘っているのに、俺のマイダーリン・天龍寺は無視。
優雅に長い足を組みながら、コーヒーカップを持って珈琲を飲んでいる。

もう、そんなところもくらくらしちゃうvvどこのモデルですかって感じ。
かっこよすぎ。ぽぉってしちゃうよ〜。
なんでそんなかっこいいの〜。
思わず悶絶する俺。

俺、田所俊二。こう見えてぴっちぴちの17歳。
そして、俺が愛してる大好きなダーリン。
名前は天龍寺辰巳。同じく17歳。こう見えて、ここいらのナンバー2の族のグループの総長なんだぜ。もうかっこいいの〜。のろけるつもりないけど、超かっこいいの☆


細かくいうと、その野性味あふれた鍛え抜かれた肉体だとか…、
もうモデル並みに長い脚だとか、ちょっとストイックで堅物っぽい真面目そうな顔だとか…全部俺のつぼにはいり、きゅんきゅんきてしまう。
愛してる、この世の全てを与えもいいくらい俺は天龍寺を愛してるー。


天龍寺は、高校生にもかかわらず優に180は超えていて、俺なんか見上げないと天龍寺の顔を見れない。
だから、俺は自然と、天龍寺と話すときは上目づかいで話すんだけど…なんでか、天龍寺はそれが気に入らないらしい。天龍寺曰く、男の癖にきもい、だって。

まぁ、その嫌悪溢れた天龍寺の瞳にきゅんきゅんくるから別にいいんだけどねー。


天龍寺は俺に好かれているのをあまり好ましく思っていないらしく、俺が喋ってもムシムシ。

今まで、まともに会話をしたのはどれくらいだろう…。
はっきり言って謎だ。
俺のことも未だに名前で呼んでくれないの。
くすん。
俺の容姿が天王寺と違って、いっつオールへいぼんぼんなのもいけないのかもしれない。


そもそもね、俺が天龍寺を好きになったのは、天龍寺が暴走族?みたいな相手にたった一人で立ち向かっていたところをたまたま見たからなの。
一般人を脅していたところへ天龍寺が止めに入って…。

血だらけになりながら、殴りかかる天龍寺を見て、もう俺の心はきゅん、としちゃった訳。

だから、わざわざ同じ族のやつらに天龍寺の情報取ってきてもらって…
こうして押しかけ女房ならぬ、押しかけストーカーやってるの。
天龍寺は迷惑しているけどね。でもこの想いは止められないんだぜ。

「…」

天龍寺は好きすき言っている俺を無視して、長い脚をソファーから投げ出し優雅に雑誌を読んでいる。

その長いおみ足に蹴られたい、って思う俺は、ちょっと危ないかな…。
でも、蹴られたら俺はその日一日興奮して眠れない自信がある。
蹴られたところの痛みを、オカズにして…、
えへ。俺ってばエロい子なんだからーっ

でもでも、天龍寺にならどんなプレイでもオールオッケーっていうかぁ…



「お〜、相変わらずきているねぇ。天龍寺君のストーカー君」

カラン、とドアが鳴る音とともに、数人のお兄さんたち。
この人たちは、天龍寺の仲間。更には、同じ族の人らしい。
もう何度も天龍寺のおっかけをしている俺は、既にここでは顔が知れている。

このお兄様がたとも顔なじみだ。
「こんにちはー」
「うんうん、こんにちはー」

俺をとくに気に入ってくれている、この族の副総長・三井さんはまるで犬にするかのように俺の頭をがしがしと撫でてくれた。

ちょっと、痛いです、三井さん。

俺、ハゲちゃいそうです…


三井さんは、とっぽい感じのお兄さん。

わりとチャラ男に見えるんだけど、こう見えて、かなり頭がよく、チームの参謀役もかねているとか…。


そんな俺たちを天龍寺はどこか冷めた目で見つめる。


「あのさぁ…お前さ…」
「は、はいっ」

や、やった。
なんでか知らないけど、天龍寺から声をかけてくれた!
どきどきと高鳴る胸をそのままに、俺はスライディングでもする勢いで、天龍寺に近寄る。


「な、なに、天龍寺…はぁはぁ…」
「俺たちは、族だ。わかるか?」
「は、はぁ…」


族って。俺も族だし。しかも族長ですけど…。


「お前みたいなもんが出入りすると、指揮にかかわる。気が散る。うせろ。へらへらした面しやがって。俺たちの族が舐められたらどうするんだ。お前みたいなのがいるだなんて知られたら…」
「え…と、俺、見た目によりも喧嘩強いですよ」

力こぶを見せながらにっこり笑う。
まぁ、俺、結構華奢だし小さいけど…。

こう見えて総長だから、ほどほどに喧嘩強いんだけどな。

舐められたら、そのぶん返り討ちにしちゃうんだけど…。


「ああ?ちびが嘘ついてんじゃねェ。さっさとここからうせろ。好きだなんてきもいんだよ、はっきりいって」

き、きもい…
きもい…。

天龍寺くん、会心の一撃!
俺、急所にあたる。
うう、今の言葉ぐさっときたよー。

でも、でも、この気持ちは止められないよぉぉ。


天龍寺の顔が見られなくなるなんて嫌だ!
ここにこれなくなるなんて嫌だよぉぉぉ

だって好きなんだもん。

「俺なんでもするからぁ。お願い、ここにいさせてよぉ、天龍寺」


俺は天龍寺の足に縋りつく。
天龍寺は俺をまるで芋虫でも払うかのように足を動かしたが…
俺は頑張って縋り続けた。


「はー、相変わらず、天龍寺くんはきびしいねぇ。
天龍寺君の興味って、ここいらのナンバー1の族くらいしかないもんね。後は面倒だの、なんだの…。

俺たちに喧嘩売ってるところも無視するんだから」

三井さんは、俺たちを見てクスクス笑う。


ん?天龍寺の興味はナンバー1の族?
これはいいこと聞いたぞ。メモメモっと。

ん?ここいらのナンバー1の族って…俺のところ…だよね?


「ナンバー1って、もしかしてバタフライ?彩とかいうところの…」

思ったことを口にすれば、三井さんも天龍寺も目を見開き俺を見つめてくる。
あ、あれ…
俺変なこと言った?


「なんでお前が…一般人のお前がそんなこと知ってやがる…」
「知ってるも何も…俺そこで…」

総長を…
そう言葉にする前に、天龍寺は口を開き…。

「お前と、付き合ってやる」

そう一言言った。

え…なに…?
俺の都合のいい幻聴ですか?
おおおお、お付き合いですとぉぉ。


「ふ、ふぇ…なん…」
「お前、バタフライと近い間柄なんだよな?彩のことを知っているのは、バタフライのやつら…身内くらいじゃないと知らないと聞く」

そ、そうなんだ。
俺の事ってトップシークレットなんだ。
確かに、みんなこんな族長嫌だっていうから、あんまり表に俺でないけど…。


「お前と付き合ってやる。でも、交換条件だ。バタフライの…彩の情報を渡せ」
「へ…?」

俺の…?

「なん…で…、」
「俺は、彩を倒したいからだ…」

彩を倒す。
俺を倒すから…彩を倒したいから情報くれ…。
俺を倒したいから…。

きゅん…。
俺を倒したいなんて。

俺は押し倒される希望なんだけど。
まぁ、いい。
深くは考えない、それが俺さ。

俺の情報さえやれば、付き合えるんだもんねー。
他の情報ならいざしらず。俺の情報なんて、どんどんあげちゃうよー。それで天龍寺と付き合えるなら!


「うん、いいよ。
俺…バタフライの…えっと、関係者っていうか…知り合いがいるから…教える!どんどん教えるよ!」
「よし、携帯出せ」

天龍寺は尻ポケットから銀色の携帯を取り出す。
俺も急いで取り出して、赤外線通信で互いのプロフィールを送りあった。


「まったねーv愛してるよ〜天龍寺!」


それから、俺は夕方までいつき、幸せるんるんで、家へと帰った。

これから念願のお付き合いが出来る!

ドキドキとワクワクに胸を膨らませて。


SIDE天龍寺


「いいの…?」

三井が窺うように俺に投げかける。

「なにが…?」
「なにがって…さっきの…、さ」
「ああ。どうだっていい…別に」

どうだっていい。
そう、どうだっていいんだ。別にあいつと付き合うとか、なんとか。
俺にしたらどうだっていい。
彩のことがわかれば、あとはあんなやつ捨てるだけだ。
俺のそんな考えが顔に出たのか、三井は顔を顰め、抗議をする。


「うわぁ〜、鬼、鬼だね。あんなに付き合えて嬉しいって笑っていたのに」

嬉しい…ね。

「俺は、彩以外興味ない」
「は…はぁ…」
「その為なら、例えどんな人間だって、使うさ。彩に会えるなら…」

そう、あの蝶にもう一度会えるなら俺は…。
誰に何を言われても構わない。

きゅっと、こぶしを握る。
あいつのことなんて、どうだって、いい。
俺には彩さえ、いれば。
彩の情報さえ、あれば。

呆れたような視線を向ける、に背を向けて、根城にしている廃墟から出る。
途端、夜の風が、頬を叩いた。

俺はポッケに手を突っ込んで、夜の街へと繰り出した。

美しい蝶、彩に合えることを願って。