昔から僕は、叔父である保の腕の中にいるのが好きだった。

保は変態だけど…でもいつも優しく抱きしめてくれるから。

いつも保は僕に優しいから。


だから…保になら、僕…。


「保、」
「シンジ…可愛いよ」
「た、保…」

ふ、と口端をあげ、僕の大好きな笑みを零す保。

普段はヘラヘラしているのに、こういう時だけ真面目な顔してそういう事言うなんて狡い。

慣れてないから、凄くドキドキしてしまう。

保は僕の何も着ていない素肌に、ちゅちゅ、っとわざとらしく音をたてながら朱を落としていく。

サラリ、と零れる保の髪が肌を滑りくすぐったい。

僕だって、保に何かしたいのに。
僕も保にしてやりたいのに。

抗議するように身をくねらせれば、


「ん?もっとして欲しいの?シンジ」

としたり顔の保。

くそ、むかつく。
大人だからって、余裕ぶって。

僕だって、保をもっとドキドキさせたいのにさ。

どうしたら、保は僕にドキドキするんだろ

「保、僕にも何か」
「あぁ、

じゃあ

シンジ
俺のズッキーニの下で、鳴いて貰おうか」


保がそういった途端、保の…保のアレがみるみる


大きくなっていき

「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁ」

僕を押し潰した

(俺のズッキーニ☆だっこして編)


「はぁはぁはぁ…あ…」

は、っと目が覚める。
ひやり、っと嫌な汗が首筋を伝う。ぐっしょりと、体中から嫌な汗が吹き出ているようだ。

「ゆ、夢か……」

パジャマが汗でべっとりしている。気持ちが悪くて、手先が凄く冷たくなっている。

あんな夢を見るなんて…僕も相当末期だ。

あんな…保と抱き合う夢をみるなんて。
あんな…

「ぼ、僕と保はただの叔父さんと甥なんだから!あんな抱き合うなんて…あんな…」

ぼっ、と先程の夢が脳裏に過ぎり、顔に火が点る。

保の30過ぎた鍛えたられた肉体が、夢の中でも出てきた。
無駄のない、鍛え抜かれた筋肉質な身体。


夢はよく願望を見るという。ということは…

「僕、保にあんな事されたかったって事?そんな…」

自分で言っていて、自分の言葉に呆然とする。

そりゃ、保の事は好きだけど!

それは叔父として好きな訳で。けして恋人の好きじゃない…筈だ。

保なんか変態エロリストだし。

でも。

「女の子のエッチな夢みるならわかるけど…保なんて…」

布団をはぎ、ズボンの中を恐る恐る覗く。
良かった。パンツは…汚れていないようだ。
朝から叔父とのエッチな夢をみて、パンツ汚すなんて洒落にならない。

保にもどんな顔して会えばいいか……。

「シンジー!」
「あ…」

バーン!と勢いよく開く僕の部屋のドア。
保だ。
今まさに保の事を考えている間に保が来るなんて……。

なんてタイミングがいいヤツ。


「変な絶叫聞こえたけど大丈夫か!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ、な、なん…」

勢いよく僕の部屋に入ってきた保。
それは別にいい。問題は……


「ななななな、なんでなにもきてないんだよぉぉぉ」

ドーンと堂々とし、何も着ていない保。いわゆる、裸、な訳で。

隠さなきゃいけないところも見える
そりゃあご立派なブツも見える訳で……。


「ん?どうした?シンジ?叔父さんのズッキーニが立派過ぎて、見惚れて」
「死ねー!」

このエロ親父がぁぁ!
思春期の青年に変なもん見せやがって。

ごちゃごちゃ言う保に片っ端から近くにあったものを投げる。

保は僕が投げたものをひょいひょいと器用によけ、またドアからでていった。

くそ、むかつく!








「シンジきゅーん俺の可愛いシンジきゅーん、超可愛いシンジきゅーん。マイリトルラバー」
「……」
「なぁーシンジ、機嫌治せよ。な?俺昨日急患が立て続けに入って汗かいたのに風呂も入れなかったんだぜ?それで家に帰ってらんらんとシャワー浴びていたらシンジの悲鳴が聴こえた訳で。
別に、服きてなかった訳じゃ」

リビング。
僕は用意した朝食を黙々と食べる。何やら必死に弁明する保は無視して。
保は無視する俺に必死にご機嫌を伺っている。
ちなみに、保は今はちゃんと服を着ている。

パジャマ、だけど。
灰色のパジャマをきて、俺の顔を伺いながら、ごめんっと手を合わせている。

叔父さんのくせに本当に威厳ないんだから。


「シンジー」
「もう僕に触れるの禁止!
喋るのも禁止!僕は普通の叔父さんが欲しかったんだからっ」

「シンジ…」

そうだ。あんな夢見ちゃうのも、普段保が僕に過度なスキンシップするから…

だからあんな夢見ちゃったんだ。断じて欲求不満なんかじゃない!
保と裸で抱き合いたいとか…そんな事思っていないんだからっ

僕は別に保にチューもぎゅうもされなくたって平気なんだからっ


「保なんて大っ嫌いだッ」
「ガーン」

ガクリ、と地面に膝をつけながら、大袈裟に落ち込む保。

保の背後には、まるで漫画ようにガーンって文字が一瞬見えた気がする。


が、無視だ無視!
僕は急いでご飯を食べ終えると、打ちひしがれた保を無視して学校へ向かった。



 



 …もしも、保じゃなくて普通の叔父さんが僕の叔父さんだったらどうなっていただろうか。両親がいなくなって、保の家に住まわせて貰ってから、度々考える。

もしも、保みたいに変態じゃなくって、常識のある人だったらって。

例えば、僕と保が他人同士だったなら…って。見ず知らずの人だったらって。

(保と、会えなかったら……)



「シンジ!おい、シンジってばっ」
「え…」
「どしたの?なんか辛そうな顔していたけど…」

いつもの教室。

友人の落合学が怪訝そうな顔をしながら、僕を伺った。


「え…あ…」
「すっごい深刻そうな顔してー。あ、今あの天才ブラックジャック叔父さんと喧嘩三日目なんだっけ?」

ブラックジャック叔父さん…。保は、世間ではブラックジャックと言われている。保はああみえて天才外科医だから。

 学の言葉通り、保に絶交宣言してから既に三日が過ぎた。保は保で、相変わらず僕に過度なスキンシップをしようとしているが、この三日、見事僕が無視しているせいか、ちょっぴり傷心気味だ。
ふん、少し反省すればいいんだ!

でも…、なんか僕まで気が晴れないのはなんでだろう。
なんだか胸がモヤモヤして晴れない。
保がぎゅうっとチューしてくれなくなってから妙に寂しくなったっていうか…。

毒されたのかな。


「しっかし、シンジもあーんなカッコイイ叔父さんいて羨ましいけど。
でもちょっと可哀相かなー」

学が頬づえをつきながら、ポソリと呟く。
今はお昼の時間なんだけど、学は既にお昼を食べ終わっていて、机には何もない。僕はまだ半分くらいお弁当残っているのに。


「可哀相?」
「うん。だってさ、やっぱり叔父さんは叔父さん、だろ。
シンジの両親じゃないんだから。あれだけのイケメンだったらこれからどこぞの令嬢と結婚するだろうしさ」
「結婚…」

結婚、と呟いた途端、胸がぎゅうー、っと痛くなった。胸がきつく絞られるような…。

なんか痛い。

紛らわせるように、お弁当のタコさんウインナーを食べるけど…やっぱり胸がキシリと痛んだ。

「血はいくら繋がっていてもさ。そりゃ、あくまで叔父さんな訳で、保護者な訳だろ。わざわざ忙しいのに引き取った訳だ。まだ独身なのにだよ?

兄弟でもない、親でもない。はっきりいえば叔父さんはいつでもシンジをきれるんだよ?」

「…切れる」

「シンジはちょっと贅沢すぎ!あんないい叔父さんがいながら」

学はちょっぴり語記を荒くまくし立てる。

保にとって、僕の存在はいつでもきれる。いつだって、僕を捨てる事が出来る。

その腕に僕じゃない人を抱いて、愛してるって、あの甘い声で囁く。

チューもギュッもその人のものになる。

保にとって、僕は他人になる……。

いつか、きてしまう未来

「ーヤダ……」
「シンジ…?」
「ヤ…ダヤダ…ヤダァー」
「!シンジ!」


ぐわん、と視界が歪む。
何だろう、頭が酷く痛い。

「シンジ!」

グラリ、と身体の力が抜ける。
…あれ…僕どうしたんだろう。

目も、チカチカして。

最後にちらりと見えたのは学のびっくりして泣きそうな顔。
 そこで僕の意識は途絶えた……ー。





ふわりと髪が優しく触れられた。

何度も何度もその手は僕の頭を優しく撫でていく。

ー気持ち、いい
ふわふわ、する。


「ん…」
「シンジ…」
「保…」

目を開けると、そこには保がいた。
学校にいたはずなのに、いつの間にか家に戻ってきている。

保…確か今日久しぶりのお休みだったのに。
もしかして学校まできてくれたのかな?


「保」
「…すまない。…駄目だったな、シンジに触れるのは」

保は僕が目を覚ますと、さみしげに苦笑し、髪を撫でていた手を引っ込めて、立ち上がった。

ーヤダ。

咄嗟に僕は、保の服の袖を握る。


「シンジ…?」
「…いっちゃ…ヤダ…。
側にいろ」


弱々しい、ちょっと泣きそうな、声。

どうしたんだろう、僕。
保なんか変態でアホでだいっきらいなのに。


「…ずっと、側にいろ…」


保が、僕の側からいなくなる事が。

保が、僕じゃない人を好きになるのが

堪らなく嫌なんだ……。
「大丈夫だよ、シンジ。叔父さんはずっとシンジといるから」

優しく、諭すようにいう保。

でも僕は頭をふり、小さくイヤイヤと、する。

だって、保がそう言いくるめてどこかに言ってしまう気がしたから。

掴んだ保の裾は離せない。


「シンジ、そろそろお前に薬呑ませる為にご飯作りたいんだけど」
「ご飯なんか、いらない…」
「でも、薬呑まないと。お前熱が出ているんだぞ」

ふ、と、目許を綻ばせ、保は僕の頭をぽん、と優しく叩く。

熱、出ているんだ。

だから、あんなに胸が痛くなったのかな…。

あんな…

「保、」
「ん?」
「だっこ、して…」
「え?」

ピシリ、と固まる保。
でも僕は尚も、言葉を続ける。


「ぎゅっ、って、して。
だっこ……。
保がしてくれないと…寂しい……死んじゃう」
「し、しんじ……」
「保がいないと…寂しいよぉ……」

ゆるゆると、涙が溢れる。熱で弱くなっているのかな。

保が僕に触るの、嫌だったのに……。


…嫌?


本当に、嫌……だった……?
僕は本当に、保が嫌いだった?

本当…に?


「保が…いないと…僕…」
「シンジ…」
「保ぅ……うぅ…。保…」

ついには、嗚咽混じらせながら泣き出した僕。

保はおろおろと僕を見つめていたが、突然、覚悟を決めたように真面目な顔をして、僕のベッドに入ってきた。


そして、僕の望み通り、背に手をまわし、ぎゅうっと抱きしめてくれる。

僕を、胸元に、包みこむように抱きしめて。

僕の、望むように優しい眼差しをくれる。


「シンジ…俺はずっと、お前の側にいるぞ…」
「結婚…ヤダ」
「結婚なんかしない。だって、シンジ以上に可愛い子はいないから」
「…捨てちゃ、ヤダ…」
「捨てない。捨てられない。
こんな可愛いお前を捨てたら他の人間にすぐ取られそうだ…俺は後悔しない」

優しく口許を緩ませ、微笑む保。

保の大きな身体にすっぽり収まる僕。

保は、僕の背に片腕を回しながら、片手はまた優しく髪をすく。

保の腕の中は温かい。
ポカポカ、する。

僕の、保。
僕だけの…


「保、」
「ん?」
「ずっと…一緒に…いてね…?」

普段、言えない言葉がするりと出た。

普段言えない言葉。
でも紛れもなく僕の本心。

保はピクリ、っと一瞬手を止め…

「あぁ……」

僕が大好きな笑顔で微笑んだ。