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空木が咲く前に 五十四

「……良かったのかなあ。良くなかったよなあ」

明はそう呟きながら、三杯目の茶を啜っていた。胡坐をかきながら暫く思案している様子だったが、俺が敢えて何も返さずにいるのをちらりと見て、一つ嘆息。そして両手を後ろにつき、天井を仰ぎ見た。

「なあ、五六四さん。分かっているんだろ?」

その問いにも俺は何も返さなかった。ただ、明のほうを見ているだけで、求められていることを承知の上で答えなかった。

「無視?なあ無視すんの?あー、悲しい!」

そう盛大に、いっそ芝居がかった様子で明は俺の膝の上に頭を預ける形で寝転がった。表情はまるっきり不貞腐れた子供のそれだったが、今となってはうすら寒く感じる。

「ねー、こじろーさーん?」

強請るように上目遣いで見られても、俺は応えない。ただ見るだけ。明の一挙一動が、表面上のものなのか、それとも本心から来ているものなのか、それをじっと見定める。それだけで十分なのだ。

楽しい。ああ、楽しい。

自分自身の応えなど必要ない。何もしなくとも明は道化のように演じてくれる。ころころ変わる表情は、初対面の時は鬱陶しい動作だと感じていたのだが、それが演目だと思えば愉快だ。

「……やっばいの分かっちゃったかもしれない」

そう困ったように呟く明に、俺はおやと思った。うすら寒くない。第六感にも似たそれだが何故か確信が持てた。

「あーあ、やっぱり。自分のこと分かるのは自分だけだもんなー。でも分かっちゃう人いるよなー。分類したがりって言うか」

明のその言葉に、俺はぱちくりと瞬きをした。うすら寒くないが、明が何を言わんとしているのか少しだけ分からない部分があった。

そんな俺をにやにやと笑いながら明は見つめる。少し待ってみたがそれ以上の動作はない。応えろ、ということだろう。

「……どういうことだ?」

ゆったりと間を持ちながらそう聞き返すと、明は俺の膝の上でニタリと笑った。策略、というほど大きいものではないが、勝ったと言わんばかりの表情だ。

「五六四さんが、耳の人ってことだよ」

「……耳の人?」

聞き慣れない、というより全く聞いたことのない言葉だった。単語自体はとても分かりやすいのに、それが何を意味するのかが分からない。もう一度聞き返した俺に、明はもう一度勝ち誇るような表情を見せ、ガバリと頭を起こした。

「俺たち木蓮の中でそう分類している人種だよ、耳の人ってのは。聞くことに特化した人間でありつつ、その真偽を直感的に分かっちゃう人。因みに今俺はどっちだと思う?」

「……」

応えようとしたが、俺は口を噤んだ。自分を省みたからだ。明の『言葉』には嘘を感じられなかったが、表情や口ぶりはうすら寒くて。そして−−そう感じている自分が『異常』だということにも。

頭が可笑しくなってしまったのだろうか。否、それより馬鹿になってしまったと言ったほうが正しいのだろう。自分に、他人の言葉や言動が本物かどうか分かるだなんて、分かったつもりでいたなんて、俺のほうがよっぽどうすら寒い。

口の中が気持ち悪い。粘っこく感じる。一番気持ちが悪いのは自分自身なのだが。明の言葉を肯定しそうになった自分を恥じながら、俺は明に返した。

「分からないな。全く分からない。お前が何を言っているのかさえ分からない。耳の人?訳が分からない言葉を出して俺をからかっているのか?」

少し矢継ぎ早になってしまったことを理解してしまい、余計に自分が恥ずかしくなった。

顔は赤くなってはいないだろうか。汗をかいてはいないだろうか。それを確かめるために、何気なく頬に触れると、ほんの少しだけ熱くなっていた。

明はそんな俺を愉快気に見て、ふふんと勝ち誇る。

「からかうならもう少し趣向を凝らすよ。−−ん?凝らさないほうが俺らしい?まあいっか。でも五六四さんの反応って当たりだろ?自覚あるんだろ」

ずいずい近寄ってくる明の瞳が、赤みを増している。にやついている口元は本当に嬉しそうだと感じた。否、違う、分かってはいけないのだ。そうは思うものの、俺は明から視線を逸らせない。

「視線は興味。俺の言っていることに少しは興味をひかれちゃってる?なら言うけどさ、五六四さんは異常だけど異常じゃない。真っ当な人間じゃないしいいよね?」

「何を言って……」

「忍びで、修羅場潜っている人には偶にあるんだよ、変な事が出来る人。ま、普通の人でもいなくはないんだけど」

「違う、俺は……!」

「ああ、ごめん。当たり前提で話すのが気に入らない?でもやめない。今も、五六四さん選別中だろ?目がぐるぐる移動してる。本当か嘘か、五六四さんが一番分かっているんだろう?」

「ちが……」

「ねえ、五六四さん。自分を一番理解できるのは自分しかいないんだよ。俺、嘘を言っているように見える?」

見えない。見えないから答えられないというのに、それをわかっているのに、こいつは、明は、無邪気に、楽しそうに笑っている。本当とウソが混じった、気味の悪い顔で笑う。明が昔話で語った言葉がふと脳裏をよぎった。『理解できるからこそ恐ろしい』という言葉が。

明はにこりと笑い、そのまま両の指で角を作り、がおお、とふざけた調子で言った。

鬼め。−−そう感じた俺の心情を的確に表すように。

「あはは、ふざけ過ぎたかな?で、こっからが本題なんだけど」

そう告げると、明はふっと表情を落とし、俺の手を、手汗にまみれた俺の両手を恭しく包み、嘘の全くない、『アキレア』の顔でこう言った。

−−俺の仲間に、木蓮にならない?

空木が咲く前に 五十三

「まあ、こういうことで」

明はそう言ってつまらなさそうに息を吐いた。夕暮れの赤い日差しの中なのに、明の顔色はほんの少し青白く見えた。

ふぅ、ともう一つため息が暗がりの室内に落ちる。今度のそれは玄のため息であり、その印象は明のついたそれとはまったく逆の色合いを持っていた。

満足、だろうか。情事の後につくそれに似ているように感じた。

実際に玄は口尻をにやりと上げていて、目元には色がにじんでいた。

「いやはや、そうか、そうですかい。赤鬼がまさか人工物だったとはねえ。これはこれは」

玄はくつくつと愉快そうに笑い、くるくると手首を回した。

「しかし、相変わらず赤の言葉は足りないものばかりだ。真座のお方とはまったく逆だねえ。いや、客商売のときと逆と言うべきか。これはこれは」

くるくる、くるくる、と中途半端に開いた手のひらが回る。

嫌な動きだ。拱いているような、手繰り寄せているような、嗜虐者の動きだった。

玄はくるりくるりと回しながら、じとりと明の顔を見やる。

「聞きたいことが幾つか。さっきも言いましたが、赤の言葉が足りないと感じたそのせいですからね。まず、名前はいつ捨てなすった?」

「いつ……っていつだろう。大人の中にすっごい訛った口調の人がいて、その人から面白がるように広がって……。剛さんもそう呼び始めたから俺もそう名乗りだした感じ、かな。いつと言われれば、三つ目の刺青の頃かな」

そう答える明の声には、いつものような抑揚がなかった。目元にも溌剌とした力がない。

しかし、明から力を感じないわけではなかった。例えるなら研ぎ澄まされた切っ先。それを抜き身で携えているような、そんな威圧感がある。俺は知らぬ間に手のひらに汗が滲んでいたことに気がついた。

何故明からそんなものを感じるのだろうか。明の過去は、凄惨だったがありふれた話だ。芝居小屋にでも行けばもっと涙を誘うような、痛みを感じるような話がありふれている。なのに何故俺は明を心底恐ろしいと感じているのだろうか。

蛇が住む穴倉が目の前にあるような感覚だ。明の琥珀色をした瞳が、蛇のそれと重なる。

「そうですか、それは何ともまあつまらない経緯で」

「まあ、玄さんはもっと物語がある経緯のほうが好きなんだよな。でも真実なんてそんなものだよ」

真実。真実と言ったのだろうか。もしそれが真実で真実なのだろうか。

「赤、もう一つ、もう一つだけ教えてくれないだろうか」

玄は蕩けているような惚けているような、何ともだらしない顔で強請る。やめてくれ、そう叫びたかったのだが、動けない。言葉を重ねていくたびに、明から発せられる鋭利な気配が重くなっていく。玄もそれに気付いていないわけではないだろう。なのに、質問を重ねる。穴倉の蛇に、刺激を与え続ける。

明の琥珀色の瞳が、わずかに赤みを帯びていく。緩く力を抜いた瞳が、気味の悪い月の様で。

ぞくり、と背中に冷たい物が走る。なのに何故だろうか。腹の奥が燻るような、そんな熱さも同時に感じていて。

それはきっと玄が求める物と同じなのだろう。

「もし、もし、お前の語った剛さんがここにいたとして、それが任務に支障を出すものだと知っていて、赤は、お前は、命があれば、俺を、殺すか?」

それを聞いて明は一瞬キョトンとした顔になった。

やめろ、そんな白々しい顔をするな。

そう思いながらも、ジリジリと腹の奥は燻る。

明の表と内側がブレる度に、火の粉が舞って、臓物が、喉が、脳みそに火が付く。

明はそんな俺を一瞥さえしようとせず、朗らかな、咲き誇る花の様に笑った。

「当たり前だろ、殺すわけないでしょ!」

その時、俺の中で火柱が燃え盛った。ごうごうと燃えるそれは、行き場のない熱さで俺を焦がす。

明の語った過去は事実かもしれない。しかし、語ったその人物からの作為は無かったのだろうか。

訳が分からない。この考えは自分だけの妄想かもしれないし、実際のことかもしれない。しかし実証が出来ない。

ただ、確実にいえるのは、この中で誰かがまともではないと言うことだ。

下卑た笑いを零す玄かもしれないし、にっこりと笑う明かもしれないし、若しくは、俺自身がそうなのだろう。

ふと乾いた笑いが零れた。からからと、小さな笑いが室内に小さく響いて。

ああ、壊れている。しかしそれの何たる甘さか。

目の前の二人がどんな心境なのか知らないし分からない。しかしそうであることが、一歩引いているこの身であるからこそ、滴り落ちる密を受けることが出来る。

「では」

喉が酷く渇いていた。それでも言葉は紡がないといけない。紡いで、自分から話を一刻も早く離さないといけない。蜜が足りない。

「明の話が終わったようなので、俺のあらましを。俺は双子の弟が奴隷商人に捕まって、傍に居るために俺も奴隷商人に捕まった。その場所が木津坂の麓。開放されたのは月丸に助けられて、だ。これでいいか、玄さん」

手短に、手早にそう告げた。

にぃ、といつの間にか口の端しが三日月のように上がっていて。俺は酷い高揚感で満たされていた。

炎の熱さと、甘露の味が、喉を焦がす。楽しい、と。何故か心からそう思っていた。

言い終わってから玄に視線を向けると、玄はひくひくと痙攣しながらだらしない笑みを浮かべてぐらりと傾いだ。

ドタリと倒れる玄に、明は人間味がありそうなため息をつくと、困った顔で此方を見た。

「玄さん、キメ過ぎるとこうなるんだよね。……なんだろう。俺たちの過去って麻薬か何かなのかなあ」

眉を八の字に下げる明に、俺はふと笑って返した。

「俺にとってもそうだったよ」

どうしてそう感じるのは分からなかったけど、「何だよそれ」と今度は本当に困ったように笑う明に、そうなのだろうな、と俺は一人小さく呟いた。

空木が咲く前に 五十二・下

「小僧、文字は読めるか」

剛さんはそう唐突に言った。何故そんな事を聞かれるのか、真意は分からなかったのだけれど、俺はただ、この人にだけは嫌われたくなくて、それでも嘘をつくことも出来なくて、遠慮がちに首を振った。

「まあ、そりゃそうか」

郁子もなし。そんな感じだった。

「それなら、ああ、そうだな。ああ、そっちの方がいい。お前には、まず考えるということを教え込もうか。空っぽに小手先の知恵をやっても所詮小手先だからな。名前は何だ」

「あ、あきれあ」

言葉を口にしてから、俺は自分の舌が酷く縺れている事に気が付いた。最初の発音を二度繰り返すつもりは無かったのに、一度に単語が出て来なくて。そして自分の名前なのに、酷く懐かしい気持ちになった。

「そうかそうか。外つ国の名前か」

「外つ国……?」

「山を越え川を越え海を越えた先にある、お前の故郷だ」

「こきょう……?」

「ふるさと、とも言うな。どちらでもいい」

「こきょうとふるさとって、なに」

「意味を問うか。良いぞ」

そう言いながら、剛さんは愉快そうにくつくつと笑った。

「故郷は、生まれた場所であり、育った場所であり、血や魂が本来在るべき場所のことだ」

「……よく、分からない」

「分からない、じゃない。分かろうとしろ。思考を止めるな」

「っ……!」

大きな声ではなく寧ろ今までより静かな大きさだったが、強い言葉だった。それは、剛さんの内側の強さを表しているように思えた。

俺は膝の上でぎゅっと拳を握りながら、靄のかかった頭で必死に考えた。何故剛さんは、こんなに強い声で俺なんかに告げるのか。不思議で不思議でならなかった。

故郷。外つ国。

昔、父親が穏やかに語ってくれたその場所。色んな色があることが珍しくない場所。ここよりも自分たちには優しくて、ここよりも少し乾いた土地。

「受け止めてくれる場所……?」

細い声だった。いっそ蚊の鳴くような声と言ってもいい位の声だった。それなのに、ふわり、と何かが広がる感覚が胸にあり、俺は瞼に込めていた力を、少し弱めた。それだけだったが、世界が少しだけ、広く感じられた。

そんな俺に対して、剛さんは半眼になって「そうかそうか」と小さく呟いた。



それからの日々は、体力の勝負だった。

日の出より少し前に目覚め、大人たちの為に山を少し下った川から水を汲む。水は生活の基本で基準だったので、多ければ多いほどいい。食事にも、普通の水分補給にも、顔や体を洗うのにも使う。流石に風呂というものはなかったが、もしあったら俺の一日は水を汲んでくることだけで終わっていただろう。ほとんど獣道のような山道を、肩に渡し木をして桶を二つかせぎ、頭の上にも一つ桶を載せて三往復。

この仕事は最初からさせられていたわけではなかった。逃げられるかもしれない、ということで俺は一定の範囲の山道しか教えられていなかった。山賊の山道というのは巧妙に作られていて、道沿いに歩いているだけだったら、気づいたら同じ場所を回っていたことがあった。

俺が水汲みをさせられ始めたのは、逃げないという確証が大人たちに芽生えたことよりも、剛さんがそうさせろと命じたことによるものが大きい。その頃、俺はやっと大人たちの中にも順位というものがあることを知った。一番上が剛さんで、次がその息子の都。その下は力の強い順だったり、年の順だったり。規則性があるようでない。大人というものはとんと不思議だった。


しかし、不思議だった、で終わることは出来なかった。剛さんがその次を求めてくる。考えろ、と口に出して言う。それだけで俺は必死になって思考を巡らせた。巡った先が『剛さんの答え』と合わなかった所で、やっと答えを得られる。こういうものだ、と教えられる。

その頃の俺にとって、世界の中心は剛さんだった。剛さんが求めれば人は殺すし、脅すし、わざと捕まりもした。水攻めも棒叩きも、辛いには辛かったけれど、剛さんのこげ茶の瞳を思い出せばそんなこと些細なことだった。

あの瞳を正面から見たい。見られたい。映りたい。

そのためなら、化け物のような真っ黒な瞳の持ち主にどうされようと構わなかった。追放の刺青だけですむために伽もしたし、やっぱり殺しもした。祟りが起こるぞ、と教えられた言葉を、教えられたように笑いながら言いもした。

俺はそういったことを繰り返して、その度にあの山に戻って、剛さんに抱かれた。剛さんの稚児、と周りの大人から呼ばれ、ぶたれることは本当に少なくなった。ただ、稚児という言葉の意味を、最後まで教わることはなかったのだけれど。

そうやって日々を繰り返し、季節を過ごし、色んなことを知るようになって、それでも俺は表面しか出来上がっていなかった。剛さんに鍛えられた、鋼鉄のような表面は、今になれば薄っぺらいのだけれど、逆にそれが恐怖を与えていたようで。いつしか俺は、剛さんの作った赤い髪の少年は、その山を下った街道の坂でこう呼ばれていた。木津坂の赤鬼、と。そう呼ばれていた。

空木が咲く前に 五十二・上

昔の俺は、普通の子供だった。

赤い髪と、琥珀色の瞳、それから他の子より大きな体。そんな外見的な事以外は、本当に普通の子供だった。

その子供の名前はアキレア。外つ国の花の名前で呼ばれ、その花言葉の通りに逞しく生きて行く様に想われていた。子供はそう信じて疑って居なかった。

その子供の父親は、子供と同じ赤い髪で。母親は子供と同じ琥珀色の瞳で。外つ国の者と隠せない風貌で、生き様も外つ国の者の普通だった。

子供の両親は、商人の子供として育てられ、拉致されて、見世物小屋で生きていた。今語った事の全てを知ったのは、子供が十になる頃だった。

いや、それはどうでもいい話だったな。

ああ、それで、子供もその風体だ、当たり前の様に足に綱を繋がれ、夜になると檻の中で、物珍しさと、畏怖と、ほんの少しの哀れみの目を向けられて育った。

しかし、子供はそんな暮らしに疑問も不満も持っていなかった。知らなければ不幸ではないというやつだな、その子供には、同じ頃の同じ境遇のトモダチがそれなりにいて。大人たちは変な匂いのする食事を与えられ、狂った様に子供を生み続けていて。子供が唯一不満に思っていたのは、特に綺麗で可愛らしいトモダチが、狙われる様に何処かに連れて行かれて、帰ってこない事だった。今思うなら、売られていたんだろうな。どこと言わず、誰と言わず、普通に外つ国の血を持つ子供として。

そんな日々が続いて、とうとう俺の番が回って来た。実際に山で引き渡されるその時まで、俺は売られるだなんて思ってもいなかった。

「前兆は無かったのですかい」

そう言えば、あるな。その数月前から食事が増えて、その分縄が届く範囲をぐるぐる走らされたり、重い荷物を運ぶ役になったり。体作りをさせられていたのだと思う。

でも、疑問には思わなかった。疑問を疑問と思っていなかった。そういう子供は何人かいて、俺もその中の一人だと思っていたから。まあ、全員売られたのだろうけど。

各地で鬼が出たと言われる事があるだろう?多分、似たような境遇の奴らだと思う。

「そうですかそうですか。さあさあ続きを。感傷に浸らず、ありのままを」

相変わらずだな、玄さん。

それで、山の……見晴らしがとても良かったから頂上辺りだろうか。そこで俺は売られた。

ーーその日からは地獄だったよ。

まず、獣の殺し方を、何度も教えられた。

罠、弓、小刀。

手段は段々直接的になり、それを捌くことが仕事だった。

一つ間違えれば一つぶたれ、二つ間違えれば二つぶたれ。

暴力だけは無縁だった生活を送ってきた俺は、ぶたれることを極端に恐れた。まあ、ぶたないよな、見世物小屋で商品をそうしないよな。

そんな日々が続いて、俺は簡単に獣を殺す方法を知っていった。首を掻き斬るのが一番だった。脳天を突くのも、大きいやつにはやった。そしてその獣を気に吊るして、血を落としきってから捌いた。その肉は大人達に奪われ、焼かれ、胃の中だ。

気まぐれのように、大人は骨についた筋張った肉……軟骨と、その近くの少しの肉と言われるものを俺の方に放った。砂がついていたが、俺は構わずそれを貪った。それを見て大人達はゲラゲラ笑って。しかし生きるためには必要なことだというのは分かっていたし、この上ない空腹に苛まれていたから。俺はそれを繰り返した。

繰り返して繰り返して。それだけを何度も繰り返して。何のためかも知らず繰り返して。周りの大人たちと目線が近くなった頃俺は、初めて人を殺した。

その時になって初めて知ったよ。売られた先か山賊ということを。

山道を行く商人達を、俺は、道の真ん中に立って通れなくして。

ピュイと鳴った口笛が聞こえて、先頭の一人の首に小太刀を突き刺して、凪いで、次のやつは首にできなかった。刀を持っていたから。だからそいつは足の筋を切って転ばせた。大人たちは、そばにいたけど見ているだけだった。俺の頭には、切ることと、殴られたくないということしかなくて。切って、切って、切って切って切って切って。動かなくなるまで切って。

一人二人逃げられたけれど、素晴らしいことに一番油の乗った若い男だけは腰を抜かしていて、荷車に隠れるように体を丸めていて。

俺はこいつを見つけて、どう思ったと思う。


美味しそう、だ。


脂身というのは、頭をとろけさせる。処理をきちんと行えば生臭くなることもない。イノシシなんかはそれが顕著だった。

俺は、荷車から縄を探し出すと、腰を抜かした男の両足首を結び、手頃な木に吊るした。そこで隠れていた大人たちがざわめいたが、構わず作業を続けた。何事かを喚き続ける男の首を、真一文字に切り裂いた。

それから、大人たちは、荷車を漁り始めた。ギラギラと厭らしい光を放つ物を、もっと厭らしい顔をして大人たちは持って帰った。その間、俺は血抜きが終わるのをただただ待っていた。ポタリポタリと落ちる赤色が止まるのを待っていた。

大人たちの半分程が帰った頃、血抜きは終わった。小太刀を抜く俺に、大人の一人はおい、と声をかけた。それをどうするつもりだ、と。

俺は言った。

「これだけ大きければ、少しだけ肉をちょうだいな。お腹が減ったんだ」

その言葉に、大人は目を丸くした。何故そうするのか分からなくて、俺は、そのお願いは聞き入れられないのだと解釈し、でも切れ端くらいは貰えるかもしれない、と既に息絶えた小太りの商人の腹に、内臓を傷つけないように小刀を突き立て、ズズズ、と腹を開いた。

「やめろ!」

大人はそう叫んだ。俺は零れていく内臓に目じりが上がっていて。

俺は緩やかに狂っていた。今ならわかる。あの時は、何も分かっていなかった。

肉は肉。嫌いなのは殴られること。大人は絶対。高くなった目線でも、それ以外のことは見通せていなかった。

それから俺は、一番嫌っていた『大人からの暴力』を受けた。殴られて蹴られて。気狂いだ、鬼だ、餓鬼だ。そんな言葉を浴びせかけられながら。その時の俺は、それがなぜなのか、全く分かっていなかったのだが。

その次の日、俺は山の中腹にある洞窟に連れてこられた。訳が分からなくて、でも逆らうことも出来なくて。心臓がバクバクといっていたことを強く覚えている。

天然のその洞窟は、大人三人が横に並んで歩けるほど大きく、いくつか枝分かれしていて、ぐねりぐねりと蛇のような洞窟だった。

その最奥に、その人はいた。

換気をしていないせいか酒の匂いが強く、獣のような匂いがした。

「おい」

最奥にいた男は不躾にそう声をかけた。俺はその重く響く声に体を跳ねさせ、肩をすぼめながらかさつく唇を震わせた。

「おい、と言っている。耳が聞こえないのか?」

怖い。怖い怖い怖い。俺の頭の中はそれでいっぱいだった。これなら狼の群れに突っ込めと言われる方がどれだけ気が楽だろうか。最奥にいる男は、大人だ。大人は怖い。俺の頬を、腹を、とても嫌な音を発しながら殴る。目の前の男は、そんな大人たちの中でも一番強い声を持っていて、寒くなく、寧ろ熱いくらいの日和なのに俺はガチガチと奥歯を震わせていた。

「おい、小僧」

男の声は、空っぽの腹によく響いた。それが尚更怖くて怖くて。真っ白な頭で何故と考えたが、結局何も思い浮かばず、俺は只々小さくなった。

そんな俺にどう思ったのか、男は一つ嘆息し、もぞりと動いた。顔を上げられなかったからどういう顔をしているのかとんと分からなかったが、反射的に俺はまた殴られると考え、体を掻き抱きながら震える声で、

「やめて、殴らないで、やめて」

とだけ何度も繰り返した。

人を殺しても、食べようとしても、何も感じなかったのに、俺は自分だけが可愛くて、自分だけを守ろうと言葉を紡いだ。……滑稽だよな。あの時の俺は、親も兄弟もトモダチも、全部捨てても惨めに生きようとしていた。人ではなくなりかけていたのかもしれない。だけど、あの人はそうはさせてくれなかった。

「虚ろ、だな。否、そうさせていたのは俺か。そうかそうか」

かつかつと笑いながら、その人はぐいと俺の長い前髪を掴み、前を向かせた。その時、パチンと何かがはじける音が聞こえた気がした。俺と同じくらい長い髪の毛の隙間から、かがり火の反射でその人の瞳が、薄く、鮮やかに煌めいた。

「くろ、じゃない……?」

それだけ。たったそれだけで何かが壊れた。懐かしさから来るものなのかもしれない。だけど、何を考えているか分からない黒ではないことが、俺にとって何よりも心を動かした。

しかしその人は、一つ瞬きをすると濃い色の瞳に戻っていた。

でも、黒ではない。濃いけれど黒じゃない。光の差し込む加減で出来た一瞬の輝きが、俺に何かを取り戻させた。それはとても小さな欠片だったが、それでも、人である何かを取り戻した。感情と言う、欠片を。

その人は……剛さんは、にたりと笑って俺の何かを「いい色だ」と言い、満足げに頷いた。

「空虚から来る恐怖なんて安っぽい。奈落の底まで何もないなら大した恐怖だが、お前には恐怖と言う物で詰まっている。それじゃあ怖くない。だから俺はお前に物を詰め込む。共感しつつの恐怖は何物にも勝る。同じものを持っているのに違うことは恐怖だ。理解できるからこそ怖い。近いからこそ怖い」

そうさせてやるよ、赤い鬼の子。

遅ればせながら元旦イベント

「はい始まりました新しい年が!!!!!!!!新年あけましておめでとうごっざいまっす―――――――――!!!!!!!」

「ちょ、お兄さんテンション高すぎない!?」

「いいんだよイベントものなのだから!!!!!!!!久々の登場なのだから!!!!!!!!全てがオールオッケーなのさ!!!!!!時代背景に基づいた言葉縛りもなし!!!!!ヒャッホー!イベントってのは素晴らしいねえ!!!」

「狂ってる〜……」

「黙らせるか?お嬢様」

「ネタバレしないでよ〜……まあどっちでもいいけど。て言うか何で男連中は隅で暗くなっているの〜?」

「確定した闇落ちと、確定した黒歴史発表と、確定したトラウマ抉りがあるからではないですかね?というかせめて私の存在を男と認めてくださいよ」

「宿木さんはちゃんと男の人だよ、元気出して?……って、包帯だらけ!?」

「顔ぐっちゃグチャになっちゃいましたからね。ねえ、月丸さん?」

「うぐっ」

「消えないでしょうね?これだけ抉られたら。一生包帯巻で過ごさないといけないかもしれませんねえ」

「ぐはっ」

「や、やめてよ宿木さん!月丸息してない!!」

「ぷー。この程度で沈むだなんて」

「この嬉しそうな顔である。流石宿木ちゃん」

「ねえ、そう言えば、その抉り抉られの時、なんで月丸は蜘蛛の巣に囚われたようになったの〜?普通に張っているだけだったらぶつかって終わりじゃない〜?」

「おや、気になるのかい?」

「気になるけどおっさんには聞いてない〜」

「格差社会!!!!」

「でもまあ、考案したのは真座なのですよねえ。けっこう簡単ですよ?張りつめた所と、揺れるほど長いところ。それをランダムに配置しているんですよ。すぐ下がれば軽傷ですが、お冠な人だと、状況が把握しきれず兎に角もがく。すると蜘蛛の巣に囚われたようになるんです。さっきも言いましたが、冷静な人には効きませんがね。そう言う人には足元や首元に一本設置するのがお勧めです☆」

「……ここで種明かしするってことは、本編の私たちは知らないままって事〜?」

「はい、知らないままですね。ここ異次元みたいなものですし」

「むかつく〜」

「梟さん……宿木さんばっかり構わないでよ」

「あ、生きている屍が復活した!」

「矛盾してるよしのぶちゃん!まあ、否定はできないけど。ねえねえ梟さん、俺がどんな人生送って来たのか知っても俺の事捨てないでくれる?ねえねえ梟さん、梟さん」

「あ〜、うざ〜」

「まあまあ。玄さんと五四六に言うだけでしょ?そんなに落ち込まなくても……て言うか落ち込むような過去?」

「いや、五四六さんの言葉を借りるなら、今が今だから。過去が変われば、今この俺はいないわけだから。過去が違うなら、俺じゃない俺だから。だから後悔はしていないけど、その……怖いんだ。知られることも、だけど……、うん、まあ、ネタバレになるからいいや」

「やめてそれ一番気になるやる!!」

「て言うか、知る知らないって言われたら、私も過去話してないじゃん〜」

「そう言って目を伏せた彼女は、言い例えようのない不安が心に広がっていった。全てを語り合うことが善とは限らない。その場だけの関係でいいと思っていた。しかしこの胸に広がる感情は何なのだろうか。そう、彼女は初めて嫉妬という感情を知っt」

「長い!違う!」

「そう言いつつも彼女の顔は赤に染まっていた。それはどこから来る感情なのか……痛いっ。知られたくないという羞恥なのか、それとも……あ、やめてやめてそこは駄目だよ梟ちゃん!!お兄さんのお兄さんが機能しなくなる!!!」

「このままEDにでもなれば〜!?」

「そ、そろそろやめようよ二人とも」

「いいんだよしのぶちゃん、これでいいんだ……」

「なんで悟ったような目なの明さん!?」

「え、だってしーさん喜んでるし。後、絡みが少なすぎてウザがらみしか出来なくなっているんだよ。生暖かい目で見てあげよう?」

「ああ……」

「やめて!図星つらい!」

「てかなんで私に絡みに来るの〜?うっざ〜い」

「卍固めしつつも羞恥心なしで容赦なく締め付けてくる梟ちゃんが好きだからです!」

「しーさん本音は?」

「しのぶちゃんだとガチ引きで終わりそうだし暮麻ちゃんだと肯定されそうで怖かったからです……」

「素直か」

「……うん。寂しかった。早く本編に混ざりたい」

「素直すぎて怖い……っ」

「よしよし、怖がることはありませんよ、しのぶさん。さて、ボッチは放っておいて屍さんたちを起こしましょう。異次元のイベントですし、まだ傷は浅いでしょう」

「う、うん」

「屍と言うな……しのぶも同意しなくていいんだぞ?無理をすることはない」

「無理は、して……あ、ううん、してるしてる!してるからね!」

「やばいこの月丸さん本編引きずってる!」

「エゴの塊なヤンデレ三十路……ぷぷぷ〜、しのぶちゃんも変なのに好かれたよね〜」

「寧ろまともな人が周囲にいないような……」

「自分も含めてですよね、もちろん。ね、明?」

「ひぃ!?ごめんなさいごめんなさいお願いだからそれ以上近づかないでください宿木様!!」

「はい、よろしい」

「……私、明さんには悪いけど、木蓮に来るまでの波乱万丈より、木蓮に来てからの波乱万丈が気になる」

「私はどっちでもいい〜。てか月丸放置しているよしのぶちゃん〜」

「に、にやにやしないでよ梟さん……今ガチ目に月丸怖いんだよ」

「へ〜?月丸〜、しのぶちゃん月丸の事怖いんだって〜。どうする〜?」

「こ、こわ、い……?俺がか?なあしのぶ、俺の事が怖いというのか?(※精神安定を図りたい方は月丸のこの台詞はさらっと流して次のかっこに移ってください)はは、しのぶが俺の事怖いなんて言うはずがないよな。俺はしのぶがまだふらふら歩くころから知っているんだ。その頃からしのぶは俺の事を慕ってくれていただろう?いつも俺の後をついてきて、朗らかに笑っていたじゃないか。あれは四つの頃だったか。悪夢を見たと言って俺の寝床にすすり泣きながら入ってきたときは、この上ない庇護欲に駆られたものだ。小さな紅葉のような手で俺にしがみつき、声をかけ続けると次第に眉間の皺が消えていってな、その時だ、俺が守ってやらないとと強く思ったのは。それから俺はしのぶを何からも守ってきた。邪な考えを持っていたガキには天誅を。確かな敵意には自分の体を擲ってでもしのぶを守ってきた。こんなに大切にしてきたんだ。これはもう俺の物だと思っても仕方のない事だろう?ここまで忠告に反して読んでくれてありがとう。読者は神様です」

「……十文字以内で」

「しのぶが可愛いから俺の物」

「オーバーしてるじゃん!どこまでも型破りだな月丸さんは!」

「か、型破りか?普通だと思うが……」

「ヒーローポジなのに、月丸闇落ちしたよね」

「う」

「しかも理由が一回り位小さい子に懸想してて、しのぶちゃんが世界を広げようとしていたからだし〜?」

「あ」

「まあ、うん。気持ちは分からなくもない。でも、宿木さんの顔を傷つけたのは駄目だよな。唯一綺麗な場所だったのにな」

「え」

「頼む、昔の優しかった月丸に戻ってくれ。なあ、六三四もそう思うだろ?」

「うん。今のままはちょっとドン引き」

「ぐ……」

「あ、月丸君倒れたよちょっと!」

「ざwwwwwwwまwwwwwwwwwwwwwwwあwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「これは師匠でなくとも大草原不可避。これが愉悦か……!」

「五四六!?変な世界に目覚めていない!?」

「……ごめん、な」

「なんで明が謝るの!?どういう事なの!?また月丸みたいな大事故起こるの!?俺嫌だよ!?」

「六三四、お前も此方へ来れば分かる。……ふ、くくく……!」

「やだ、俺、認めないから!!これ以上の大事故認めないから!!!!」

「ここに居る時点で事故もしくは大草原不可避じゃろうwwwwww観念不可避wwwwwwぶふぉおwwwwwwwww」

「……ねえ明さん」

「ん、なに?しのぶちゃん」

「もしかして師匠も?」

「うん。出番なさ過ぎて絡み方分からなくなっているね」

「……師匠さん、明くんだ!絡め!練習台にしろ!!!!!」

「ふぉっふぉっふぉっwwwお前に指図される程落ちぶれておらんわwww
でもそれはいい案じゃのう!赤よ」

「ふぁい!?」

「梟の具合はどうじゃの?」

「ぶふぉあ!?ちょ、お師匠さん何言ってるんすか!?」

「ちょっと、それセクハラだよ糞爺

「そうだよ、いくら耄碌ジジイでもそれはないよ!女の子の敵だ!」

「しーさんは男でしょ!?」

「寧ろおっさんだよね

「え、お兄さんはおっさんなの!?明さんよりちょっと上くらいじゃ……」

「あーーーー!!!!やめて!!!!しのぶちゃんには隠していたんだから!!!!!」

「しーさん、それ肯定しているのと同じだ」

「あっ」

「本当に絡み方忘れていますねぇ。真座ともあろう人が」

「この楽しそうな顔である

「梟ちゃん僕の台詞取らないで!」

「なんか、お兄さんって最初はラスボス臭してたのに、イベントをして行く度にヘタレっぽくなってるよね」

「なん、だと……!?」

「さらに言えば、宿木のラスボス臭はんぱないよね?」

「いや、梟さん。幼児化するラスボスなんて聞いたことない」

「やどちゃんは宿木どのとは違うが?」

「まあ、同一人物とは思えないよね、本当」

「おやおやおやおや。そんなことを仰るなんて私は悲しいですよ、しのぶさん」

「わわわ、宿木さんとやどちゃんの中間きた!?」

「やぁどぉりぃぎぃぃぃいいいぃいぃいいい!!!!」

「わ、月丸!?」

「月丸ゾンビktkr」

「ダークサイド月丸くんだ!皆のもの、行くぞ!まずは明くん!」

「え、あれマジでやるんすか?俺としてはおkっすけど。はい、これみんなもって」

「ちょ、これってクリームパイ?面白そ!」

「よし、第一陣行くぞ、続け!」

「はーい!」

「月丸殿……天誅!」

バベチャーン

「面白そうだから俺も!六三四、行きまーす!」

スパべチョーん

「明、両手持ちあり?ありなんだ、じゃあ両手で!」

ズバズバーン!

「効果音ヤバスwwwwww」

ドバン

「ああ、俺もクリームを泡立たせられたのはこのためなのだな。くくく……」

ドッベーン

「ああ、壊れ行くものは美しいねえ。じゃあ月丸君、大口開けて受け取ってね☆」

ベッシャ―ン

「や、やめてよ皆!月丸窒息死するよ!?」

「ねえしのぶちゃん。忍びが一分程度呼吸出来ずに死ぬって事案あったことある?」

「ないけど!!!!ないけど!!!!!!!」

「いや、言いたいことは分かるよ、しのぶちゃん。でも、アイドルに対してヤンデレ発動させて闇落ちしたヒーローには我に返ってもらうしかないんだよ。荒行事でも仕方ないんだよ」

「いや、あの月丸は正直どうにかなってほしいけど、それは直ってほしいというか良くなって欲しいという意味で、故障した機械をぶっ叩いて直すようなことじゃないの!!!!」

「……だってよ、月丸君?」

(返事がない。唯の屍のようだ)

「月丸――――!?」

「ぶっふぉwwwwwwwww情けないのうwwwwwwwwwww」

「そりゃあ思い人から言外におかしいって言われたら沈むよなあ」

「え〜?私は割と嬉しいけど〜?」

「うん、俺はおかしい梟さんが大好きだから、俺もおかしいのかな?」

「明って本当に馬鹿だよね〜」

「しかし割と嬉しそうですよね、梟さん」

「宿木さん、これ以上梟さんに近づいたら俺怒るからね」

「ふ、ふくく……これは楽しい」

「ねえ五四六。愉悦ってそんなにいいの?」

「いいぞ。一歩引いている身だからこそ楽しめる」

「そ、そうなんだー……」

「ふう。まあ皆との会話も楽しめたし、いじ……成敗も済んだので、今年は頑張っていきまっしょい!ってことで、皆!」




『あけましておめでとうございます!』





「亀更新だけど、キリがいいところまでは続けるつもりなので、よろしくねー!というわけで、姫初めだ暮麻ちゃん!」

「え?あ、ちょ、店主、アッーーーーーーー!?」