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日記とお知らせとイベント告知

最初にまずお詫びから。

最近更新が亀を超えていて申し訳ありません。

実は、とあるゲームサイトのイラストレーターとしての試験をうっかり受かってしまい、其方の方に専念しておりました。

チキンハートは相変わらずで、其方の方にしか頭が行かず、頭の中に文章が浮かばない上に、浮かんだ文章を形にする心の余裕がなくて、最近少し慣れてきたので更新を再開させていただきました。

ぶっちゃけ筆遅すぎてそんなに描いていないのですがねw

でも、「ああ、この時間の合間に書けばいいんだ」というものを見つけて、それが今なのですが、そういう風に再開しております。

これからイベントも待っているので、亀更新には変わりありませんが、終わりに向けて少しずつでも更新していきたいと思います。


それから、イベント告知です。

空木が咲く前にがパート50を超えたので、記念に何かやりたいと思っております。

まだ何をするかは決まっていないので、コメント欄にでもリクエストを頂けたら幸いです。

コメント無ければ、多分趣味に突っ走る感じですかね。おお怖い怖い。

一応、候補はあります。キャラの過去は本編では殆ど出ていない上に、本編で組み込めるか分からないので、SS形式で書いてみたいなという物はあります。

誰にするかはまだ未定です。最悪の場合、アミダでやるかもしれません。リクエストするなら多分今です。

お借りしているキャラもいますので、その方からはある程度の設定を頂いております。ちゃんと保存しております。と言うか、二次創作にオリキャラ突っ込んだ物なので、もう、本当、自キャラでどうにかしたいなという考えはありまして……。

書かせて頂いているキャラは、しのぶちゃん・月丸さん・梟さん・六三四さん・五四六さん……あと師匠ですかね。はい、殆ど二次創作です。メインキャラ殆どお借りしております。ぶっちゃけ交流なくなった方ばかりなので、強制終了と言う考えもあります。申し訳なさ過ぎて泣きたいです。

なので、一応踏ん切りのいいところまで行ったら終わりになります。その後は、全く別のオリジナルを書きたいと思っております。 


コメントお待ちしております。切に、切にお待ちしております。

空木が咲く前に 五十

パリン。ぱりぱりぼりぼり。

「むぐ……、んん。おひゃとっれー」

「取って、ではなく入れて、だろう。急須が空じゃないか、全く」

はあ、と息を吐いて月丸は立ち上がる。階下にある調理場までお湯をもらいに行くのだ。いくら宿屋と言えど、お茶が無くなる頃にそれとなく運んでくれるような一級なところではない。まあ、今はそう不自由も感じていないのだが。

家にいるときと、何も変わらない。ゴロゴロしながらお茶と煎餅を口にして。ご飯は時間になればいい匂いと共にその時間を知らせてきて。

それもなんだかなあ、と思いつつ足を崩したまま周りを見渡す。

部屋は大部屋のままで、贅沢とは思いつつも、宿木さんはいいんじゃないですか、って笑って。

昨日よりも大きく見える室内に、私はどこからか分からない寂しさを感じていた。

「私だけ休んでいてもいいのかなあ……」

そう呟いてそろりと立ち上がった。そのままぽてぽてと廊下を進み、二つ隣りの小部屋の前にいた。

どうしてここに来たのか分からないけど、きっとそれは寂しさからだろう。

「や、宿木さん、入ってもいい?」

おずおずと声をかけると、少し動いた気配がしてから、いいですよ、と優しく声が返ってきた。

それに安堵してゆるりと息を吐き出すと、私は障子を開いて中に入った。そこは柔らかい笑顔を浮かべている宿木さんがいて、何故だか涙が浮かんでくる。

「おやおや、どうしたんですかしのぶさん?」

困ったような顔であやされて、私は大きく息を吐いた。ここは宿木さんの部屋だ。宿屋であっても、この部屋には宿木さんで溢れかえっている。

清純な墨の匂い。甘い香の匂い。積まれた書に、衣装の櫃。それを吸い込んで、私は宿木さんと目を合わせた。

「月丸が、おかしいの」

絞り出すように口にしたそれは、自分の中にずっと仕舞っておこうと思っていた思いだった。

「……どうおかしいのか、お聞かせ願っても?」

宿木さんの固い声に、私の声を聴いてくれているという思いで、また涙が溢れてきそうだ。でも泣きじゃくるのはみっともないし、時間は限られている。簡潔に、端的に、それでいて概要を見失わないように伝えないと。

「月丸の声が、とても固いの。常に切っ先を向けられているような、そんな感覚がする。優しくはしてくれるの。今もお茶を取りに行ってくれている。でも違うの。中身が伴っていないの。私が子供のように甘えている時だけ優しい目をして、でもそれ以外は傷つけるような、傷ついたような目をするの」

「……ふむ」

喘ぐように、懇願するようにまくしたてた言葉に、宿木さんはそうとだけ言って黙り込んだ。何か考えあぐねている様だった。

「距離を置く……?いや、それでは後送りにしただけ……ふむ……」

しのぶさん、と宿木さんは固い声のまま言った。

「寝る時は、最悪の時の為に備えてください。月丸さんの晩酌の時も。自分が傷つかないことを、全てにおいて優先させて下さい」

「それってどういう……」

「……当たって欲しくない予感なのですがね。私も嫌ですよ、こんなことを言うなんて。……さあ、部屋にお戻りなさい。無暗輩に刺激することもないでしょう」

宿木さんが何を言っているのか、私はよく分からなかった。でも、そろそろ月丸が帰ってくるころだ。ここにいたら怒られる。本能的にそう思って、私は逃げるように逃げなきゃいけない場所に戻った。

宿木さんが何を予感していたのか。それはその晩私は理解することになった。


「……月丸。いつの間にお酒買ったの?」

宿のすぐ傍にある浴場でさっぱりして部屋に戻ってきたら月丸がへべれけだった。

月丸はお酒に弱いのになぜかよく飲む。今も、月丸が揺らしている瓢箪からは重い音が聞こえるので大して飲んではいないのだろう。なのに顔はもう真っ赤で、目が座っていた。

「……はあ。お水酌んでくるよ。そろそろやめにしてよね?」

平静を保ちながらも、内心焦っていた。風呂上りで殆ど無防備に近い恰好。そのまま一部屋に一緒にいることが危ないと、宿木さんの言葉を思い出す。どくどくと鳴る胸を押さえながら踵を返そうとしたら、気配を消した月丸が後ろから私を掻き抱いた。

「っあ!?」

月丸は、そのまま私を片手で持ち上げ、そのままもう片手で障子を閉めると私を敷いてあった褥の上に文字通り転がした。

「つき、まる……?」

持ち上げられた時に押さえられた鳩尾が痛い。けほ、と軽く咳き込み、月丸を見上げるととても怖い顔をしていて、私はとっさに一つだけ身に着けていた苦無を挟んでいる帯に手をかけた。しかしその手は苦無に触れる前に布団に月丸の手で縫いとめられ、馬乗りになられた私は身を捩るしかできなかった。

「しのぶ……」

かはぁ、と酒臭い息が顔面にかかる。嫌悪感に顔を顰めるが、その根源は私の顔にどんどん近づいてきて、私はぎりりと奥歯を噛みしめたまま月丸の唇を受けた。

「いや……っ」

繰り返される口付けの合間を縫うように私は抵抗を繰り返す。泥の雨のようだった。月丸の中にある泥が私に降り注がれる。当然心地いいものではなく、行為に自愛は含まれず、着合わせに手を差し込まれようとした時、私は渾身の力で月丸の頬を叩いた。

「やめて!」

乾いた音が、夜の静寂に響く。叩かれた月丸は呆然としているようで、その隙に私は月丸の下から抜け出した。

肩で息をしながら、私はじりじりと月丸から距離を取る。怒りや悲しみや悔しさがごちゃまぜになって、泣きたくないのに涙が浮かんでくる。

「おかしいよ。最近の月丸はおかしい!こっちを向いてても、私を見ていない!」

「おか、しい?」

ぐらり。首が落ちそうな緩急で月丸は首を傾げた。皮と骨がなければそのまま首が落ちてしまいそうなその角度に、私は言い知れぬ恐怖を覚える。

「俺が、おかしい?」

ずるりと音を立てながら、月丸は膝立ちのまま一歩近づいた。

「俺はおかしくなんてない」

ずるり。

「おかしいのはお前だ。しのぶ」

ずるり。

「飛び立つ鳥は、小鳥じゃない。お前は小鳥のはずなのに」

ずるり。

「小鳥は、与えられる餌だけで生きていればいいのに」

ずるり。

「なぜ」

「何 故 飛 び 立 と う と す る ?」

「つ、つきまる……」

はくはくと、短く早く呼吸が止まらない。指先が痺れてきて、呼吸のし過ぎだと頭は告げるが、体は全く私のいう事を聞いてくれない。

目の前にいるのが、まるで化け物のように感じる。月丸なのに。月丸なのに、どうして。

月丸はまるで羽ばたきする様にゆっくりと私の首に手をかけた。月丸の手が熱い。熱すぎて焦げてしまいそうになるほどだ。ぎらぎらと獣のような瞳は告げる。逆らったらこの手を強めると。はらはらと零れていく涙を不快に思いながら私は目を閉じる。

「どこから間違っていたんだろうね」

囁くように零れた言葉を舐め採るように顎を舐った。まるで存在してはいけない言葉だというように。

逆らわない私にご満悦の月丸は、私の体を労わらない強さで抱きしめてきた。関節がみしみしと言っていることも、くらくらとした頭ではもうどうでもいい。そう、何もかもがどうでもいい。最初から間違っていたのだ、私たちは。どこが最初なのか、それさえも分からなくなってしまっているけれど、これが正しいとは思えない。熱い息が肩口にかかる。食べられてしまう。そう思った時、月丸はバッとその場から飛び退いた。閉じていた目を開くと、そこには小刀が刺さっていて。しかし月丸と言う支えを失った私は力なくその場に倒れた。

「宿木ぃ……!」

吠えるように月丸はその名を呼ぶ。重い目蓋を押し留めて視線をさまよわせると、開け放たれた障子に凭れ掛かるように宿木さんはそこにいた。

「月丸さん。貴方、何をしているか分かっているんですか?」

静謐な言葉と銀の髪が月夜に煌々と在った。銀色の鬼だとぼんやりと見つめ、目が合うと薄く笑みが返ってきた。

「貴方は取り返しの利かないことをしようとした。それが分かりますか?」

「黙れ……」

「恐怖で縛った愛の、どこが美しいのでしょうか。小鳥で在れと貴方は言った。しかし貴方が持っている欲望は女に対するそれなのですよ?」

「それの何が悪い!」

その言葉と共に月丸は宿木さんに飛び掛かった。しかしそれは適うことがなく、宙に浮いた月丸は、部屋の入り口で蜘蛛の巣にかかった虫のようにもがく。ぷつりぷつりと血の玉が浮き上がるが、月丸はそれでももがく。

「何をしたぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛!」

「……ただの髪の毛ですよ。私のね。銀色で細くて、見えないでしょう?」

そう言いながら宿木さんは何もないように見える空間に、弦があるように指を弾いた。すると、ビィンと音が鳴り響いて月丸の頬に血が滲む。確かにそこには糸状のものがあるのだろう。

「くそ、くそ、くそ……!」

尚ももがく月丸の体には血がどんどん滲んでいって、藍色の着物が赤黒く染まっていく。しかし、月丸はそんなことなど関係ないとでも言うようにもがき、もがき、ぶちぶちと嫌な音を立てながら宿木さんに手を伸ばす。

ガリ、と宿木さんの白磁の肌に一筋の擦傷が刻まれる。月丸が引っ掻いたのだ。傷は一筋二筋と増えていく。だが、宿木さんの表情は変わらない。なすがままにされながら、月丸を見ている。

「ねえ、月丸さん。貴方はどうしたいのですか?」

「殺す……殺してやる……」

「嘘をつきなさんな。本当に殺す気なら何故何も持っていないのですか?ああ、貴方は素手で在ろうと私を殺せますよね。女の細腕であろうとも、その気になれば誰とでも殺せる。憎いですか、私が」

「っ、がぁ!」

月丸は短く咆哮を上げると、五本の指を全て使って宿木さんの頬に爪を立てる。それだけなら可愛らしいものだが、肉を抉り取るようなその力は、月丸の中のどこから来ているのだろうか。

「貴方は気付いていますか?」

ぼたぼたと、顔から血を流しながらも、宿木さんは小鳥が囀る様にゆっくりと声をだし、舞の一部のように人差し指を私に向けた。

「しのぶさんが、見ていますよ?」

ああ、見ている。酷い虚脱感に包まれ、指先ひとつまともに動かすことができないが、私はずっと見ていた。

ぎこちない動きで、銀の髪に囚われた月丸は私をふり仰ぐ。

「あ……?」

顔と言わず腕と言わず、体中を真っ赤に染めた月丸は、ざっと音がしそうな程に青くなった。そんな月丸が面白いのか、宿木さんはくつくつと喉を鳴らして笑う。哂う。

「何をしているんですか?私を殺すんでしょう?しのぶさんの目の前で。仲間として旅をしてきた私を。貴方のちっぽけな自尊心と嫉妬によって私を殺すんでしょう?」

ケラケラとあざ笑うように宿木さんは戸に何度か叩くようなしぐさをすると、月丸の体が落ちた。一瞬だけきらりとしたものが緩むように宙を舞ったので、おそらく髪の戒めを解いたのだろう。そんなことをぼんやりと理解して、私は重い体をゆっくりと起こす。

「月丸……」

「しの、ぶ……」

「駄目、だよ。駄目だよ。これは駄目なことだよ」

「な」

「やり直そう……?もう嫌だよ、そんな月丸を見るのは……っ!」

はく、はく。と月丸は何度か唇を震わせると、後ずさる様に何歩かよろめくようにふらつき、欄干に突っかかるようにして、落ちた。

一瞬だけ、月丸の、泣きそうな、張り裂けそうな、壊れてしまいそうな表情が脳裏に張り付いて。

追いすがる様に欄干から身を乗り出したものの、その下には月丸はもういなかった。

空木が咲く前に 四十九

「この国は変わった国です」

ジャリジャリと、忍ぶ気なんて全くない歩調で宿木さんは人気のない表通りを歩く。

「最初に見た時、感じた物は何ですか?」

静かに、淡々と言葉を紡ぐ宿木さんに、私は、寺子屋の問答みたいだ。そう思いながら私は数瞬迷ってそっと唇に言の葉を載せた。

「私は、とても怖い物に感じた。享楽的?って言うのかな。最後の一燃えみたいに騒いでいて、でも底には暗いものがあるように……見えた」

そう呟くと、隣を歩いていた宿木さんはゆるりと目を細めて、そうですね、と賛同してくれた。

「そうなんですよ。聞き伝の奈湖の国はそうだったんですよ。私もそう思っていた。実際にそう見えます。しかし……」

「なんか……お祭り好きな感じもするよね」

化粧と着崩しをして、お城に乗り込もうとした時、いつの間にか抜け出すのが難しい程取り囲まれたことを思い出す。その中には荒くれ者や遊女には見えない人が沢山紛れていた。いや、大半がそう言った存在だと言ってもいいだろう。

「ええ、あの短時間であれだけの人数がぽこぽこ湧いて来たのですから、もう少し待ってみても良かったですね」

「ぽこぽこ……なんか可愛い」

ほにゃりと眉を下げて想像してみる。おにぎりを落としたネズミの穴みたいな場所から、ぽこぽこと湧き出るように住民が出てきて、お祭り騒ぎを始めるのだ。まるでおとぎ話のような光景を思い描き、頬が緩む。

「ふふ、そうですね。しのぶさんの表情も可愛いですよ」

いい子いい子、と頭を撫でられて、私はむう、と口をとがらせる。

「言い出したのは宿木さんだから、宿木さんの想像力の方が可愛いよ!」

「おや、可愛いと言って反論されたのは初めてです。でもそう言うこの方が可愛がり甲斐があるんですよねー!」

「ぷわ!?」

むきゅー、と柔らかく抱きしめられて私は目を白黒させる。柔らかくはないが固くもない宿木さんの体。着物からは甘くて優しい香の匂いがしていて、嫌な気はしない。慌てふためきながらも抵抗する気は起きず、うあー、とか呻きながらされるがままにしていると、一瞬殺気にも似た感覚が背筋に走ったかと思うと、今度は月丸の胸に顔を押し付けられていた。

「ったぁ……。ちょっと月丸!?」

強かに鼻が押しつぶされて、驚きとちょっとした怒りで月丸の顔を見上げた。

そうしたら。

表情のない口、眉間には皺が寄っていて、その下にある目はぎょろりと、水揚げされて何日もたった魚のように濁っている目が、お面のように動かないその顔が、私を見つめていた。

ぞくり。全身の毛が逆立つような感覚だった。こんな顔をした月丸を見ることは初めてで、敵と戦っている時の目が生易しいものに感じるほど月丸の表情は冷たく、それでいてどす黒い奈落を思わせた。

「つき、まる……?」

どくどくと鼓動が早まる。じっとりと手のひらには汗が滲み、体は小さく震えはじめた。

「しのぶ」

私をそう呼ぶ月丸の声はどこまでも単調で、本当に私を呼んでいるのか疑問に思うほどだった。

くらりと傾ぐ体が重心を失う前に、ぺしりと月丸の頭を宿木さんは叩いた。

「こら、駄目ですよ、その顔は。……お仕事から外しますよ?」

ギラリと宿木さんの赤い瞳が固い光を発する。それに対し月丸は虚ろな瞳で返し、私を抱きしめると宿木さんから距離を取るように私を引きずるように反対側に移動させた。

「ああ、俺は構わない。しのぶと別行動させてもらおうか」

にたりと月丸は仄暗く口の端を上げる。不敵な、怖い笑みだった。

「おやおや?躾のなっていない犬ですねえ。いや、野獣と呼ぶべきでしょうか。しのぶさんは食べ物じゃないですからね?」

くつくつと両者は笑い、嗤い、殺気を飛ばしあう。

いつまで続くかと思った応戦は、あっさりと終わった。宿木さんが、したたかな殺気を発するのをやめ、おどけた様に、それでいて優雅にその場で一回転した。

「ふふ。月丸さんは本当にしのぶさんが大好きなんですねえ」

軽やかにそう笑うと、宿木さんは今まで何もなかったかのように歩き出した。幾何か怪訝そうに見つめる月丸に、宿木さんは凄味のある笑みを浮かべながら歩を進めた。

「お仕事と恋は別物ですからね。貴方が武を提供するなら、私たちは知を提供する。そういう『約束』でしょう?まさか、恋にかまかけてお仕事を疎かにする様な愚か者ではない、ですよね、月丸さん?」

これは明らかな牽制だ。いくら私でも分かる。いや、誰にでも分かるほど分かりやすく牽制しているのだ。互いの立場を明らかにして、指針を明らかにして、背いた場合の道を明らかにして。

それに対する答えは月丸の口からは出てこなかったけれど、小さくなった宿木さんの背を追うことが何よりの応えで、私は内心安堵した。このまま宿木さんの姿が消えるまで沈黙していたら、何かとても大きなものが一切の取り返しが付けなくなりそうで。

良かった、と思うと同時に、私はそっと目を伏せた。月丸が、逃がさないように手を掴んでいることではない。その手が、一切の労りがなく、優しさが遠くにあるような気がして。否、実際に遠いのだろう。

爪先が、冷たくなるのを感じながら、私は手を引かれていった。
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