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空木が咲く前に 三十

「嫌だ!やめてくれ!頼むから!!!!」
「大丈夫だ、殺しはしない。殺しは、な……」
「な、なんだ、そうなのか……?」
「月丸さん、姉御が言いたいのは、殺しはしないけど他の何かはするかもよ、ってことだと思うんだけど」
「な、なんだと!?」
「助けようか?借りは身体で返して貰うけど」
「ひいっ!?」
「おや、それは興味深い。私も身体で返して頂けるなら尽力致しますが?」
「わ〜、男色家だったの〜?綺麗な顔してるのに〜」
「ふふ、だからこそ需要があるのですよ」
なんだろう、この状況は。簡潔に言うと、月丸が蓑虫みたいに縄でぐるぐる巻きにされていて、お姉さんが刀を構えていて、その周りをみんなが囲んで言いたいことを言っている……のだと思う。
どこから突っ込めばいいのだろう。そんなことを思いながら、私は右手を顔の高さまで上げて、多分もう私が入ってきていることに気付いている面々に尋ねた。
「みんな、何してるの?」
月丸以外のみんなは、おはよう、と一言告げた上で、状況を語り出した。
「月丸さんが面会謝絶、絶対安静のしのぶさんの部屋に入ろうとしたので。それまでは窘めていたのですが……」と宿木さん。
「その日は強硬突破しようとしたから、俺が月丸さんを縛った。宿木さんの命令でな」と明さん
「でも、動けなくするために縛ったから、かなり無様な結び方になったんだって」と、口を合わせて双子。
「私は反対したんだけどね〜。縛り方にもいろいろあるし。でも、縄抜けされても面倒だったしね〜」と、目を半眼にして梟さん。
「で、解くに解けなくなったこの縄を、私が斬ろうとしているわけだ。剣術だけは、ここにいる誰よりも自信がある」と、なぜか悪鬼羅刹のような目で月丸を睨むお姉さん。
「ま、そう言うことで、今から姉御が斬るから一緒に見ていようなー」
「……よく分からないけど大筋は分かった……かも」
そう呟くと、私は迎えに来た明さんに手を引かれるまま、なぜか上座に座らせられた。不信感を僅かに含めた目で明さんを見ると、明さんは「しのぶちゃんにかかっているから」と小さく耳打ちをした。
「え……?」
意味が分からない。……いや、これは考えろということか。
不幸中の幸いか、状況は緊迫したまま動かない。斬ろうとするお姉さんを、月丸が威圧だけで制しているのだ。
つまり、月丸はお姉さんに害を与えられると思っているのだろう。害の正体は部屋に入った時に答えは出ている。つまり、私のしないといけないことは一つだった。少しだけ佇まいを直してから、私は声をかける。
「お姉さん。お姉さんは、この中で一番剣術にひいでているんだよね」
その声に応えるように、お姉さんは一度刀を納めて此方を向いた。
「ああ、剣術だけが私の取り得だからな」
「じゃあ、凄いことも出来る?この中の誰にも出来ない、凄いこと」
この問いは、駆け引きであり博打だ。お姉さんが出来ないことをふっかけているなら、そもそも成立さえしない。だけど、加減ができるからこそこんなことをしているのだ。出来ないのなら、他の方法……例えば小刀や苦無で少しずつ切ってしまえばいい。それをしないということは、成功率は確かにあって、明さんが「私にかかっている」と言うなら、私がどうにかすればいいのだ。
そんな心中を知ってか知らずか、お姉さんはこう尋ねてきた。
「具体的にはどんなことが出来ると思っている」
「うーん、っと。例えばね、月丸に傷一つつけることなく、縄だけ切る、とか?」
「大道芸みたいだな」
そう言いながらお姉さんは刀身を抜き放った。
「出来る、よね?お願い、お姉さん」 
「ふん」
すらりとした刀身は、ギラリと輝きを反射していて、一心に反射するためにあるようで。だけどそれは傷つけるための物だ。人を、殺めるための物だ。
曇りひとつないその輝きを目にしながら、私はひたとお姉さんを見つめ続けた。
それだけでいい。お姉さんは優しい人だ。それでいて聡い。傷つけてしまう意味も知っている。だから私は見つめ続けた。
お姉さんは突き下ろすように構える。月丸は、僅かに身じろきをしたので声をかける。目線はお姉さんに向けたまま。
「月丸」
「な、なんだ」
「信じて。お姉さんを。お姉さんを信じている私を。きっと……ううん、絶対上手くいく。動かないで」
「言うなぁ。そんな風に信じられると……」
ザンッ
「応えるしかないではないか」
お姉さんはスイと刀を収めた。ハラリと縄は解けるように落ちて行った。月丸は信じられないとでも言いたいような顔でいるが、私はお姉さんに笑って見せた。
「やっぱりお姉さんはお姉さんだね。ありがとう、大好き!」 
「ああ、私もしのぶは大好きだよ」
「しのぶちゃん、俺もー!」
そう言いながら明さんが抱き着いてきた。が、途中でお姉さんの回し蹴りによって床に沈んだ。
「犬畜生が!しのぶに触れるな!」
「酷い!犬って何!?」
「確かに明は犬みたいだよね〜」 
「わんこ?」
「あ、わんこいいね。その呼び方の方が可愛い」
「にじり寄るな馬鹿者!」
「月丸大丈夫ー?」
「俺生きている……なんでか分らないが生きている……」
「分からない……。分からないというのが分からない……月丸さんはどこまで鈍感なんだ……」
「悩むだけ無駄だよこじろー」
皆が好き勝手始めたところにパンパン、と手を叩く音が部屋に響いた。お姉さんと明さんは瞬時に身を固め、何故か正座をした。
「さて皆さん。そろそろ出立したいのですが、準備はいかがですか?」
「ま、まだです」
「では……急ぎなさい?」
そう言った宿木さんの顔は、笑顔なのに凄味が合って……うん。怖かった。
その言葉で皆が各自の部屋に戻りせっせと荷造りを始めたのは、ただただ恐怖に駆られてのことだった。
出立までそう時間がかからなかったのは言うまでもないことなのかもしれない。

暑中見舞い企画今年もやります

今年も暑くなりそうですね。て言うか既に熱いですね。
と言うことで、今年も暑中見舞い企画をすることにしました。

以下の項目を記入して、下記のメールアドレスに送ってください。

@お名前(はがき希望のかたは本名も)
Aメールorはがき(はがきの方は郵便番号と住所を)
Bリクエスト
C封筒の有無
Dおまけ小説のURLが必要かどうか
E何かあれば

☆マークを@に変えてください。
clematis_09_14☆ezweb.ne.jp

イラストの雰囲気はこちらからご確認ください。 www.pixiv.net 
なお、応募人数が多い場合は、途中で締め切らせていただきます。ご了承ください。

話題:暑中見舞い・残暑見舞い

空木が咲く前に 二十九

目覚めはさらりと起きた。
変哲もないただの目覚めだけれど、こんなにさっぱりとした覚醒は久しぶりだった。
重い夢の残ざしはなかった。布団がやけに重たく感じることも。ただ、普通の物だった。
綿の入った布団を押しのけるように褥から這い出ると、障子の向こうには薄青の世界が広がっていた。夜と朝の狭間の世界。これを見るのもこれまた久しぶりで、軽い体を抱えて部屋を出た。
ひんやりとした床を裸足で歩き、その冷たさに頬を緩める。心地よかったのだ。布団で温められた体には。冬だったら厭うものなのに。
階段を下り、中庭に出ると井戸には先客がいた。
「あ、おはよ、しのぶちゃん」
上体を晒し、手ぬぐいで体を拭いていたのは明さんだった。にっこり笑いかけられたので、私も笑顔で返した。
「おはよう、明さん」
「ん。やっぱり女の子は笑顔がいいなぁ」
そう言ってへにゃりと笑った明さんの笑顔は、どこかお兄さんに似ていて、私はくすりと笑った。背丈は高く、顔つきも男らしいのに、笑うと子供みたいだったから。
「なんだ?俺、顔に何かついてる?」
「ううん、そうじゃないよ」
「じゃあ何?」
「んー……秘密!」
そう言うと、明さんは「なんだよー」と口を曲げてしまったが、それさえも面白くて、私はクスクス笑ってしまった。
「まあいいけどさ……あ、しのぶちゃん顔を洗いに来たんだろ?」
「うん。そうだよー」
「手ぬぐい持ってるのか?」
「……あ」
そういえば、持って来るのを忘れた。今襦袢だから懐に入れてなかった。すっきり目覚められたと思ったらこれだ。
「はあ……とってくるね」
がっくり肩を落として、元来た道を帰ろうとしたら、明さんに肩を掴まれた。
「え、な、なに?」
「ほら」
「うわっ」
パサリと顔に何かをかけられ、慌ててはぎ取った。
「え?え?え?」
「手ぬぐい。使っていないやつだから安心してな」
「……なんで二枚持ってるの?」
首をかしげて尋ねると、明さんはハハッ、と軽快に笑った。
「そりゃあ俺くらいの男になれば、予備は持っておくものだよ」
「私みたいに忘れた人に渡すために?」
「女の子のためだけ、だけどな」
明さんは踵を返し、顔だけをこちらに向けてニヤリと意地の悪そうな顔で笑った。悪童みたいな笑いかただけど、どこか締まらない。それはきっと、明さんの本心ではないからだろう。多分だけど、忘れたのが誰であろうと何のけなしに渡すのだ。そう想像できるくらいには、明さんはいろんな人にやさしい。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ほい、汲み上げておいたのあるから」
「ありがとー」
とてとてと井戸のそばまで歩くと、傍らにある桶の中には、確かに水が張ってあった。
前髪を耳にかけ、手を浸すと水の清涼さを感じて目元を緩める。
そのままパシャパシャと顔を洗うと、随分と頭がすっきりした。
「ふはー。気持ちいい」
手ぬぐいで顔を拭きながら面を上げると、明さんは中庭に面した縁側に腰を下ろしていた。明さんはそのまま手を招き、もう片方の手で自分の隣を叩いていた。
何の用だろう?そう思いながらも、明さんの隣に座る。
「しのぶちゃん、体の調子は良くなった?」
「うん。宿木さんって凄いね。胃の腑が全然痛くないよ。体も軽いし」
「そりゃよかった。じゃあ、今日あたり出発かな」
「……ごめんね。迷惑かけちゃった」
俯いてそうぼそぼそと告げると、明さんからは怒気が感じられた。
「しのぶちゃん」
「……ごめん、なさい」
「阿呆!」
ぺしん。軽くだが後ろ頭を叩かれて、私は目を白黒させる。
「え、え、え?」
「あのなあ!」
明さんは乱暴なそぶりで立ち上がり、私の目の前で膝を折った。
「そんなに俺ら、不甲斐なく思えたか?」
「え、そ、そんなことないよ」
「自分で言うのはすっげえ恥ずかしいけど、でも俺も、しーさん……しのぶちゃんの言うお兄さんだな、その人に鍛えられて、そこそこ色々できる自信はある」
「う、うん。明さん料理上手いもんね」
「そこじゃない!」
「ひう!?」
ビシリと指を突き付けられ、体がびくりと跳ねた。
「仲間ってのは、遠慮しあうものじゃないだろ!?頼って、頼られて。そういうもんだろう?」
「あ…………」
「今回のことは、気付けなかった俺らにも責がある」
「そ、そんなこと……っ」
「あるんだって。だから……えっと……まあ、気にすんな。それだけ!」
「あ、明さん?」
明さんはそう言うと、ガバッと立ち上がって、どこかへ行ってしまった。
「……えー」
ドタドタと廊下を走る音が聞こえなくなったと思ったら、入れ替わるように梟さんが眠そうな顔で此方に歩いてきた。
「明と何話してたの?」
寝起きの梟さんは、機嫌が悪そうでなんだかいつも以上に怖い。そう思いながら顛末をかいつまんで話すと、梟さんは深いため息を吐いた。
「締まらない男だね〜……」
「そ、そうなの?」
「まあ、あいつの言うことは気にしない方がいいよ〜。はあ、ねむい」
梟さんはそのままぽてぽてと歩きながら当然のように桶の水で顔を洗い、そのまま部屋に戻っていった。
普通のことなのに、なんだか新鮮な気がしたのはなんでだろう。そう思いながら部屋に戻ると、隣の部屋は惨事でした。

彼と彼女のハートの差2

しのぶちゃんは女の子らしく、砂糖とスパイスでできている。だけど、心の底の方はほんのりと寂しい色。
月丸君のハートは、鉄壁なまでに鈍感。その代りめげない精神力を持ってる。

彼と彼女のハートの差

梟ちゃんのハートは鋭利で触ったら指が切れそうだけど、どこか人を引き付ける輝きがあって。
明のハートは柔らかくて艶々しているけど、色はどす黒くて。

ハートシリーズ描いていきたいです。
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