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空木が咲く前に 十三

「おかしいのう」

 

「え?何が?」

 

ツルリと丸い頭が、差し込む光に輝くのを面白いと思いながら、しのぶは師匠に聞き返した。

 

「おかしいのう、おかしいのう。真座の阿呆がやってこないのう」

 

「しんざ?誰のこと?」

 

「ほれ、昨日の女装趣味の阿呆じゃ」

 

「ああ、あの若作りのおっさん?」

 

「そうじゃ」

 

むさしが無垢な表情でそう言い、師匠も同意した。しかし、しのぶの混乱は増すばかりだった。

 

「え?え?むさしは知っているの?」

 

「え、しのぶちゃんも知ってるでしょ?」

 

「えええええええええ?」

 

本格的に頭を抱えだした。

 

女装と聞いて思い当たる人はいる。しかし、『おっさん』という部分がしのぶの中で当てはまらない。

 

それを見かねたかのように、こじろーがボソリと囁くように言った。

 

「団子屋の店主」

 

「……おにいさんのこと?」

 

「ぶふぅwwwwあの阿呆がお兄さん?wwwwwwwわろすわろすwwwwwwwww」

 

「師匠笑い過ぎだよ!」

 

「――まあ、見えないよな」

 

「あの見た目で三十五とか……」

 

「三十五?誰が?」

 

「しのぶちゃんの言う『おにいさん』だよ」

 

「え……?」

 

それは、まるで神様が取り謀ったかのようなタイミングだった。

 

「だ、だっておにいさん……」

 

――ガラッ

 

「月丸より若く見えるよ!?十歳くらい月丸の方が若いのに!」

 

ガシャンッ!

 

何かが割れるような音がした。師匠は爆笑していて、むさしは笑いをこらえるかのように震えていて、こじろーはそっと目線をそらした。

 

何事かと、半分だけ理解したまま、しのぶは振り返った。

 

すると、顔面蒼白になった月丸が、力なくお盆の端を握っていて、お盆の上に載っていたであろう茶器は、畳の上で無残な姿に成り果てていた。

 

「――今、何と?」

 

幽鬼のような声だった。地の底から絞り出されたような声が、妙におどろおどろしく響く。

 

「月丸……?」

 

「何と、言った……?」

 

「えっと……」

 

言ってもいいのか、しのぶは量りかねていた。

 

素直に言ってしまったら、月丸の中で何かが壊れそうだと感じていた。と言うか、もう既に壊れかけている。

 

「な、なんでもない、よ……?」

 

顔に笑みを貼り付けたつもりだったが、やはり上手くいかなくて、頬が痙攣しているのを感じた。

 

「そう、だよな。ああ、俺の聞き間違いだよな、うん、そうだ、そうに決まっている」

 

月丸が小刻みに震えている。

 

不出来なからくり人形を見ているようで怖かったので、そっと目をそらした。

 

怖い。壊れっぷりが怖い。すっごい怖い。

 

そのままなあなあで済ませようとしたのだが、そうは問屋がおろさなかった。

 

「月丸やい」

 

「な、何でしょうか師匠」

 

「あいつのう、三十五と名乗っているが……それでもサバを読んでいるのじゃぞ?」

 

「…………………え?」

 

「実際はもっとおっさんじゃ」

 

「う、」

 

「つ、月丸……?」

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

――月丸が壊れた。そう確信したしのぶは、そっと目を閉じた。ちょっぴり大人になった気分だった。嫌だったけど。

 

耳を塞いで、喉から声にならない声を発している月丸は、こじろーがどこかに引きずっていった。声が小さくなっていくのを感じながら、しのぶは師匠に顔を向けた。

 

「おにいさんがサバ読んでいるってのは本当なの?」

 

「嘘じゃ。騙されよってwww月丸はまだまだじゃのうwwwwwぶふぉおwwwwwwww」

 

「師匠笑い過ぎだよー」

 

「すまんのうwwww――まあしかし、真座が何もしてこないのはおかしいのう」

 

「どういうこと?」

 

「こんなに可愛いしのぶを見れば、こっちにつくと思ったのにのう。残念じゃのう」

 

「えっと……どういうこと?」

 

「いずれ分かるじゃろ。しのぶは賢いからのう」

 

「……?」

そう言って外をのほほんと師匠は眺めた。

その表情はどこか寂しげで、師匠がこんな表情をするのは初めてじゃないかって思った。

空に、雲がかかる。

「明日は雨が降りそうじゃのう……」

女子会してみた

真座「第一回、チキチキ月しので女子会してみた!かーいし!!!」

しのぶ「かーいし!」

暮麻「……店主、いきなりどうした」

真座「いつもの通り突発的な思い付きでっす☆」

暮麻「……そうか(頭かかえ」

梟「それよりさ、なんでおっさんがいるわけ?女子会なんでしょ?」

真座「僕乙女だからだよっ」

梟「なにそれ、気持ち悪い〜」

しのぶ「おにいさんはおねえさんだからいいんじゃないのかな?」

梟「うぇ〜、馴れ合い?気持ち悪いんだけど〜」

暮麻「梟……私の見立ては悪かっただろうか?」

梟「は?」

暮麻「店主はおなごに見えないだろう、か……?」

梟「な、なに、なんなの?」

しのぶ「あ、もしかしておにいさんもおねえさんの魔法かけてもらってるの?」

真座「魔法?まあ、見立てや着付けとかはくれまちゃんがしてくれるけど……」

梟「しのぶちゃん、魔法とか信じてるの?子供みた〜い」

しのぶ「だ、だって本当に魔法なんだもん!」

真座「まあ、綺麗になってたよねえ、本当に」

しのぶ「えへへ……あの時は本当に嬉しかった!」

暮麻「素材が良かったからな」

しのぶ「え、そんなこと」
暮麻「あるよ」

しのぶ「そ、そうかな……?」

梟(嬉しがってる顔気持ち悪〜)

暮麻「私としては、梟も飾り付けたい」

梟「はぁ?何で?」

暮麻「梟が綺麗だからだ」

梟「へ〜?君にとっては綺麗なんだ?」

暮麻「飴色の髪がとても美しい。あまり手を入れていないようだな。櫛を入れて結い上げ……いや、この跳ね具合はそのままにしたいな。半分程結い上げて、緑色の簪をつけたらとても似合うと思う。……そこまでするなら、着物も見立てたいな。黄色と緑色で纏めて……帯は………」

しのぶ「こんな生き生きしたおねえさん、初めてみた……」

梟「その成りでそういうの好きなの?似合わな〜い」

暮麻「……そう、か。そうだよな……自覚しているの、だが……」

しのぶ「あ、おねえさんが……」

梟「あれれ〜?泣いちゃうの?みっともなーい」

しのぶ「梟さん!」

暮麻「す、すまな………い………ぅ…………………」

梟「……精神弱っ。泣き顔気持ち悪〜い」

しのぶ「梟さん言い過ぎだよ!怒るよ!」

梟「え〜?だってこの人弱すぎるんだも………はっ!?」

真座「(ニコニコ」

梟「おっさん……」

真座「続ければ?」

梟「え………」

真座「(ニコニコ」

しのぶ「お、おにいさんが怖い……」

真座「そんなことないよー?」

梟「胡散臭い……」

真座「え〜?」

暮麻「……店主」

真座「なぁに?」

暮麻「……またアレをやるつもりか?」

しのぶ「アレって?……って、梟さんどうしたの?」

梟「な、なんでもない!」

真座「え、だってきょーちゃんが暮麻ちゃんを……」

暮麻「やる、のか?」

真座「えっと……………………………………逃げる!」

暮麻「やはりやるつもりだったのだな!待て店主!!」

ドタドタドタ………

しのぶ「……行っちゃった」

梟「騒がしい……」

大嫌いが増えました

「店主」

「何かな?」

へにゃりと笑って見せる貴方に、ジクリと胸に痛みが広がる。

それを表に出さずに、私は手にしていたそれを貴方に見えるように差し出した。

「すまない。私の不注意で、店主が大事にしていた簪を壊してしまったのだ」

違う。不注意なんかじゃない。

「ありゃりゃ。ポッキリ折れてるし、飾りも壊れちゃっているねえ。これはもう使えないかなあ」

日の光に翳しながら見聞する店主に、ジクリジクリと胸の痛みは募る。

ごめんなさい。わざとなんだ。

これを見て、僅かに綻ばせる貴方の顔が愛おしくて、それ以上に憎らしくて嫉妬に駆られて。

気づいた時には壊そうとしていた。私はそのままどうしようもない狂おしさに身を任せた。

――私は、とても、弱い。

「どうしたのかな?あ、もしかして壊しちゃったこと反省してる?いいよ、気にしていないから」

「しかし……」

「簪ならまた買えばいいよ。ね?」

「――そう、か」

私も、この簪のように、壊れたら捨てられるのだろうか。

いつか、きっと、簡単に、捨てられて、忘れられて、まるで存在していなかったかのように。

「くれまちゃん?」

私の曇った笑顔なんて掻き消してしまうような、貴方の笑顔。

好きだ。貴女のことが好きだ。狂おしいほどに。

私を救ってくれた人。

私を選んでくれた人。

どうか、どうか、私を捨てないでくれ。

こんな、試すようなことをしてしまう私を。

どうか嫌わないでくれ。

大好きなんだ。どうか、どうか。

「大好きだよ、くれまちゃん?」

貴方に出会って大嫌いが増えました。

貴方に出会う前の自分が。

貴方を試すような自分が。

貴方を独占したがる私が。

貴方が笑顔を向けるすべてのものが。

大嫌いが、増えました。

空木が咲く前に 十二

ふぅ、と煙管の煙を座敷牢の中に吹き込む。

中にいる少女はそんなものなど存在していなかったかのように、虚ろな目で宙を見ていた。

「そろそろお話ししてくれるかな?」

「……てやる」

「んー?なんて?」

「……して、ころしてやる」

「うーん、聞きたいのはそういうのじゃないんだよ。分からないの?」

落胆を込めて息を吐くと、僕は――少女に煙草の、まだ熱い灰を、煙管から投げた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「ごめんね?本当はこういうことはしたくないんだよ。君可愛いし。でもそういうわけにもいかないんだよー」

そう言いながら、桶の水を少女にかぶせた。

頭から水をかぶった少女は、荒縄で体を拘束され、部屋のいたるところに散らばる武器が、この部屋の異質さを更に醸し出している。

「僕はね、女の子はなるべく大切にしたいんだよ。でも、君は体中から武器取り出して殺しにかかるし、武器取られたら素手で殺しに来るから僕も面倒になってねえ。それに情報何もくれないし」

煙管に新しい煙草を詰め、火をつける。再び肺を紫煙で満たし、ゆるりと吐いた。

「で?君の情報、僕にくれないかなあ?……って、おや?」

――ドサリ。少女の身体はゆっくりと崩れ落ちた。

僕はおやおや、と言いながら少女の身体をつつき、完全に意識がないと分かると、牢の鍵を懐から取り出した。





―――――――――

「ん……」

少女は、微睡の中、体をくねらせた。

頬に触れるのは、清潔な布団生地。肌にはもっと心地よい衣服らしきものが纏われている。そして、どこか懐かしい、そんな匂いがした。

体の求めるまま寝返りを打つと、なにか固いものに当たった。それが煩わしくて押しのけようとすると、なぜか抱きしめられた。

「おはよ、きょーちゃん?」

「え……?」

重い瞼を押し上げる。すると、先程まで少女を痛めつけていたおんn……おっさんの顔が大きく映った。

「……っ!!」

「グハッ!?」

少女は殆ど反射的におっさんの鳩尾を突いて、床から抜け出した。

「おっさん、なにやってんの?」

「添い寝?」

「……」

僕はおちゃらけてそう言ったら、少女――梟は、すっごく汚いものを見るような顔をして、僕は――吹き出した。

「酷い!一夜を過ごした相手にその顔とか!」

「一夜?なに、おっさん意識ない相手に卑猥なことしたの?ないわー」

「してないよー、残念だけどね。僕は紳士だからね」

「紳士?なにそれどこにいるの?」

「目の前にっ」

「……」

「ごめん僕が悪かったからそんな目で見ないで」

畳の上で頭を下げると同時に、梟が初めて会った時みたいに喋ってくることに微かな安堵を覚えた。

まあ、それで完全に安心するわけにはいかないが、完全に距離を置かれるよりはマシだろう。

そして、まるでこの部屋の中を見ていたかのように、くれまちゃんが襖をそっと滑らせた。

「朝餉を持ってきた。ここで食べるか?」

「んー、その前に着替えかなー?きょーちゃん随分と色っぽいことになってるし?」

「は?」

そう言って、きょーちゃんは視線を下に移動する。

僕もそれに追従するように目線を移動させると、朝日に眩しい白魚のような生足が、崩れた着合せから覗いていた。

「――最悪」

きょーちゃんは、まるでゴミ虫を見るかのような目で僕を見下す。

「僕としては最高」

「益々わるいよ〜。なにこのおっさん。死ぬの?目の前で死んでくれるの?」

「いたぶる程度なら受け入れるよ?さあおいで!」

「うわー……」

「――店主。お遊びはそこまでにしたらどうだ?」

「何を言ってるのさ!僕はいつだって本気だよ!」

「「うわー……」」

「ごめんふざけすぎた。だから可愛い子二人でそういう目するのだけはやめてください本当に」

僕は再び畳に頭をこすり付けた。

ちらりと二人を見ると、やっぱり同じような顔をしていた。おんなのこ怖い。

「じゃ、じゃあ僕は自分で着替えてくるから!後はよろしくねくれまちゃん!」

「「あ」」

乱暴に襖を開き、そのままドタドタと廊下に逃げた。

そのまま流れるように衣裳部屋に逃げ込み、ふうと息を吐いた。

「――さて」

それまでしていた人をおちょくるような顔を脱ぎ捨て、僕は梟の身体を思い出した。

服の上からでも、微かに分かる傷跡の数々。それらは、幾多の戦場を駆け抜けてきた、と言うには意志のこもりすぎたものが多い。

「可愛い子ちゃんに何があったんだか」

シュルリと帯をほどき、姿見に映る自身を見る。

肌蹴た部分から覗く傷跡は、どこか梟の物と似通ったものがある。

「今回くらいは、勘が外れてるといいんだけどねー」

ふぅ、

僕は息を一つ吐いて、緩慢な動きで着物を着付けた。

空木が咲く前に 十一後編

テンテケテンと、三味線の音が響く中、宴会は進んでいった。

上座には若様が酒を嗜み、薬問屋の番頭が若い子に色目を使いながら此方をチラチラ見てくる。非常に鬱陶しい。

丁稚と思われる子は、まるで若様を守るようにお酌をしている。

そろそろ頃合いかと、僕は世間話でもするように口を開いた。

「ところで、若様はどちらの方で?」

「へぇ、若様は遠い所のお偉い人ですよ」

番頭がとても曖昧に答えた。

「遠い所?それはどの辺りのことでしょう」

「そりゃもう遠い所ですよ」

どうやら、正確に答えるつもりはないらしい。

モヤモヤした胸の内を隠しながら、人好きのする笑顔を僕は浮かべた。

「そんな遠くから来て下さるなんて、光栄ですね」

「お前さんみたいな美人に会えただけでも特だよ」

「あら、若様ったらお上手なんですから」

ふふふ、と笑ってみせると、若様はニヤリと笑った。

「面白い。なあ店主、他の店の者を下げてはくれないだろうか。私たちだけで話がしたいんだ」

「あら……一応言っておきますが、ここは色を買う店ではありませんよ?」

「私がしたいのは話、だ」

「……それなら。みんな、下がっていいよ」

「はい、真座さん」

お酌をしていたり、三味線を引いていた女の子たち全員が、笑みを浮かべたまま障子の向こうへ消えていく。若様はそれを見届けてから、佇まいを直した。

「買いたい物がある」

「あら、色は売りませんよ?」

「そうではない。私が買いたいのは、情報だ」

そう若様が言うと、丁稚が懐から小さな包みを取り出した。

「――どのようなご用件で?」

「将軍のお膝元、そこの薬の流通を知りたい。もちろん、裏の情報まで」

なるほど。それで薬問屋の番頭がいるのか。

商売の範囲外とはいえ、不自然なところがあれば、おそらく指摘されるだろう。

「……では少々お待ちを。写し書きをさせて来ますので」

まあ、いい名目だろう。

そう言って立ち上がろうとすると、丁稚まで立ち上がった。

「どうかしました?」

「保険はかけさせて頂こう」

「あらまあ。番頭さんだけでは足りないのですか?」

そう言いながら、改めて丁稚に目を向けた。

珍しい飴色の髪。翡翠の瞳。丁稚にしては珍しい見目だ。

猫のようにつり上がった目は、まるで此方を映していない。

「申し訳ありませんが、そこは商売人として引けない部分で御座います。どうか、勘弁を」

「此方としても、正確な情報を欲しているのでね。引けないのだよ」

「お断りします。手に届く物が正確なら、それでいいではないですか」

「しかし………」

若様が言葉を探すような素振りを見せると、丁稚は深く息を吐いた。

「はぁ〜〜〜。まどろっこしいなぁ!もう力ずくで奪っちゃえばいいじゃん!」

「梟!やめなさい!」

「おっさんは黙ってなよ。私より弱いんだから〜」

「……ふぅ、やっぱり厄介なお客人だったようだね」

「は、余裕ぶっているのも今のうちだよ〜?この店、もう取り囲まれているんだよ〜?」

「なっ……!?」

「ふふふっ、お姉さん綺麗だから、グチャグチャにしたいなぁ〜?でもって、いっぱい悔しそうな顔が見たいよ」

「うーん、厄介過ぎるお客人だねぇ」

「おい、梟!勝手な真似は……」

「黙ってて」

「うぐっ……!?」

梟と呼ばれた丁稚……いや、忍びは、鎖鎌で若様の首を一閃した。

「君はさ〜、弱いんだから弱いなりにしていなよ〜?名目だけの隊長でしょ〜?」

ケタケタと、命の価値観などないように、梟は笑った。

そのまま流れるように、逃げようとした番頭の首も掻ききる。

その動作は、いっそ見事なものだった。

思わず拍手を送ると、梟はニヤリと不敵に笑った。

「余裕だね〜?」

「余裕の有無じゃなくても、君の動きは見事なものだよ」

「お姉さんは、あいつらみたいにアッサリ殺さないであげるからね?腕を切って足を切って、ゆっくりゆっくり殺してあげる〜」

「えー、やだ」

「そんなこと言わないでよ〜……っと!」

梟の鎖鎌が唸る。

ジャラジャラと音をたてながら向かってくるそれを、僕は帯に挟んでいた扇子でたたき落とした。

「なっ……!」

「残念でしたー」

「ま、まだまだ!」

両手に鎖鎌を持ち、それを自在に操る。

広い部屋で良かったと思いながら、僕は摺り足で鎖鎌をよけ、避けきれないものは扇子で叩く。

「なんで!?なんで当たらないの!!」

「鎖鎌ってさ、カッコイイし攻撃力もそこそこある。それに、投げても戻ってくるから、武器を失いにくい等利点はある。でもね、動きは緩慢になりやすいし直線的だ。だから……こうやって」

「うわっ!?」

「避けやすいし反撃し易い」

鎖鎌を下に叩きつけ、鎌部分を足で畳に踏みつけ固定し、滑るように梟の懐に入り込み、袂に隠していたクナイで首を捉える。

「――お姉さん強いね〜?」

「残念だけど僕はおっさんだよ。だからこそ経験豊富なのさ。ところで……この店を君の仲間が囲んでいるのに、随分静かだとは思わないかい?」

「え…………」

「……そろそろ、かな?」

「ちょっと、どういう……」

チラリと廊下に面する障子を見やると、ドタドタと足音がして、豪快に障子が開かれた。

「しーさん!鎮圧完了!被害は茶器一式!」

「よくやった明くん!でも夜だから静かに。あと茶器は朝一番で買ってらっしゃい。お釣りはあげるから!」

「了解!」

そう言って、明くんはまたドタドタと厨房に帰って行った。

「……ま、そういうこと。で、どうするかい?」

くつくつと笑って、梟の様子を伺う。

答えは無言。それを降伏と僕は取り、隣の部屋――独房へ続く部屋に、梟を押し込み、鍵をかけた。

「自害なんて格好悪いことはしないでおくれよ?死人はもういらないんだ」

「……………る」

「じゃあね。また明日」

そして、物語は冒頭に戻る。
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