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青い車と 3



「君が待っていたのは誰かな?」


男がそう聞いてきて、私は呆然と驚愕した。

「なぜ、そう思うのですか」

そう尋ねた声は心なしか震えているように感じた。尋ねられた内容によってではなく、私の思考が透けて見られているような感覚によって、だ。

「質問に質問で返すということは、図星だね?」

「な、んで」

「そうするのは何故相手がそう思い至ったのか知りたくて返す言葉なんだよ。それがただの勘なのか、根拠を持った詰問なのか、知りたくて聞くんだ。……私の考えは当たっているかな?」

「…………………、」

「沈黙、ということは正解だね?」

男が僅かに首をかしげると、それによって黒縁の眼鏡がキラリと光を反射した。普段見るのなら綺麗だ、不思議だと思う現象なのに、今は怖くて仕方ない。

「なぜわかったんですか」 

「知りたい?」

「……意地悪な人ですね。性格悪いって言われません?」

「虚勢を張っちゃって。まあいいか。大した種明かしでもないし。

ただし、種明かしは車の中で、ってのはどうかな?」

そう言いながら男はベンチから立ち上がり、車のドアを開けた。

――目の前の、私がついさっきまで見ていた青い車のドアを。

「――その車、貴方のだったんですか」

「ああ、そうだよ。言ったよね。「青は好きなんです」って」

「貴方、何者なんですか」

眉間にしわが寄るのを体感しながら尋ねると、男は意地悪そうな笑みを浮かべてこう言った。

「この青い車の持ち主で、名前は宮間 修一。仕事は内緒。まだね。
その他にも私を表す単語はあるけど、それは自分で探るのも楽しいとは思わないかな?」

「……信用できる根拠が何一つないんですが。」

名前だって偽名かもしれないし。

ただ一つ確かなのは、この青い車が彼の持ち物だということだけだ。それは車のドアを開けたキーが証明している。

「さあ、助手席にどうぞ、群青色の御嬢さん?」

悪魔のような男だ。そう感じながらも私は彼の手を取った。

久しぶりに触れた男性の手のひらは私の手が収まってしまうと感じてしまうほど大きく、温かかった。
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