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うああう……

愚痴
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あんたの為に

苦くて苦いカプチーノ。浮き足立っている周囲に対し、唯一のように苦いその液体は、私がここにいると感じさせる存在だった。

砂糖は焦げ茶色のテーブルに置かれているが、私は敢えてそれには手を着けずにいた。

なんせ、

「明さんこっちこないかなぁっ」

「オーダー追加してみる?」

「君の方が世界中のショコラより甘いよ……なーんて!キャーッ」

夢見る女子たちは恐ろしい。

私の中では、呼べば飛んでくる犬のような明なのに、実際そうなのに、彼女たちの中で明は王子様のような存在になっている。

「なーにが世界中のショコラより、よ〜」

明がそんなこと言うようなキャラではないことは、私が一番知っている。

確かに、赤毛に琥珀の瞳というのは、彼女たちの妄想に拍車をかける程綺麗だけど、それは見てくれだけだ。中身まで物語の住人ではない。

まあ、レディーファーストを思わせる外国育ちの行動はあるのだが。

「んく……」

残っていたカプチーノを飲み干し、店を忙しなく動き回っている店員に新しいカプチーノを頼み、スマフォを取り出す。

『店来た。何かおごって』

その短い文面をメールにして明に送ると、私はテーブルに頬杖をついた。

私が来たのに待たせるなよ。チョコレート溶けるんだけど。

無性に腹が立ってきた。

その苛立ちを紛らわせるように、アクション系のアプリに熱中する。敵に大砲を当てるという、簡単だが素早さを求められるゲームを淡々とこなし、新しいカプチーノを一口。ゲームは時間が経つに連れ、難易度が上がっていく。そろそろ片手では厳しくなってきた。

そんなことをしていると、ふと店内の空気が変わった。

「梟さん!」

白いコックの衣装に赤い腰巻きのエプロン。人懐っこい笑みをだらしなく浮かべた明は、足取り軽く此方に向かってくると、テーブルに茶色くて甘い匂いの液体が入ったカップと、サラダとステーキを載せた盆を手際よくテーブルに乗せていく。

「ごめん、これ作ってたら遅くなっちゃった」

「これ何〜?」

「えっと、こっちはホットチョコレート。で、マリネにローストビーフのチョコレートソースがけ。バレンタイン特別メニュー」

「へ〜。ステーキかと思った〜」

「まあ、断面図って似たようなものだしな。あ、ステーキの方が良かった?」

「……こっちでいい」

「そっか」

そう言いながら、明は私の頭を撫でた。

そこにはほんわりとした愛情しかなくて、少し物足りない。

「ん、どうした?」

「……明、あのね」

「あ、明さん!」

続く言葉は、本当にもう精一杯みたいな表情の女の声に遮られた。真っ赤に染まった顔。可愛らしいメイクに、ふんわりと巻かれた茶髪。背伸びするようなミュール。

恋をする女の子だ。

他人ごとのようにそう思った。

彼女は緊張しているのか、ギクシャクとした動きで此方にやってきて、明に向かって可愛らしいピンクの箱を突きつけた。

「あの、これ!受け取って下さい!」

「へ?えっと……うん、渡しておくよ。誰に?」

穏やかな笑みでそう応える明は、それが精一杯の牽制だと私には分かった。

だけど、駄目だよ明。

「違い、ます!明さんに渡したいんです!」

この店に、この日にやって来た女の子が、生半可な覚悟をしているわけないじゃん。

「……っと、ありがとう、義理でも嬉しいよ」

「ぎ、義理なんかじゃ……」

「本命なら、受け取れない」

「え」

「俺、好きな人いるから」

「……なら、思わせぶりなことしないでよ!最低!」

パシン

乾いた音が店内に響く。

「……最低なのはどっちよ」

カタン、と音をたてて私は立ち上がった。

それに怯えるように、名も知らぬ女は半歩下がった。

「っ、だ、だって」

「だって?……は、笑わせる。そうやって夢の中の恋愛したいなら、私を蹴散らす覚悟できなよ」

「は……?なに、あんたみたいな子供が明さんの恋人なわけ……?こんな、ガキに……私は……」

「ガキなのはどっちよ。他人の物を勝手に傷つけちゃあダメってママに教わらなかったの〜?」

「梟さん、もういい」

「……そこの椅子に、私からのチョコ、置いてあるから。帰るね」

「え、梟さん……?」

「ごめんね〜騒がせちゃって〜」

「ちょっとまっ……」

「じゃあね〜」

そう言うと、カウンターにお金を置いて、何も言わず、ドアを開けた。

カランカランとなるドアベルは、どこか寂しく聞こえた。

……悔しかった。

明は大人なのに、何で私は子供なのだろう。ガキと言われた時、一瞬体が固まった。高校生なんて、ブランド物のように感じていたけれど、実際はそんな物じゃなかった。ただの子供というレッテル。大人からしたら、なんて弱い存在なのだろうか。

明と同い年だったら良かったのに。

そう、初めて感じた。

歩く足がとても重い。

だけどあの場所にはもう居たくなかった。大人だらけのあの場所には。

「……っく」

服の上から、明に貰ったネックレスを握る。

ずるずるとしゃがみ込む。

町をゆく人々は、私を煩わしそうに避けて、なんだかひとりぼっちになった気分だ。

帰ろう。そう思った瞬間、ふわりと体が宙を舞った。

「え……」

「梟さん!」

「あき、ら……?」

「店に帰るよ」

「え、でも……」

「いいから!」

「ちょっと!」

明は、私を抱えたまま、器用にお姫様抱っこに体制を変え、ズンズン店の方向に歩いていく。

「梟さんは、もうちょっと俺を見直すべきだと思う!」

「え……」

「あんな軽いビンタ如きで俺が傷つけられたらとでも思ったか!ばーか!もっと凄い修羅場くぐってきたんだよあの店で!」

「は?」

「笑顔一つだけでストーカーされたことあるし、包丁持ち込んで乱闘された事もある!あの程度で空気壊したとか思ったか!?」

「え、いや、あの、ちょっと……」

「常連客はみんな慣れてる!」

「……もしかして、励ましているつもり?」

「それ以外に何があるんだよ」

「ふ……くくっ……あははっ!」

「え?」

ポカーンとした明に、さらに笑いがこみあがってくる。

「な、なにそのモテ自慢……!ふ、くくくっ……」

「え、いや、そういう意味じゃあ……!」

「分かってるよ……あー、もう馬鹿らしい!ウダウダ悩むなんてガラじゃないよね〜!」

「……じゃあ」

カランカラン。店のドアを明が開く。

「みんな聞いてくれ」

「!?」

「俺、この子と結婚します!」

「ちょ、明なにを言って……!?」

「婚前は何もなし!やってもキスまで!それでも結婚するまで我慢します!」

「え、あの……」

「だから、何もないように皆さんで監視して下さい!梟さん愛してる!」

「……いや、私も好きだけどさ、なにこのやり方〜」

「いっそ宣言した方が牽制になるかな、って」

「……頭悪〜い」

「嫌?」

「……しかたないって感じ?」

そんな事を言っていると、店の奥から真座が飛び出してきた。

「明くん!本気かい!?」

「え、うん、本気」

「よーし、じゃあいくぞ!野郎共!ピッチピチの女子高生な彼女が誘ってきても我慢出来るか―!?」

\無理でーす!/

え、なんで声そろってるのここの常連客。

「女性のみなさん!この二人の愛をどう想いますか―!?」

\純愛よねー!/

いや、だからなんで声が揃うの?

「では、二人を祝して……拍手!」

\パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ/

「えー……」

「……まあ、ここはそういう店なんだよ」

そう言った明の表情は非常に憎らしく、私はぶつけるようにキスをした。

実際口の中切れたけど。

まあ、悪くない…………………………………………………………………よね?

どうにもこうにも交わらない2

「し、しのぶ……?」

月丸が、如何にも混乱している、といった顔で此方を見る。

しかし、混乱しているのは私の方だった。

「え、なんでその反応?」

「しのぶちゃんは天然かー……て言うか小悪魔?」

「……?」

お兄さんの話が見えない。天然?小悪魔?私普通だよね。

「順序をたてて話そうか」

「えと……順序をたてないと言えないの?」

じとーっとした表情で月丸を見る。

私は、何も難解なことを聞いているつもりではない。まあ、私も月丸のどこが好きか、と聞かれれば答えることが出来なかったが、月丸は指輪を渡して告白してきたのだ。私にはない明確な答えがあるはずだ。

「そういうことではなくな……。なぜそれを聞くんだ?」

「あ、そか。えとね、……私ね、月丸には悪いけどね、月丸のどこが好きなのか、分からないことに気付いたの」

「!?」

「あらー。何かきっかけでもあった?そんな風に考えるきっかけ」

「それは……秘密」

「な、なぜ……!?」

「本人たちがいないところでお話するのは、やっぱりだめなことだから」

女子とはやっかいなものなのだ。勝手に女子トークで出た話を他でするのは厳禁ってことは、身にしみて分かっている。

「本人、て……誰だ?」

「えーっと、んーっと……話てもいいのかなあ」

「女の子のルールは難解だけど、理解はしているつもりだよ?ここだけの秘密だから……ね。月丸くん、今にも死にそうな顔しているんだけど」

「え?」

と、月丸の顔を見てみると、真っ青で、大切な何かが今にも抜けてしまいそうな顔をしていた。

「え、え、月丸?えっ、も、戻ってきて……?」

「ああ、だいじょうぶだ」

「大丈夫な顔してないよ!?……んん。絶対に、絶対の秘密だよ?」

「お、話してくれるのかい?」

「うん。……暮麻さんと梟さんと、女子トークしてたの。それでね、なんでその人が好きなのか、って話しになってね、それで……」

「……ストップ。一時停止。暮麻ちゃんも好きな人のこと話してた?」

「うん。すっごい素敵な理由だったよ!」

「ソウナンダー」

「えとね、それでね、その時私だけ好きの理由を言えなかったの。だから、暮麻さんと梟さんが、好きの理由が見つかるまでチョコ渡しちゃだめ、って」

「でも渡しちゃったんだね」

「うん。……だから、せめて月丸から理由があれば、渡してもいいかなー、なんて」

「女子が怖いんだが……」

「え、なんで?」

「男は、かは……んんっ、本能で好きを決める時があるからね。そういう話は女子ならでは、って感じなんだよねー」

「……かは?」

「追求するな、しのぶ。全国の男子のために」

「んー……分からないけどわかった。で、月丸どうなの?」

「う、それは、だな……」

「……僕、一時退席しようか?」

「い、いや、人目にはばかる理由ではないが……」

「えと……でも言いにくいんでしょ?」

「いや、……恥ずかしいんだ、正直」

「へ?」

「好きの理由、というのは、相手をどれだけ想っているか分かるもの、だろう?だからな、恥ずかしいんだ……」

「えと……つまり、恥ずかしいくらい好き、ってこと?」

「あ、ああ……」

月丸真っ赤だ。耳まで真っ赤だ。さくらんぼみたいに真っ赤だ。

そうさせているのは、私がどう好きか、で、私もつられて赤くなる。

「……そっか」

「どうしたんだ?」

赤い顔のまま、月丸は尋ねてくる。

「私ね、分かったの」

「……?」

「月丸のどこが好きなのか分からないくらい、月丸のことが大好き、ってことが!」

「え……」

「つまり、どこが好き、って聞かれて答えられなかったのは、全部好きってことで。全部正解で、全部外れな質問だったの!」

「お、おう……?」

「月丸くん。深く考えちゃだめだよ?女の子の哲学は、男には分かりようのない事なんだから」

「……お前は分かっているのか?」

「ううん、分からない事を分かっているのさ。……で、お二人にちと相談があるんだよね」

「え?」

「く、……暮麻ちゃんはチョコレート、誰に渡すの!?」

「「……」」

必死なお兄さんには悪いのだが、私と月丸は目線を合わせると、クスクス笑った。どうやら、月丸でさえ分かっていることのようだ。

月丸くらい鈍感でも分かること。なのに、如何にも「世間のこと知ってますよ」みたいなお兄さんが分かっていないことが滑稽だった。

「それはねー」

「おそらく今日分かるぞ」

「へ……?」

「はい、終了。安心してね、お兄さん。絶対に今日分かるから。あ、チョコレートムースが食べたいな」

「しのぶ。まずは食事からだろう?」

「え、ちょっと待って。え、え、どういうことなの二人とも!」

「「秘密」!」

「え―――――!?」

3000hitあざまーす

アクセス解析見ていたら、ちょうど3000hitでした。ヤッホー!

ここも、思えば長いこと使っているんですね……感慨深いです。

何かしようかな、と思ったりもしましたが、まずバレンタインイベントがまだ終わってなくてな……

よく考えなくても、あの三人は揃い揃って曲者なので、普通の恋愛で終われるかな、と……。

小説は、よく考えず打ち込んでいるので、自分でもなかなか思うように動かなくて、ちんたらちんたらやってます。

だって……書きたい事が多すぎるよ君たち!人数も多いし!場をかき乱す真座とお師匠さんをお休みしてもらったのは、逆にあかんかったかな、と。まとまりがつかなくて、逆に長引かせてしまっている気がします。

なんやかんやでオチ担当でしたもんね……。

あ、でも残った人たちも、ちゃんと役割はあります!それだけは言っておく!

あとは今後のネタバレ。続きに分けておくので、見たくない方はクリックしないことをお勧めします。
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どうにもこうにも交わらない

「しのぶちゃん、きょーちゃん、月丸くんいらっしゃーい」

入り口近くのカウンターで紅茶を飲んでいたお兄さんは、にぱっと笑うとこちらにヒラヒラと手を振った。

いつも通りのその仕草なのに、私には何故か固いものが感じられた。何かあったのだろうか。

そう思いつつ、私と月丸は奥の席に導かれる。梟さんは、知った顔で、厨房に一番近い席に座った。

その場所は、梟さんの特等席。お兄さんは、以前そう言っていた。

梟さんがいない時は、誰も座られる事のない席。

愛されているんだなぁ、と思うのと同じくらい奇妙な感覚が近づく。いつからそうなったのか、いつまでそうなるのか。

その不安を確信してしまうくらい……厨房近くには、チョコレートを渡そうとしていると思われる女性たちがチラチラと厨房を見ながら、忙しなくカップを口に運んでいる。

「修羅場にならないといいんだけどなあ」

「何がだ?」

少し首を傾げながら隣にいた月丸は尋ねてきた。

「あの人たち、全員明さん目当てじゃないよね……?お兄さん……」

「残念ながらそうなんだよ、しのぶちゃん。外国人の三割り増しな見た目は狡いよねぇ」

「お兄さんもきれいだよ?」

「んふふ、ありがと」

「そう言えば……去年のバレンタインは女の人の格好していたよね。なんで今年はしてないの?しかもなんか意気込み満々!みたいな格好してるけど」

「あー、それはだな、しのぶ……」

「……うん。それについて相談あるんだ。何でも食べて良いし飲んでもいいから相談に乗って下さいお願いします」

「う、うん……」

矢継ぎ早にそうお願いをするお兄さんは、初めて見た気がする。

なんでそんなにソワソワしているんだろう、と思いながら、Magnoliaで一番奥まった席に座る。

Magnoliaは、一つ一つの席の間に仕切りが作られていて、窓際でない限り遮断された一つの空間として成り立っている。だからなのか、月丸とのデートはここが多い。刑事なのに女子高生と付き合うのは、なるべく見られない方がいいよ、とお兄さんから提案されたのだ。

まあ、確かに犯罪だよね、この状況。

「……で、暮麻がどうした?」

ゴフッ……ゲホゲホゲホゲホ

「へ?暮麻さんがどうかしたの?て言うかお兄さん大丈夫?」

「月丸くんは単刀直入過ぎる!もうちょっと何かあるんじゃないかな!?」

「いや、暮麻がいない間に話をしてしまった方がいいと思ってな。ほら、来たぞ」

「オーダー伺います」

「あ、暮麻さん!あれ、制服バレンタイン仕様?」

いつもは茶色いベストに黒いエプロン、といった格好なのだが、今日は違っていた。赤いエプロンで、右上に白いハートが刺繍されている。

「ああ。イベント時期はこのエプロンになっていてな。クリスマスの時もそうだったぞ?」

「うう……覚えてない」

「必死だったもんね、しのぶちゃん」

「あうあう……ほっぺたつつかないでー」

「もしかして……俺がこ、告白した時のことか……?」

「そーだよ。ねー」

「う、うん……」

何で私が羞恥プレイに陥っているのだろうか。

それにしても、さっきからお兄さんは暮麻さんの方を全然向かない。……暮麻さん、せっかくお兄さんの為に髪を綺麗に纏めているのに。

「ねえねえ、お兄さん。お兄さんから見て、暮麻さんってどう?」

「「!?」」

「あ、あれ、どうしたの?」

二人が固まった。もう少し詳細に言うなら、お兄さんと暮麻さんが。

「暮麻さん、髪の毛綺麗にしたら、お兄さんいつも誉めてたからおかしいなーって思っただけなのに……」

「ふ、くく……ああ、そうだな。三つ編みか、それは」

あ、月丸が笑った。珍しい。

「いや、これは編み込みだ」

「う、うん、に、似合って、るよ。と、ところで暮麻ちゃん。オーダーは?」

「ああ、そうだったな。どうするのだ、二人とも……と、店主も何か作ろうか?」

「じゃあホットチョコレート三人分お願い。あ、月丸くんは苦めので」

「心得た。ではな、二人とも」

「うん、頑張ってね、暮麻さん!」

そう言うと、お兄さんはガバッとこちらを向いて必死な顔をした。読み取るとしたら「何を!?」だろうか。

「……ねえ、お兄さん。本当にどうしたの?今日おかしいよ?」

暮麻さんがいなくなってからそう囁くと、お兄さんはぐにゃりとテーブルに突っ伏した。

「……しのぶちゃんから見てもそう見える?」

「くくっ……ああ、壊滅的におかしいな……ふはっ」

「月丸くんにそう言われるなら末期だ……もうやだー」

「……話が見えないんだけど」

「ああ、今日暮麻が誰にチョコレートを渡すか、だ」

「月丸くん今日やけにステレートじゃないかい!?」

「え、そんなことで悩んでるの?」

「僕にとってはそんなこと、じゃないんだよ……」

私には、何でこんなにお兄さんが悩んでいるのかが分からなかった。暮麻さん、お兄さんにチョコレート渡すためにあんなに頑張ってたのに。

「あ、もしかして年の差で悩んでいるの?」

「んー……それもある」

「まあ、真座が暮麻に手を出す気概があるとは思っていないが」

「えー、何で?」

「……しのぶ。チョコレート一つで真座がここまで壊れているんだ。実際に手を出すのを想像出来るか?」

「んー……確かに」

「そこ納得しちゃう!?」

「ホットチョコレートお待たせしましたぁ」

そう言いながら現れたのは、暮麻さんではなかった。お兄さんはそれにどこか安堵したような表情でテーブルから起き上がった。

「あ、苦めなの月丸にね!わー、美味しそう!」

「んふふ、これは自信作だよ。だいぶ研究したからねー」

「何を研究したの?」

そう尋ねると、お兄さんはニヤリと笑った。

「チョコレートとミルクの種類と分量。あとリキュールの種類。それから企業秘密がいくつか」

「へー……あ、チョコレートと言えば」

そう言いながら私は紙袋を月丸に渡した。

「はい、ハッピーバレンタイン!」

「お、すまないな。……もしかして手作りか?」

「えへへー、当たりです!」

「て、手作りか……」

「……ちゃんと美味しいよ、もう月丸ったら……」

「い、いや、嬉しいぞ?」

「みんなで作ったから大丈夫なの!」

「そうか……」

「……って、あ、渡しちゃった……」

「ん?」

「えっとね……月丸は私のどこが好き?」

「ぶくっ……!?」

月丸が盛大に吹き出しかけた。なんとか持ちこたえたようだが、月丸の気管は大変なことになったようで、しばらく咳き込んでいた。

なんか、ここ数日で誰かしらの気管を追い詰めている気がする。何でだろう。
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