原作小説ネタバレ有りにつき注意!
続きからお読み下さい
私とイーノックは天使の追撃から逃げるように森の奥へ身を隠していた。青い流星がないか二人で夜の漆黒を見上げる。
帳がなくなった空は時折赤い流れ星が見えた。我々に同調し堕天を始めた天使だろう。
その時私は一度だけ彼に聞いた事がある。私を堕天させてしまったのを、後悔しているのか――・・・。
「ルシフェルは…後悔してるか…?」
彼、イーノックが私へ逆に問う。
終わる事のない退屈に飽きて私は信頼していた神を裏切った。
私は自らの意志で地上界へ干渉し堕天したというのに、イーノックは加担した事へ罪悪感を覚えているようだ。いや、彼は自分と長い間関わってきた私が“自らの意志”を持ってしまったのに罪悪感を抱いているのだろうか。人である彼がいなければ確かに私も人間になろうとは思っていなかったかも知れない。ただ、ヒトになった事は神に対する当て付けのつもりでいるのは私自身も分かっていた。
天界にいる友人は私を介さずイーノックへ直接使命を与えた。私がそれを許せなかったのは今目の前で瑠璃色の瞳を伏せるイーノックに対する怒りからだと思ってるのだろう。まったく、昔から考えている事が顔に出やすい奴だ。
いずれにせよもう私は時間を戻す事も止める事も出来ない。だからこそ前に進むしかない。
「おまえは追われる立場になったにも関わらず私に協力し続け文句も言わずに旅を続けているだろう?それと同じさ」
イーノックの表情が更に曇る。
「不安なんだ。君が作ろうとしている新しい世界に、私の存在はあるのだろうかと……」
「フッ――・・・、元“契約の天使”にしてはやたら人間臭い事を言うな、お前は」
私は蜂蜜色の彼の髪へ触れた。
すり抜ける事もなく柔らかさが掌を通じて感じる。こうして彼へ肌で直に接する事が出来るのもまた人になって得られたものだ。
「私は……君が作ろうとしているのが、天使がヒトとして生きるのが許される世界になればいい――・・・そう祈ってる」
それはイーノックにとってはささやかな願望だったのか。
「どうかな。何せ彼は頑固だからね」
答えを探す旅は未だに見つからない。