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俺のズッキーニ



一言でいえば『残念』だ。

 例えばどんなにかっこよくても、どんなに頭がいい人でも《残念》な人ってやっぱりいると思う。

かっこよくて、頭もよくて凄い仕事についているのに、なんか残念な人、って。

僕の場合は、それがとても身近にいる訳で……。



「うわーどうして起こしてくれなかったんだよー」
「いやぁ、シンジのパジャマから覗くピンク乳首を見ていたらすっかり遅くなってしまって……。
ピンクチェリー万歳だな。
ピンクチェリーは正義。

いやぁ、スワンスワン」

「ふざけんな!スマンですめば警察はいらないんだよ!
あぁ、もー、朝食作る暇ないじゃんかっ」

「大丈夫だ、シンジ!
今日も叔父さんのあそこはお前の痴態でズキズキズッキーニだからな!


俺のズッキーニを食べれば朝から元気百倍、パンパン…」


「ぎゃぁぁぁ!ナニ見せてんだよぉぉぉ!」


僕の、叔父さんだったりします。



(俺の、ズッキーニ☆)
「あはははは。今日も朝からズッキーニ!ははは」
「笑いごとじゃないよ!朝からあんなのっ」

朝からあんなナニを見せられて、僕の機嫌は氷点下だ。ブリザード吹いちゃっているかもしんない。


ナニがズッキーニだ。ナニがオレのあそこがズッキーニだ!

朝から僕の乳首見てるは、ナニを見せるは……。

何が楽しいんだ!僕は男なのに!


僕の名前は、森シンジ。
中学一年生。

そして、朝から変なナニを見せて僕の機嫌を氷河期にさせたのは僕の実の叔父さん。

名前を、森保(もりたもつ)という。

ああみえて、医者だ。
32歳。僕とは20歳差。

色々はっちゃけると痛い年でもある。



「でも凄いよなー、
そんな朝からズッキーニ☆とかいいながら甥にズボン下げる人が今の平成のブラックジャックだなんて!」
「…平成のブラックジャック…」


ガク、っと頭が下がる。

ああみえて、保は美形だ。
そしてエリートな医者でもある。

手先が器用で、頭の回転もよく、度胸もあって手術はほぼ成功させる。

 しかも手術痕も見えなくするような腕前からか、患者からは《神の手》と持て囃され、ついこの間はテレビにも出た。

イケメン外科医として。

ブラックジャックのような天才外科医と紹介されて。

家では、ただの変態な痛い人なのに!
みんなあの顔に騙されているんだ!!

あんなヤツブラックジャックでもなんでもない!
ただの変態医者だ!


「しっかしオレだったらあんなかっこいい人のナニの一つや二つ、朝から見れたら嬉しいんだけどなー。
そんな普通は見れるもんでもないし。


大きそうじゃん、アレ」

「…」

「実際、大きいんだろ、アレ」

「死ね」


アレアレアレアレと…五月蝿い。

そりゃ、保は僕のモノと比べると凄く太くて立派なズッキーニ…

って何考えているんだ、僕は!

しかも今は学校なのに!

お昼なのにこんな下ネタトークして…
幸い…なのか、クラスメートは各々好きな者同士とお弁当を広げていて誰も僕等の話なんか聞いちゃいなかった。


良かった。


「羨ましいなー☆あんなかっこいい人…」

ほぅ…っと恍惚に塗れた顔で溜息をつく僕の友達落合学(おちあいまなぶ)。
小学校からの友達だ。


 学は女の子みたいに可愛らしい顔をしているんだけど、中身は男好きのゲイで、ぶっちゃけノリだとか性格は保に近いもんがある。


可愛らしいんだけど…痛い残念な人。

僕の周りには残念な人しかいないのだろうか。

…類は友を呼ぶ?

いやいや、僕は残念なんかじゃない。多分。


「あぁ。いいなー☆オレもぉ、一回生でみてみたぁいー。生ナマー」
「生…生って!」

生で…ナマでアレみたいだなんて!
そんな…破廉恥な!
「ヤダナァ、シンジ、赤くなって!

ナニ考えているのぉ〜?


オレは、生でシンジの叔父さんみてみたいって言ったの!」

「あぁ…そっち…。


…って違う!

べ、別に僕は変な事考えてないんだからなっ!

けしてアレだとか考えてないんだからなっ」

「もーツンデレさんなんだから」

「はぁ!違うし」


僕はやけくそのように手元のソーセージパンを食べる。

うぅ…ソーセージパン…。
なんでまた今日ソーセージパンなんかにしちゃったんだろ……。



「いいないいなーシンジはいいなー」

変なフシをつけながら歌う学。


全然よくない!
あんな叔父さん…

あんな下品な叔父さんっ

僕にアレコレ危ない事をする叔父さんなんかっ……



僕は普通な叔父さんが良かったんだからっ
「シンジ羨ましいー」

「僕は、保なんか好きじゃない。ノシをつけてくれてやる」

「またまたぁ、机に置いてあるのは何?」

「こ、これは……」

僕の机に置いてあるのは、旦那様の健康長続き料理本。

ちなみに、僕の両親は死んでしまって、今は叔父である保と二人暮らしだったりする。

家庭能力皆無な保だから料理はもちろんのこと、家事全般は僕の仕事になっている。

保が食べる料理は大体僕が作るもの、だ。

インスタントなんか冗談じゃない。
だから僕は度々こうして健康を考えた料理を日夜研究しているのだ。


「健気だねー、叔父さんの健康思って料理本みて研究するなんて」
「別に。
保の為なんかじゃ……。最近保がちょっと顔色悪いのが気に食わないだけだから。
心配とかしているんじゃないんだからな」

そうだ。
オペが終わって家に帰って青い顔して無理して笑う保が嫌だから。

それだけなんだから…。

なんだか気恥ずかしくなって、残りのソーセージパンを一気に口に詰める。


 ニヤニヤとした学の視線が少し気に食わなくて、学の視線から逃げるようにそっぽを向いた。


結局、その後も学のにやけた顔が頭にこびりつき、授業も妙に頭に入らなかった。


くそ。
これもそれも、保のせいだ!




     *

真夜中、深夜12時。

僕は簡単な夕食を机に並べたまま、保の帰りを待っていた。

机には、サラダとハンバーグと付け合わせ。

栄養バランスがバッチリ取れた夕食である。

ちゃんと家庭科だとか、レシピ本みて細かく作ったヤツだ。


「保…まだかな…」

保は、最近帰りが遅い。

テレビの仕事を受けてから、保直々に手術してもらいたい患者が多く連日のように手術が続いているらしい。

手術はやはり気力と体力を使うらしく、ここんとこ、保はげっそりしている。

あの病院の院長。保が金になるからって、使いすぎなんだ。

他の医者がイマイチだからって。
保ばかりに負担かけて
あんな酷使して、保にもしなにかあったらどうするつもりなんだ!


保がなにかあったら…


「…嫌だ……」

保がいなくなると考えただけで胸がキシキシと痛む。

そりゃ、変態で残念な叔父さんだけど。

でも…保が…
僕を溺愛する保がもしもいなくなったら、僕は……。
胸が苦しい。
圧迫されたように、息がしづらい。


「たっだいまー、シンジきゅんー。

ダーリンのお帰りだぞうー」


玄関から、ようやく待ち望んでいた保の声。

な、なんで今。
保がいなくなった事を考えていたから、僕絶対今変な顔しているのに。

タイミング悪いよ。


「あ…」
「シンジきゅん、ただい…どうした!?シンジ!!」
「え……」

僕の肩を掴み、真剣な形相をする保。
青い顔しているのに、いつものヘラヘラした顔じゃない。

真剣で、真面目でカッコイイ……


「どうして泣いている?学校で何かあったのか?」
「あ…」

気付けば、僕は泣いていたらしい。

保は眉をよせ、苦しげな顔をしながら指の腹で僕の涙を拭った

大変な変態2

大変な変態2



大概にしろよ、俺。

ただ、遊ばれているだけなのに。




「ねぇ…弟くん」

その人は今日も突然やってきた。
なんの前触れもなく。




本日は晴天、麗らかな日曜日。

ラフなシャツに、ジーンズ。
それから紺の皮のジャンパーというカジュアルな服装で現れた。
俺の愛しい、人。

俺が通う学校の生徒会長様。そして、兄貴の親友様



「兄貴なら、」
「いないんだろう。知っているよ。なんでも書の何かに呼ばれたんだってね…」


流石あいつだよね…、と会長は呟く。

真面目な兄貴は昔から書道をやっていて、それはもう字が上手い。
将来は書道家か書道の先生になれるんじゃないかといえるレベルだ。

真面目で硬派な兄貴らしく、字は堂々と芯があり、その手の通の人すら唸らせる才能があるらしい。


だから、今日みたいな日曜日は書道協会に呼ばれたりだとか、どこかの企業や結婚式で代筆を頼まれたりする。


ほんと、俺とは違って凄い兄貴様だよ。

こんな俺とは違って…な。

「それで、家に何か用ですか?また兄貴の下着を…?」


この変態…、
失礼。
会長。

伊丹辺南平太(いたんへなんへいた)というのだが、根っからの変態で只今俺の兄貴に片思い中だったりする。

兄貴が留守の時を見計らっては兄貴の下着を物色し、オカズにしているのだ。


可愛い女の子ならまだしも。

兄貴は正直可愛くもクソもない。身長だって会長と同じくらいだし体躯だってほぼ同じくらいか、もしかしたら会長の方が細いかもしれない。


そもそも、会長はあの兄貴を抱きたいんだろうか…


まさか、抱かれたい…のか…?


会長が?
有り得なくもない。
この変態なら

「会長、」
「まぁ、今日は下着には用がないんだ。
あいつ…君の兄さんの事を想っていたら楽しいゲームを考えてね。

君とやりたいなぁ〜と思って」
「ゲーム?」


俺と?会長が?
思わず訝し気に眉が寄る。

会長はハハハッと笑いながら困惑する俺などお構いなしに家の中へと入る。
「ま、待てよ!」

勝手な事はさせられない!と俺も急いで会長の後を追った。
パタパタと会長は勝手しったるや廊下を進んでいく。

もう何度もきているんだ。

何処に何があるかわかっているんだろう。
トイレの場所からリビングまで。
母さんも会長が来ると喜んでもてなししていたから、何回か泊まった事もあるし。


不意に、ハタ、と会長は歩みをとめる。


「会長…?」
「弟くんの部屋はどこだい?」
「俺の…部屋?」

なんで俺の…

そういえば、たくさん俺の家にきている会長だけど俺の部屋は知らなかったっけ…。

…まさか。

会長、俺の部屋にくるつもりなのか…?

今日は兄貴の下着には用がないようだから…

それはまずい
部屋散らかっているし。


それに


「会長、」
「だって今日はあいついないだろう?
無断で入っちゃ駄目じゃないか」
「…いつも無断でやっているじゃないですか」


どの口が言うんだ、ソレ!いつも散々無断で兄貴の部屋でやっている癖に!

兄貴の下着失敬している癖に

「それとも何かい?君の部屋には見せられないものでもあるの?」

挑発するような会長の視線。
ドキリ、と胸が跳ねる。


見せられないもの…
あるよ。

凄く会長に見せられないもの。

AVとかそういうのじゃない。
もっとやばいもの。



 俺の部屋には、沢山の会長がいる。
もちろん実物じゃない。


沢山の会長の写真が貼られているのだ。


ストーカー一歩手前くらいに。

壁や机にペタペタ何枚も会長の写真でうめつくされている。



そんなの見せてしまったら…
絶対ひかれる!
ってか、軽蔑される!

『僕の写真使ってナニしていたの?』
なんて冷たい視線に曝されるに決まってる

それは死守しなければ



「絶対に俺の部屋は駄目です!
もし使うならもう会長の事大嫌いになります」

「それは困るなぁ、君とは仲良くしたい」

会長は困ったね…といいながらわざとらしく肩を竦める。


そして、

「じゃあ仕方ないからやっぱりあいつの部屋に行こうか」

と、兄貴の部屋へ足を向けた。

兄貴、ごめん。

でも兄貴の部屋は俺の部屋と違って綺麗だからいいよな?


俺は心の中で兄貴に謝罪し、会長に出すお茶を用意する為に先に会長に兄貴の部屋へ行くように指示をする。


会長はお茶なんかいいのに…と言っていたが。

でも、俺、会長の俺が煎れた珈琲が1番美味いって褒めてくれたから。

俺が煎れたいんだ。


会長はあまりに煎れると言い募る俺に、やがて観念したよ…と息を吐き、兄貴の部屋へ行ってもらった。


俺はいそいそと台所に行き、会長好みの珈琲を作る。
豆から煎る本格派な珈琲が好きな会長。

実は会長の好みに合わせる為に俺の自腹で珈琲メーカーも買っていたりする。俺、珈琲なんて滅多に呑まないのにさ。





会長の好み通りに珈琲を煎れ、ついでに俺のも煎れる。
後は台所にあった菓子もお盆に載せて、準備完了。

俺はドキドキしながら、煎れたばかりの珈琲を上に載せた盆を持ち、兄貴の部屋へ向かう。


「あ…」兄貴の部屋に無事ついたはいいものの。


盆で手が塞がってドアが開けられない。

一度床に置いてドアを開けるしかないか…


「か、会長…開けてくれませんか?」

ドアの向こうにいる会長に叫んでも会長の返事はない。

まさか俺の部屋にいったんじゃ…、と焦り、床に盆を置きドアを開ける。


「あ…」
「あ」

ドアを開けた先
そこに、会長はいた。

良かった、俺の部屋にはいっていなかったらしい


ただ…
ただ…、その…


やっぱり会長だから
致していた訳で、


アレを。


俺は般若になり会長のシャツの首ねっこを持ちガクガク揺する


「会長、今日は下着に用はなかったんですよね?
何しているんですか!」
「いやぁ〜何って…ナニ?アハハハ」
「全く楽しくないですよ!この変態!」
「お褒め頂きありがとう」
「褒めてもないし…」

ガク、っと頭が下がる。

「だって、使わないと下着に失礼じゃないか」
「正しい使い方しない会長のが失礼です
ってか兄貴に失礼…」
「じゃあ君の下着でもくれる?」


キラリ、と会長の瞳の奥が光った。
欲が灯ったのか…
チリチリとした熱い視線が俺を見つめる。


それは雄の視線にも、似た…
補食者の瞳。


不覚にもその瞳にトキリと胸が一つ跳ねる。

会長の、たまに見せる危ないこの視線が俺は好きで。
変態なのに、何者にも屈しないこの絶対的な瞳が好きで


「な、何言っているん…ですか…」

声が震える。

微かに期待し震える胸。


「弟くん…」

すっ、と会長の顔が真剣になる。
いつものヘラヘラした顔じゃない。

全校生徒の前で堂々としている完璧な生徒会長のモノ。

そっと、頬に会長の冷たい手が充てられる。

冷たくて、長い指先。
意外に骨張った、大きな、手。



「あ…」

見惚れている俺に、ゆっくりと会長は顔を近づける。

…キス、される。
唇が、くる。


ふっと口端に、会長の吐息がかかる。
凄い至近距離。



自然に瞼を閉じ、俺は会長がくる瞬間を胸を踊らせていた…


が。

「弟くん、そろそろ僕ズボンあげていいかな」

それは見事に変態のせいで崩れ去った。

パチリと目を開けて、会長を見る。

そういえば…
さっきから会長は俺と会話しかしていない。

つまり、ズボン…ズボンもあげてなくて…


つまり…つまりだな…。

チラリと下の方に視線を移す。

と…そこには…会長の息子さんがいた。


息子…
息子です、父さん!

ハハハ。
ハハハ。


「変態っ!」


バタン、と勢いよく兄貴の部屋を出る。

ズボンくらい早くはきやがれってんだ、馬鹿会長。



 しばらくたっただろうか…

「もういいよ〜」とまるでかくれんぼをしているかのような間の抜けた会長の声。

俺はヤレヤレっと、溜息を吐きながら、ドアを開き床に座っている会長の隣に腰を下ろす。


「会長、そんで俺になんの…ゲームでしたっけ?」
「うん、一人じゃ出来ないから是非君にもと思ってね、」

どうかな…?と小首を傾げる会長。

わかっている癖に。

俺が会長の言うこと断れない事なんて。

良いですよ、とぶっきらぼうに言う。


「男に二言はないね、弟くん」
「へ?」
「じゃ、遠慮なく」

と、会長は持ってきた鞄からネクタイと書道なんかで使う筆を取り出す。

え?

ゲームって…


「会長、いったいなんのゲー…」
「さて、と。ちょっと我慢してねー」
「会長」

俺の言葉を完ッ璧に無視し、会長は取り出したばかりのネクタイを俺の目元に宛てる。

な、何…コレ…


「会長!コレ…」
「目隠し目隠し。これやんないとゲーム出来ないから…黙って…ね?」

ね?なんて言われても。
目隠しなんて、視界が奪われてなんか恐い。

特に目の前にいるのは変態会長だし……

「か、会長…」

視界が奪われているせいか、声も恐々と細くなる。
見えない事がこんなに恐いなんて。


会長はそんな俺に、大丈夫、いい子だね、と頭を撫でてくれたが。


目隠し、するなんて…

なんの、ゲームなんだ?
福笑い?それとも何かマジックでもするのか…?


「会ちょ…ひゃ…」

 首筋が、撫でられた。

見えない分、他の五感がときすまされている為、余計くすぐったい。

くちゅ、っと次にそこに唇があてられる。

何を次はさせられるのだろうか。
会長は…今どんな顔をしている?

全くわからない


「会長、なに…」
「五感が研ぎ澄まされるだろう、目隠しをすると」
「され、ますけど…一体なんで…いきなり…?」
「ゲームだよ、弟くん」
「ゲーム…」
「そう、」

何のゲームなんだよ、コレ。福笑いなら福笑いでいいから早くやってくれ。

ただでさえ、会長がいるからドキドキしているのに。更にそこに視界を奪われる、と……


「あいつ、今日書の大会だろう?
僕はね、あいつの字も好きなんだ。綺麗な字だよね…」
「あ…」

ファサリ、とくすぐったいモノが、俺のシャツに潜り込んだのか腹の部分を撫でた。

ちょっとチクチクして。
でも滑らかでくすぐったいもの。


「だからね、今日は練習したいな…って思ったんだ。書の練習を…ね」
「書…」


まさか…
まさか…。

俺の腹を撫でているのは……


「だからね、君には練習台になってほしいんだ。僕の書の。
半紙になって欲しいんだよ」


会長は至極ご満悦に、語尾に音符でもつきそうな口調で言った。

俺の首筋を一撫でして。


僕の書って事は。
つまり……


目隠しされる前に一瞬見えたものが頭を掠める。


ネクタイと…

それから…

筆。

筆かっ、これは…



「どこが…ゲームなん…ですか…」
「君が黙って何も喋らずに半紙になってくれれば僕は御褒美をあげるから」
「御褒美…」
「欲しい、だろう?」

低い掠れた声で会長は俺の耳元で囁く。

ちゅ、っと合間合間に耳朶を噛んで。
その間も、手を止めない。

くすぐったい。

でも、それ以上に

いけない感情が頭を擡げる。

御褒美。
会長からの、御褒美。


それはいけないパンドラの箱のような、

いけない感情。


開けてはいけない禁断の箱(おもい)

「御褒美…」
「ん…?」
「欲しい、です…」

激しい息混じりに言葉が零れた。


言ってしまった。

普段なら言わない、こんな言葉。

視界が見えないから。
熱に浮されているから…

だから…

普段の俺ならこんな事言わないのに、



「素直な子は大好きだよ」


会長は唇に一つ口づけを落とす。

そして器用に今日は筆を動かしていった。

そろそろと、それは上半身から下半身へと移動する。


俺を、翻弄する為に。



妖しくおかしなゲームは、それからしばらく続いた。


俺と会長


二人だけのゲーム…

可笑しく甘美な、二人のゲーム。


いけないいけない、おかしなゲーム。


ゲームが終わった後。
会長は背後から僕を抱きかかえながら楽しげに俺の髪に口づけを落とす。

目隠しされていた、ネクタイはもう解かれている



「…会長」
「フフフ、可愛かったよ」

会長の、馬鹿。

変態変態変態変態!
ニコニコと笑いかける会長の視線からフイと明後日の方をみる


「おや、このゲームはお気にめさなかったかな?」

当たり前だろ。

あんな…あんな〜っ…

怒りを表す為に、ぎゅっと会長の足を抓る。
が、会長は相変わらずニコニコしている。

Mか、こいつ…。



「じゃあ、今度はもっと楽しい事をしようか」

「え…ふ…んん……」


顎が掬われ、そのまま口づけられる。


繰り返される、キス。

絡む、舌。


俺は、そのままそっと目をつむる。


その後は…

変態のやることなんざ、俺が言わなくてもわかるだろ…?





(楽しいゲームをやる相手は俺だけかな、

俺が思うは、貴方一人)

大変な変態



ーどうして、俺は…。


こんな人を好きになってしまったのだろうか。

神様、怨むよ。





「あ…、弟くん…」
「どーも」
「お邪魔してるよ」


ハハッと、まるで王子様のような笑顔を俺に向けるそいつ。

その笑みは一般的にはとても素敵な笑みであろう。

少女漫画ビジョンではないが、周りにキラキラと薔薇が見えた気がする。

ピカピカとした、その爽やか王子様、なオーラ

俺でも一瞬、その笑みに、くらりときてしまう。


ただし、そいつが持っている右手のものがなければの話だけど…。

その右手のものを見ると別の意味でくらりとしてしまう。



「また、やっていたんですか、会長」
「ははっ、だって、なんかもうこれやんないと落ち着かなくって…」
「…変態」

そう呟くと、心から軽蔑した視線をその人に送る。

しかしその人は、俺の冷たい視線などには全くへこたれずに


「続きやりたいんだけど…」

とこれまた綺麗な笑みを浮かべたまま、俺に言葉を返した。

この人はこういう人だ。
今に始まった事じゃない。



「よく、やれますね。人んちで…。兄貴、いつ帰るかもわからないのに」
「その、見つかるか見つからないかの瀬戸際がいいんじゃないか…
実にスリリングでエキサイティングだ。想像するだけで高揚するよ…」

そう言うとその人はうっとりと、夢心地に入るかのように悦の表情を浮かべる。

ほんとに…


「変態」

「なんとでも…。っと…続きやりたいんだけど…みていくのかい?」

「遠慮、します」

「そう…」

残念だ…、とその人はわざとらしく肩を竦めて、またそっと右手のものを鼻先に近づけた。



兄貴の部屋。
真面目な兄貴らしく、教科書の他には特にこれといって何もない。

真面目な兄貴は、部活以外の娯楽以外はあまり興味がないようだった。


ハァハァ…と、荒い息。
零れる熱い吐息

綺麗な、端正な顔なのにその顔は恍惚した、まるで天にでも登ってしまうかのような、快楽をおり混ぜた顔。


嗚呼、俺も大概馬鹿だと思う。

目の前にいる、この変態が好きなのだから。



「くっ…」
「おや…?」
「みん…な…」

やばい。
やばいやばいやばい。
マジでやばい。

変態の変態行為を見ていたら…俺まで変な気分になってきた…。


変態が目の前にいるにも関わらず、俺は床であぐらをかき、ズボンの前を寛げる。


「どうしたんだい?変態と罵っていた君が…

僕に充てられたのかい?」
「うる…せぇ…」

俺はギロリと奴を睨み付けると、ズボンに手を入れた


自分で自分を慰める。
虚しい自慰行為。

更に虚しさに拍車をかけるのが…


「へぇ…、君って綺麗なんだね…、アレ…」
「……」
「真っ赤になって睨んじゃって、かあいいね」


俺が目の前の変態を好きって事だ。

こいつは俺の兄貴しか見えていないのに。


あいつの右手には兄貴の下着。
そう、兄貴の下着。

こいつは今まで兄貴の下着をオカズに兄貴の部屋で、


ーやっていたんだ

アレを。

俺の兄貴、この人にとっても親友のヤツをオカズにして。

しかもこれが初めてじゃない

この人は何度となく親友面してうちにきては、兄貴がいなくなったのを見計らって、その下着を拝借したりしている。


ニコニコ、と兄貴の前ではいい親友面しているのに。

見ていないところでは、こんなにも変態だ。

あまりにモテすぎる変態になるものだろうか。

びっくりな事に、この変態は学年首席で生徒会長。
そしてスポーツ万能。
更には天は二物も与えたのか、整いすぎているほどの美形。


モテない筈がなかった。

そうそう、この変態の名前。


この変態は
伊丹辺南    平 太
(いたんへなん へいた)


という。

俺の兄貴とはクラスメート兼親友らしく、兄貴は会長の事を誰よりも信頼できる頭のいいヤツだと話していた。


…こんなに変態なのに…


「会長が…いけ…ないんだ…」
「ん?」
「こんなとこで…やるから…」
「それはそれは…」

ごめんね?と、ニコリと微笑みながら会長は俺の自分を慰めている手に自分の手を重ねる。

と、トキリと胸が跳ねた。


俺の馬鹿。
「責任、とってあげるよ。かあいい弟くん」
「ん…」

すっ、と手を動かしながら会長は俺の唇を塞ぐ。

「ん…んぅ…」

息継ぎも出来ないほどの、激しいキス。

追うように戯れる、舌。
絡んで、貪って、思考が奪われる。

激しい、キス
激しい、口づけ。


喰らうほどの、口づけ。


「おとうとくん」
「あ…会…長、」

会長が、俺の耳元でゾクリとするような低い声で囁いた。
連動するように、身体に熱が帯びる。

「会…長」

ねぇ、会長。
俺は、弟って名前じゃないです。

俺はあなたにとって、ずっと兄貴の弟なんですか?

会長。ねぇ、会長。

俺を見てはくれないんですか。

俺はただの、あなたにとっては玩具なんですか?

「僕みたいな変態にこんな事されるなんて…」

「んぅ…」

「ねぇ、ーー、君も大概…」


会長は笑う。
俺を翻弄しながら。


絶え間無く動かす、手。

つぃ…と、まるで獲物を前にした獣のように妖しい色をしたその瞳。

嗚呼、その瞳を見つめているだけで……


その俺を狙う会長の瞳を見ただけで


ゾ ク ゾ ク す 



「っくぁ…」

きつく俺を掴む手。
濡れそぼる、手。
卑猥な水音。

こんなの恥ずかしいのに

俺は会長とは、違うのに
なのに



「変態だね」
「ーあ…っ」



頭が真っ白になる。
力が抜ける。身体の全てが弛緩する。


そんな俺をみて会長は至極嬉しそうに


「変態」



俺を罵った。

るーむめーとは会長様



その人は所謂、生徒会長様で、みんなの憧れの的で。


最低な、人でした。




「ぅ…」

朝っぱらから息苦しさとともに口にぬるぬるとした生暖かな感触を感じ、目を覚ます。

ぬるぬると温かな。

それでいて息苦しい。

何…病気?

と目を見張れば、視界いっぱいに端正な顔。

俺が苦手…というか大嫌いな会長の…。

俺のルームメイトである生徒会長様だ。


「な、またっ」
「うっせぇな…黙れよ」

会長は五月蝿そうに俺を一瞥し、言葉を封じるかのようにもう一度俺の唇をふさぐ。

ささやかに抵抗してみるが、俺の抵抗など会長にとってはなんてことないのだろう。

今日も長い事唇を奪われ、翻弄された。

くちゅ…、とわざとらしい音。

唇を離される頃には、腰くだけになり、ベッドからすぐには起き上がれない。
そんな俺をみて会長は「ばーか」と零すとケラケラ笑いながら、部屋からでていった。

…ゆるすまじ、会長。

俺は今日もまた打倒会長を心に秘めて、拳を握る。

会長のファンからすれば、俺は羨ましい存在なのだろう。いや、羨ましいを通りこして殺したい存在かもしれない。


数々の会長の親衛隊の仕打ちを思いだし、ブルブルと身体が震えた。


俺の名前は村瀬小太郎。
小さくうるさいとよく言われる村瀬家の末っ子だ。

ここ、間宮男子学園という全寮制の高校で毎日過ごしている訳なんだけど。

でもねぇ…聞いてくださいよ。


何の因果か俺、全生徒の憧れの的である生徒会長様と同室になってしまったんです。

と、そもそもこの学園の寮は同学年の二人で一つの部屋を使うって事で、生徒会長のみ己の部屋を持つ事が出来るのね。


んで、俺も4月までは同級生のやつとほどほどにいい関係のルームメイトをしていた訳さ。


なのに…
なのにさ!


俺の不注意でたまたま裏庭で事をやっていた(何かは察してね)会長を見て以来、何かと会長は俺を構うようになってしまったのさ…。

嗚呼かなしや。

なんでもこの学園はほぼ会長の独擅場らしく…


いきなり、俺の部屋の同室になれ、だもん。

それを許す寮長も寮長だけどさ。


同室になってからは、会長に毎日のようにキスで起こされている。

これははっきり言って嫌がらせ以外のなにものでもない。


だって俺、会長の事好きでもなんでもないし、俺は副会長の親衛隊に入っているんだから。


この学園は男子校で、しかも全寮制。なので少なからず、男同士の恋愛がある。

それは女の代わりにするだけの恋だったり、本気の恋だったり、ただ欲を吐き出すだけの関係だったり。


もちろん、ノーマルな人だっているよ。
ただ悲しいかな…、この学園の風習にあてられて、男好きになるのも事実。

現に俺は元ノーマルだったんだけど、今では生徒会長副会長の添三重雫様にゾッコンラブ!


んなもんで、雫様の親衛隊にまで入ってしまっている。

この親衛隊、ってのはアイドルなんかの親衛隊と同じ。

その人が好きで好きで堪らない人の集まりだ。

といっても俺達副会長の親衛隊は大変穏便派。
副会長の幸せを願い日夜動いている。

他の親衛隊と違うのは副会長が誰かと仲良くしていたところで制裁なんかしないし、もしも副会長が誰かを好きになったらその時は辛いけど影で応援する、って暗黙のルールもある。


俺は副会長が大好きだし、何より副会長の親衛隊隊長である文屋さんが大好きだ。
だから、親衛隊である事を誇りに思っているんだけど…。


「おい…チビ」
「っ!おまえ…」

先程出ていった会長が、何を思ったか再び姿を現した。

ギロリ…と威嚇するように睨んでみても、相変わらず会長はヘラヘラ。

こいつむかつく。

会長のせいで俺がどれだけ苦労しているのかも知らないで…。


会長にも当然、親衛隊はある。しかも副会長と違って超過激なヤツ。

会長と同室になって以来、陰口は日常茶飯事。階段から突き落とされる事も多々ある。


会長には勝手にキスされるは(しかもファーストキスも奪われた)馬鹿にされるは…


親衛隊からは毎日のように嫌がらせをうけるは…

ほんと、会長と同室になってからいいことなんてありゃしない。


出来るなら今すぐ一秒でも早く部屋を変えて欲しい。ほんと切実に。


会長だって、俺を同室にしたのなんかただの暇潰しでしかないんだから…。

玩具か、俺は…


「会長…あの、」
「ん…、やる。手、出せ」
「へ?」

言われるがままに手を出す。
と会長はその手を取り、手の平に飴を落とした。

イチゴの画が袋にかかれた、イチゴキャンディー。
…キャンディー?


「会長…、何…コレ」
「やる…」
「は?」
「じゃーな…」

会長は飴を渡すと、またヒラヒラと手を振って部屋からでていった。

呆然とする俺を残して。


何…あれ…。なんでキャンディー?

ほんと、よくわかんない人だ。


気分屋でわがままでエロくて。

自己中で。
俺様で


ほんと…
「早く部屋かわんないかなー…」

早く部屋を変わって欲しい。

じゃないと…

「俺は玩具じゃないんだよ」

じゃないと、俺は

いつか会長の玩具である事に傷付いてしまいそうになるから…。

毎日毎日キスされれば、少しは引きずられる。
大嫌いだけど。
大嫌いだけど…さ。

でもそれだけじゃない気持ちも少しは出てきているから。



手の平、貰ったばかりのイチゴキャンディーを転がす。

たかが飴玉一つ貰っただけなのに…

知らず知らずのうちに、笑みが零れた。


童話パロ:シンデレラ

シンデレラ、はじめに

シンデレラパロディー。
フォレストノベルで書いたもの。
400文字制限があったので、不完全燃焼でおわったぶつ。

いつか、ちゃんと書きたいです。








あるところに、シンデレラ(灰かぶり姫)という綺麗な少年がいました。

とてもはかなく美しい、小さな花のような綺麗な少年。


シンデレラは、父亡き後、毎日のように、継母や義兄達に虐められていました。

けれども、シンデレラは幸せでした。

自分を虐める義理の兄の一人、リアスが好きだったのですから……。




「ふ…にい…さま……やめて…恥ずかし…」
「ふふふ、シンデレラ。ここをこんなにさせて恥ずかしくないのかい?」
「い、言わないで下さい。兄様…」

顔を赤らめ、はしたなく足を広げ、褥[しとね]に身体を投げ出すシンデレラ。

情欲を孕んだ顔は、普段の控えめなシンデレラとは随分印象が変わります。

女よりも美しく妖しい色気を放ち、見るものを虜にするようなオーラを纏い、リアスを物欲しげに見つめるシンデレラ。


「シンデレラ、お前は淫乱だね。…僕は君を虐めているのに…」
「あ…ふ……にい…さま…」
「何故だろうね、君を見ると、僕はいらつくんだ」
 リアスは、冷たくそう吐き捨てると、シンデレラの細腰をかきだき、首筋に噛み付くようにキスをしました。


痛いくらい、残るような、激しい痕。

リアスはシンデレラを愛してなどいないでしょう。

だから、こんなに冷たい言葉もはけるし、痛いくらいに傷痕も残すのです。

愛してなど…いないから。
ただ、シンデレラが鼻につくだけだから…


(だから…だから僕を、女のように抱き、嘲笑う…。だからお母様と一緒になって僕を苛む。

兄様は…僕を好いてなどいない…)


シンデレラはその事実に、また何度と経験したかわからない痛みが襲ってきましたが、必死に頭を振りました。

そして、その痛みを紛らすかのように、ぎゅうっとリアスの首に手を回し自分から抱き着きます。


「兄…様…お願いです…兄様」
「なに?」
「僕を…僕に兄様のものを、下さい」

シンデレラは焦らすリアスのモノに、自分から腰を揺らしました。

もう一秒も待てない、というような淫らな性急な仕草。
綺麗な、欲など一切なさそうな顔をしながら気恥ずかしげに、ねだるシンデレラ。
リアスが抱く前は、本当に何も知らない無垢な少年であったのに。

リアスに身体を開かれ、男を知ってしまった今は……


「……随分淫乱になったな。シンデレラ」


リアスはシンデレラの変貌にニヤリと笑い、そのままシンデレラの口に舌を差し込み激しいキス をしながら、シンデレラを押し倒しました。


「やるよ…お前が欲しいものを」
「あ…あん…ん…」

(兄…様)

シンデレラは激しい攻めに目を閉じ、静かに祈りました。


虐められても
苛まれても、
それでも愛しいこの人が
いつまでも自分を抱きしめてくれますように…と。


「シンデ…レラ……ッ」
「兄さま兄さま……にい…」


けして、それが、

叶わぬ思いでも。

ただ、自分を傷つける行為でも。

リアスはシンデレラの事を嫌っていても。


それでも、シンデレラは祈るのです。


リアスが、ずっと自分の側にいますようにと。
抱きしめてくれますように、と

愛などくれない義兄を、ひっそり泣きながら思うのです……

この腕がいつまでも自分を抱きしめてくれますようにと……



     *
翌朝。
シンデレラは痛む腰を庇いながら、いつものように皆の朝食を用意しました。

シンデレラの朝は、それはとても早く辛いものです。

どんなに昨夜激しく抱かれ腰がふらついても、朝の仕事をしなくてはいけないのですから。

朝の支度を忘れれば、ご飯抜きはおろか、家から追い出されます。

(追い出されたら…兄様に会えない…。そんなの…)
父が亡くなってから、シンデレラは何度も家を逃げ出そうとしました。

けれど、その度にリアスの事を考えてしまい、結局家から出られないのです。

シンデレラにリアスはいつも辛く当たっていましたが、たった一度、父を失ったばかりの頃に風邪を引いたシンデレラを看病してくれました。

シンデレラがうなされれば、夜ごと汗をふいてくれ。

シンデレラはそのたった一回の看病で、リアスに恋をしてしまったのです
「何ぼーっとしているんだい?」
「あ…」

ふらつきながらも、給仕を行っていたシンデレラの背後から意地悪な声がかかりました。

継母です。
継母は具合の悪そうなシンデレラをギロリと睨みました

「おはようございます、お母様」
「ふん…」

シンデレラは継母の為にイスを引きます。継母は当然のようにその椅子に踏ん反り返りながら座りました


「早く朝食の準備をおし、シンデレラ」
「はい、お母様」
「おはよう母さん」

シンデレラが継母に返事をしたその時、リアスがいつの間にか二人の真後ろにいました。

リアスは継母とシンデレラににっこりと微笑んでいます。

寝起きにも関わらず、リアスの髪や服は一変の乱れもなく、いつも通りきちんとしており、シンデレラはついつい昨夜の情事を思い浮かべます。

涼しげで、爽やかで余裕のある男。

それが他人からみたリアスの大多数を占める第一印象です。


しかし昨日のリアスは…シンデレラの痴態に目を輝かせ、非常に意地悪でした
「リアス、おはよう。私のリアス」

継母はいいながらリアスの顔中にキスをふらせます。

継母はリアスの美しい端正な顔が好きだったし、また自慢の息子でした。

継母だけじゃありません。
この街の若い娘は大体美丈夫なリアスに惚れているらしいのです。

ついこの間、この国で盛大なパーティーがあった訳ですが、大抵の若い娘の視線はリアスにあったと聞きます。

みんなが皆、リアスに夢中になるのです。

「母さん、ほら、ご飯が冷めてしまうよ。せっかくシンデレラが用意してくれたのに。ほら、食べよう」
「えぇ、そうね…」

リアスに促され、継母はようやく出された食事に手をつけました。

「シンデレラ、僕の分も頼む」
「兄様…はい。」

リアスに言われ、シンデレラは急いでリアスの分の食事も用意します。

(兄様…)
リアスはシンデレラが継母に絡まれ困った時はいつも助けてくれます。
あんなに、シンデレラが嫌いだとベッドの中ではいうのに。
二人っきりにならない限りは、リアスはいつも優しい顔をしています。

シンデレラと二人になった時だけ、獰猛な獣になるのです。


「それにしてもリアス、そろそろお姫様に婚約しないのかね?」

継母が、パンを頬張りながら何気なくリアスに言いました。

その言葉にズキリ、とシンデレラの胸も痛みます。

この間盛大なパーティー…舞踏会があり、リアスはこの国のお姫様の目に止まったのです。

背が高く、顔もよく、周りとは違うオーラを纏ったリアスならば当然といえば当然だったのですが。

 シンデレラはパーティーに参加出来ずにいましたが、それでもパーティーに興味のないシンデレラにとっては何の苦もない事でした。

リアスが、お姫様の告白を受けるまでは。

「婚約だなんて…母さん気の早い…」
「なにを言っているんだね、お姫様はあんたにめろめろさ。早くベールを渡すんだよ」

継母は朗らかに笑いながら、ぽん、っとリアスの肩を叩き、席を立ちました。
継母は食べるのが非常に早いのです。
リアスの皿には未だに半分ほど朝食が残っていました。


(ベール…)
「シンデレラ」
「は、はい!兄様」

不意に、リアスがシンデレラを呼びました。
継母がいなくなったので、先程とは違い、堅く冷たい声です。


「シンデレラ、ベールはもう出来たか?」
「…はい…。昨夜…」

シンデレラは、震える声で何とか答えました。

ベール。
それはこの国では婚約する時、愛を囁く時に使うのです。

婚約する相手がベールを受けとってくれたら、結婚でき受け取られない場合は破談、と昔から決まっているものでした。

簡単にいえば結婚する為の道具、です。

シンデレラは無情にも、そのベールを数日前から作るようにリアスに命じられていました。


愛している人の、未来の奥さんのベール。

シンデレラはベールを作っている間、何度となく泣きました。このベールを作ってしまえば、リアスは別の人を妻にしてしまうから。
 出来る事ならシンデレラは一生、ベールなんか作りたくありませんでした。
ベールさえなければ、リアスは誰のものにもならないから。

思いが通じないのならば、せめて誰のものにもなって欲しくなかったのです


「傷…ついているな」
「あ…」

リアスがシンデレラのきずだらけの手を掬い、目を細めます。

普段器用なシンデレラでしたが、そういった思いから手先は鈍り、何度も手先に針を刺してしまい傷になったのです。


「大丈夫で…兄様!?」

シンデレラは目の前の状況に目を丸めます。

何故って?

リアスが、シンデレラの傷だらけの手に口づけをしているからです。

普段抱かれたりもっと恥ずかしい事を沢山されているにも関わらず、シンデレラの頬はカッと赤らみました。

「兄様」
「お前は僕のベールなど作っても何も思わないのだろうな…お前はいつだって飄々としている。そこが憎いよ」
「あっ…」

揺れるリアスの瞳。

リアスはシンデレラの頬を包むと、静かに口づけを落としました

「兄さ…」
「僕は、今日、このベールで姫と婚約する」
「あ…」

婚約。
ついに、リアスが他の人のものになる。

シンデレラはその事に頭が真っ白になりました。

リアスが、誰かのものに。誰かをシンデレラと同じように抱く。
考えただけで気が狂いそうです


「やっぱりお前はなにも言わないんだな…」

リアスは何も言わないシンデレラに悲しげな声色で呟き…

そして静かにそこから去っていきました。


ほろほろと、涙を零しているシンデレラに振り返らずに。




    *

その夜、いつもより盛大な夕食がテーブルに並びました。

リアスが今夜、お姫様に結婚を申し込む事を決めたのでそのお祝いだそうです。

ついに今夜、リアスはお姫様に愛を告げる……。


シンデレラは泣きたいのを我慢し、必死に給仕を果たしました。

リアスの前では気丈な振りをし続けたのです。

「兄様…兄さま…」
「あのさー、シンデレラ!泣くんじゃないよ。もー」

リアスが姫に告白すると家を出て。

シンデレラはやはり悲しくてしくしく泣いてしまいました。

やはり悲しくて辛くてどうしても涙が止まらないのです。


そんなシンデレラを、唯一家族の中で虐めない三番目の兄ファンは、なんとかして涙を止めようと延々とシンデレラに語りかけました。
ファンはシンデレラもリアスも大好きだったから


「シンデレラ、お前は魔法でも待っているのかい?
素敵な馬車や、綺麗な靴なんでも叶う魔法とか。
だから泣いているのかい?魔法が使えないからって。女じゃないからって」
「違…僕は兄様が…」
「兄さんがなに?好きなら好きだと行動した?ただ泣いているだけじゃないか!魔法がかからないってないているだけ」

ファンは優しく、ゆっくりとした口調でシンデレラに語りかけます。


「ちゃんと前を向いて。魔法をかけるのはいつだって、恋してる人間の思いなんだから」
「でも…」
「当たって砕けろ!だ」

ファンは勇気づけるようにシンデレラの背中を押します。
ぽんぽんと軽く叩くように。

「ファン兄様…」

少し勇気づけられたシンデレラは、泣くのを辞め前を向きました。
泣いていたって何も変わらない。

そう思ったからです。


「僕、いってくる。兄様に本当の気持ち。いって、ちゃんと言う」
「そのいきそのい…ってもういない」

シンデレラはファンの言葉を待たずに駆け出しました。

自分の思いを伝える為に。



時として、リアスは一人王宮に近い森の中にあるベンチに腰掛け、月を見上げていました。

周りには誰もいません。

月の仄かな明かりだけが、そこをてらしていました。


「…シンデレラ……」

ぽつん、と零れる言葉。
リアスはついつい出てしまった声に苦笑します。

実は。
リアスもまた、シンデレラの事が好きだったのです。

リアスがシンデレラに度々強くあたったのは、思いが通じなかったから。

しかもシンデレラがリアスと同じく男だったから。

いきばのない感情が暴走し、いつも強く当たってしまったのです。


「シンデレラ…僕は…」
「兄…様」

ふと、リアスの耳に入ってきた声。


「っ!シンデレラ!?お前どうして…」

そこには、ついいましがた考えていたシンデレラの姿。走ってやってきたのか、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しています。

リアスは突然目の前にやってきたシンデレラに目を丸めました。

「シンデレラ、どうしてここに…」
「兄様にお伝えしたい事があって」
「僕に?」
「はい」

シンデレラは何度か息を吸い呼吸を整え、リアスの顔をじっと見つめます。

 二人の瞳が、静かにゆれあいました。

訪れる一瞬の静寂。

そして、意を決してシンデレラはそっと唇を開きました。


「兄様が僕を嫌いなのは知っています。

でも僕は…
僕は兄様の事が好きなんです」
「シンデレラ…」
「好きで、ごめんなさい。僕を嫌いなあなたを好きで、ごめんなさい…」
「シンデレラ」

シンデレラはまたぽろぽろと瞳から涙を零しました。


「シンデレラ、」
「…兄様…」

リアスはシンデレラの告白に答えるかのように、きつくリアスを抱きしめました。そして、優しく、指先でシンデレラの涙を拭います。


「…ずっと…、辛く当たってすまなかった…」

リアスは初めて、シンデレラに謝罪しました。

「ずっとずっと、いきばのない思いをしていた」
「兄様」
「僕も、ずっとお前に惹かれていた。惹かれて止まなかった。狂おしいくらい…」

優しくシンデレラの頬を包むリアス。


「お前を愛している」
「えっ…」

シンデレラはリアスの言葉に、幻でも見ているのかと目をしばたたかせました。

嫌っている、とは言われても愛しているなんて初めて言われたのですから。


「信じられない?」
「…はい…」
「…姫とは、婚約しない。ベールは、お前のもの、だ」
「あ………」

リアスはシンデレラを抱きしめていた腕を解き、ベンチにあるベールを取りました。
「シンデレラ、僕とずっと、一緒にいて欲しい」
「兄さま…」
「誰よりも大事にするから」
「兄さま……」
「お前に永遠を誓う。だからお前も永遠を僕にくれ」
「…兄さま」
「お返事は?」
「…はいっ…はい…」


シンデレラは感極まってリアスに抱き着きます。

リアスはシンデレラの頭にベールを載せ、それからまた大切なものを抱きしめるかのように、優しくシンデレラを抱きしめ返しました。



ーねぇ、魔法ってあると思います?

素敵な素敵な恋の魔法。
かけられるなんてお思いですか?

誰かにかけられるのを待っているんですか?


実は魔法なんて、誰でも本当はかけられる力を持っているんです。


「シンデレラ、」
「兄様」


そう、


「「愛してる」」


叶えようとする力があれば。