「ミーナ!」

誰かに呼ばれた気がした。
どうしてだろう、とてもどきどきする。
渦巻く風の中、

「ミーナは? ミーナはどうなったんだ!?」

少年が叫んでいる。
心が安堵に包まれる。あの少年が生きている――そのことが、たまらなく嬉しい。
だけれども、この状況は一体どうしたことだろう。
ミーナの肉体は篝火の焚かれた祭壇に磔にされ、魔力のみを吸い出されている。吸い出された魔力は遺跡を流れ、転移魔法の発動に使われ、異界の扉を開くことで更なる魔力をエラムにもたらした。

(異界の、扉?)

また知らないはずの言葉が自分の中から出てきた。

(怖い……)

だがいつまでも怖がってはいられなかった。これは本来の転移装置の使い方ではない。転移装置は広間の魔法陣の上にいる人や物を別の転移装置に移動する機能しかないはずなのだから。エラムはそれを異界に繋がるために使ってしまった。遺跡ごと異界に移動させてしまった。
無茶な使い方だと遺跡は思う。これでは自分は壊れてしまう。自分が壊れてしまえば、ここにいる者達は帰れなくなる。

(とんでもないことをしてくれた)

転移装置として作られた遺跡は、己の矜持が手荒く傷つけられるのを感じた。