「まだまとまってないんだけど……」

一旦言葉を切り、テロルは言いにくそうに頭を掻いた。

「人間からそれ以外の姿に変貌した場合、動作はスムーズに行くのかしら? あたしはてっきりあの黒い部分がエラムを取り込んだものだと思ったんだけど……でも脚が六本になっても一本斬られても新しい体を使いこなしてるし……」

「どういうこと?」

問えば、唸り声が返って来た。確証の無いことを言いたくないと態度が物語っている。

「考えてもしょうがないわ。とにかく、この状況で最悪なのはあいつが自分に翅があるって気付くことよ。だってエラムにはあたし達と戦う理由なんてないでしょ? あの開いた天井から異界の空に逃げればいいんだから」

ケトルの脳に閃くもの――さっきわざと怒らせたのは相手の注意を引いて地上に留まらせるためだったのか。

「さっきは、おれ、勘違いして――」

言い終わるよりも先に。

「避けて!!」

ネコモドキの切羽詰まった声が響いた。
巨大な水黽が長大な脚を生かし、凪ぎ払いの蹴りを放った。