水による魔方陣の描かれた床の隅で排水口の蓋が吹っ飛び、中から人影が躍り出た。

「ヤァッハー!!」

歓声と共に後脚を一閃。水飛沫を上げて水黽が体勢を崩す。
口吻から泡立つ液体が飛び散り、触れた箇所から煙が立った。

「うわっ!危ね!!」

ケトルは咄嗟に剣を払う。酸のにおいがした。

「リャオォ……今までどこに行っていたかと思えばァァァ……!!」

双剣使いの少年はぶるっと獣じみた仕草で身体を震わせ、水気を飛ばす。

「オレ、地下貯水池に落ちたヨー。ここまで登るの大変だったヨー」

双剣使いはそこで漸く水黽を見上げた。

「誰ヨー!?なんでオレの名前知ってるヨー!?」

男は低く笑ったようだった。

「判らぬか……。だが、そんなことはどうでもいい。私の脚を斬った貴様も生かしてはおけぬ……」

「排水口から出たら柱みたいのがあって邪魔くさかったから斬っただけヨー」

「そんな理由で斬るなよ……」

思わずケトルは呟いていた。