水面に赤黒い色が落ちる。
じゅるっ、じゅるっとした音が、ケトルの耳に嫌に大きく聞こえた。
「……に、してんだよ……」
傭兵だったそれを無造作に放り投げ、水黽の複眼がケトルを見る。
「何を! してんだよ!!」
水黽は答えない。血と消化液で濡れた口吻がかすかに笑ったように見えた。
怯みそうになる己を奮い立たせケトルは叫んだ。
「あの人はおまえの雇った護衛だろうが! なんで食べたんだよ!! おまえの望みは!! ミーナだけじゃなくて何人もの人を自分の目的の為だけに利用してまで望んだのは――」
泣きそうになった。悔しくて堪らなかった。こんな奴に沢山の人が犠牲になったのだ。
「――そんな姿になることだったのか!? 自分じゃわからないかもしれないけれどもなあ、今のおまえはでっかい虫の腹に張り付いた装飾みたいなもんだぞ!?」
「……何……?」
ぴくりと水黽が反応する。
その声は口吻から出ていた。
「私は……力を手に入れた……」
「その結果がそれかよ! 扱い切れてないじゃないか完全にさあ!!」
水黽の腹から男の声がする。
「魔術は……成功した……」
「してないわよ」
テロルが加勢した。