開いた天井からドロリとした液体が滴り落ちる。それ自体が意思を持つ様に辺りを侵食し始めた。

「水……じゃ、ない……? まるでスライムみたいだ……」

ケトルの呟きに男が答える。

「これは異界そのものだ。この世界に別世界の物質が入ってくると――」

ケトルの肺が震えた。
さっきまでの冷えた空気はすっかり重く苦しい物へと変質している。
異界の液体は月明かりに反射すらせず、黒く在る。伸び、這い、そうして倒れ伏していた傭兵の一人に触れた。
直後。鎧に身を包んだその人物は内側からぼろぼろと零れ、肉が膨張し裏返った。
断末魔とともに血が爆ぜる。もしかしたらケトルも一緒になって悲鳴を上げていたのかもしれない。
一瞬前まで鎧であった金属片を纏わり着かせた肉塊の様な「物」が、そこにあった。

「小僧、貴様に教えてやろう。これがスライムだ」

愉快そうな男の声はケトルの耳に届いてはいない。

「魔法は変質を齎す――こうして世界は生まれ変わるのだ。私の手によって」