サイードは身を屈め、目線を少女の高さに合わせた。出来る限り優しく声を掛ける。
「落ち着いて、欲しい。息を、吸って」
「すぅ……!」
少女が従う。素直だ。それが生来の性格なのだろう。
「息を、吐いて」
「はぁ……」
息を全て吐き出した瞬間を狙い、問う。
「何を、知った?」
「……おそろしいことを」
「何に、怯える?」
「……この遺跡にいる人達がすべて死ぬでしょう。いいえ、それで止まるかどうか」
予想よりも不穏な回答に、サイードの額を汗が伝う。大袈裟な表現をしているだけとも思うが、
「それは、どういう意味――」
「プリンセス!」
疑問は背後から飛来した叱責に掻き消された。依頼主が侍女を連れてこちらに向かって来る。
「お時間です、プリンセス。準備がございますのでこちらへどうぞ」
「では姫様、こちらを……」
侍女が差し出したのは無骨な足枷だった。少女が金属の冷たさを想像したのか身を引く。
「わたし、逃げませんよ……?」
「そうだぞ。プリンセスは自らの意思で私に協力すると言ったのだから」
依頼主は「自らの意思」を強調するように言い、少女は俯く。
嫌な言い方だとサイードは思った。
「ああサイード、護衛はもう良い。貴様も配置に付け」
「は、い」
依頼主はそこで初めてサイードの存在が目に入ったとでも言うように、傭兵達が集まる方向を指差した。