広間の中を魔術師達が慌ただしく動き回っていた。今夜の日付が変わる瞬間に合わせ、着々と儀式の準備が進められていく。
サイードは儀式の内容を知らない。興味もなかった。それはここにいるエラムの護衛のほとんどがそうだろう。雇われたからには仕事をこなす。それだけだった。
今回の依頼主は性格が些か高慢な点を除けば金払いが良いので悪くない。傭兵達の士気も高く、今夜を乗り越えれば報酬にありつける、それまでの辛抱だと声を掛け合う姿が見られる。
殆どの者が怪我をしていた。
魔法使い連盟より送り込まれた「雷火の魔女」との戦闘で手傷を負わされたのだ。
サイードの相方も戻っていない。恐らく――根拠は無い――死んではいないと思うが、状況が分からない為刻一刻と焦燥が募って行く。