馬車の旅の十日目。ミーナは熱を出して寝込んだ。
体がどろどろに溶けてしまいそうで、堪らなく心細くなる。
エラムの告げた、

「近くにゆっくりと休める場所があるからもう少し我慢して欲しい」

その言葉を信じて耐えた。
寝台の上で蹲る。
耐えて、耐えて、ようやく熱が引いた。
朝が来たと思った。瞼越しに光が見えたから。
そっと目を開ける。朝ではなかった。濡れた光が膜のように自分の体を包んでいた。
夢の中にいる心地で手を伸ばした。光の膜をすり抜ける。感触は無い。触れられない。実体は無いのだ。
光が収束する。背に翻る、大きな、濡れそぼった翅。
そっと背中に手を回しても、やはり触れない。

「これは……?」

「羽化されたのですね」

いつの間にそこにいたのか、気付けばエラムが入室していた。
混乱するミーナをよそに告げる。

「おめでとうございます、プリンセス」

「羽化……?」