ミーナ・アンゼリカはウィクトル・アンゼリカとミリアム・アンゼリカの一人娘として十二年間を生きてきた。
フェンデルク王国のアルナーという田舎町で花屋を営む両親の手伝いをしながら伸びやかに育ち、純情な気質で常連客に可愛がられていた。
年頃の少女と同じように恋を夢見ることもあったが、自分は平凡な人生を送るだろうと思っていた。それで満足だった。片田舎の生活は刺激に欠けると友人達はこぼすが、ミーナ自身は物語のような劇的な日常はいらない、平凡ながらに穏やかな幸せを築ければそれでいい――そう思っていた。
自分が人間ではないなどと思ったことはなかった。
ただ、時折感じていたこと――自分がここにいても良いのかという不安、わけのわからない地震の無さ。両親を含め周囲の人間達は皆優しいというのに何故そんな感情に囚われるのか自分でも理解できず。漠然とした焦燥を抱きながら日々をやり過ごす。
そんな折である。エラムが訪ねて来たのは。