テロルは唱えていた呪文を解き放つ。拳くらいの大きさの火球がふたつ、直線上に飛ぶ。
進行方向で刀を構えていた女が僅かに上体を反らし、死角から回り込んでいた双剣使いが跳躍してかわした――かに見えたが、火球は進路を変えて二人を追尾する。

「アハ。魔女さん、意外と器用ヨー」

「『意外と』って何よ『意外と』って!」

逃げ惑う双剣使いがくるりと反転。

「でもこういうのって、当たれば追いかけて来なくなるヨー!」

剣で火球を薙ぎ払う。

「ばっ……!」

信じられないものを見る気持ちでテロルは叫んだ。

「馬鹿なの!? まともに触ったら火傷する程度の威力はあんのよ!?」

だがテロルの予想に反して燃焼は起こらず、弱々しく火の粉が掻き散らされる。

「熱っつ!」

双剣使いがぶらぶらと手を振るが、本来ならば熱いの一言では済まない衝撃と火傷が発生するはずである。

「まさか、打ち消したの!?」

同時に刀使いも火球を両断。確かな熱量と速度を持っていたそれがあっけなく消滅。困惑するテロルに僅かに生じた隙を目掛けて刀が走る。

「テロル!」

即座にサルファーが風の刃を刀使いに撃ち込む。
だが、生み出されたそれらは命中する前に霧散し、刀使いの髪が、袖が、大きくたなびく。

――こちらの魔術が弱体化している!?

戦慄がテロルを襲う。頭上でサルファーが身体を強ばらせるのが伝わってくる。

――間に合わない……!

ここは既に刀の間合いだった。
テロルは唱えかけの呪文を中断し、せめて急所から少しでも攻撃を逸らそうと後方に跳ぶ。
金属がぶつかり合う音がした。
飛び込んで来た蜂蜜色の髪の少年が、真っ向から刀を剣で受け止めたのだった。