少女は泣き腫らした目を丸くしてケトルを見上げていた。
少女はケトルよりも少し年下に見えた。肩につかない長さの髪。大きな苺色の眼は涙に濡れ宝石のよう。絹のドレスに包まれた華奢な身体は震えている。

「ええと……」

ケトルは頭を掻く。こういった時に何を言うかがわからない。

「おれ、ケトル」

少女を安心させるために頬笑む。

「森の中でおれを呼んだのは……きみ?」

「っ……!」

それを聞いた途端、少女は感極まったように泣きじゃくり始めた。
泣いている場合じゃないんだけれどな――ケトルは内心冷汗をかく。通路の奥からは複数人の足音や怒声、地響きのような音が近付いて来ている。早く逃げないと、という焦りがあった。

「わたっ、わたしの、声、聞いてくれる人がいた……」

少女は涙を拭い、ケトルを真っ直ぐに見上げた。

「……わたしは、ミーナです。ケトルさん、わたしのことを助けてくれますか?」

「もちろん。そのためにおれはここに来たんだ」

ミーナの手を取り、立たせる。

「あのっ……!?」

目尻を赤らめるミーナの手を引き、牢の外へ駆け抜けた。