「何だ……!?」

足元から震動が伝わる。
ごぼりごぼりとした鳴動の後、水路に水が溢れ、何らかの機構の作動音と共にケトルの正面の壁が左右に開いた。

「逃がさないヨー!」

少年が投げた剣がケトルの肩を掠め、血の筋を描きながら後方へ飛び床に渇いた金属音を響かせるのと、ケトルが壁のスイッチを押したのは同時だった。
壁が閉じて行く。
息を整えながら触れた肩からは薄く血がにじんでいた。
轟音を立てて壁が閉じる。こうなるとただの壁と見分けがつかない。
ケトルは不思議と痛みを感じなかった。心臓は五月蠅いくらいに早鐘を打っている。これは恐怖か、あるいは高揚か、ケトルには判断出来ない。
湾曲した壁沿いに進むと、突き当たりに扉があった。見るからに最近新しく取り付けたと思わしき金属製の格子扉である。その横には見張りの男が立っていた。
格子の向こうに顔を覆って泣く少女がいる。
あの少女だ、とケトルは思った。

「――見張りの交代か?」

男が声を上げるのも聞かず、ケトルは走りながら剣を抜いていた。