(月が再び雲に隠れてくれて助かった)

少年は建物の陰から陰へと移動しながら周囲を探る。
宿屋の敷地にはざっと数えるだけでも二十人の男達がいた。その誰もが武器を持っている。彼等は少年の起こした爆発に混乱していた。だがそれ以上に殺意をみなぎらせていた。

(これだけの人数がいきなり現れるものだろうか?)

少年は考えながら髪に手を伸ばす。先程は鞭のように使っていた布を髪に当てると、布はひとりでにぐるぐると巻き付き始めた。魔術を込めた布である。伸縮こそしないが少年の意思で自在に動かす事が出来た。
少年は他にもこのような道具を持っている。だが、

(困った)

少年は宿の屋根を上りながら歯噛みする。

(部屋に鞄を忘れた)

現状手元にあるのは外套を始めとする衣類に仕込んだ物だけであった。