この夜わたくしは居心地の良い空間を見つけました。それはまた、わたくしがこの街に受け入れられた実感を得られた日でもありました。勿論帝都がわたくしを拒んでいたのではありません。ここは古くから交通の要所であり、往来が盛んな街ですから。異民族を受け入れて大きくなる「大都市」そのものの象徴の如き街ですから。一線を引いていたのはわたくしの方なのです。
大人数の中にいるとき、わたくしは独りでした。常にどこかで在りし日の故郷を思い返していました。しかしこの街では独りの者達がめいめいに過ごしても良いのだと、そう背中を押された気がしたのです。