しかし、そんなわたくしの危惧を余所に、その猟犬は至って穏やかでした。一見すると軍隊の気質があるようですが、同業者のようでもあります。それもそのはずでした。彼は数カ月前まで徴兵されて軍医をしていたのだと語りました。
シャロと云うその犬はわたくしよりも若く、均整のとれた長身に、すっと鼻筋の通ったなかなかの美男子です。しかしどことなく陰鬱とした雰囲気を纏う男でもありました。その容貌に落ちる陰が男をひどく妖しげに見せ、ふとした瞬間に目を離せなくなるような引力を以てわたくしの眼前に鎮座しておりました。