わたくしは初め、珈琲の苦味と喉を滑る溶けた岩に似た感触が好きではありませんでした。
ですからその珈琲店に入ったのも珈琲が目当てではなく、ピアノの音が聞こえたからです。
扉から漏れ聞こえてきたまばゆいばかりの天上の調べに誘われ、ふらりふらりと足を踏み入れたそこは、さながら神々の庭のようでした。
あちこちに吊り下げられたランプ草の灯りに照らされて、店内はゆらゆら揺れていました。中央には珈琲を淹れる大きな機械が鎮座し、あちこちに伸びた半透明の管は銀河の配列に従って玻璃をくり抜いたような透明な容れ物をかぽかぽと沸かしていました。蒸気の中、音を頼りに人だかりを進めば、奥には立派なピアノを弾く金色の毛並みの猫がいました。

――その猫の面白そうにピアノを弾くことと言ったら!