『……このままではおそろしいことが……だれか……』
「やっぱり空耳なんかじゃない……!」
声に導かれケトルの足は街道に出る道ではなく、森の奥へ向かう。
「おれ、ケトル! ケトル・ペニーロイヤル! 君は誰? どこにいるの!?」
呼びかけはただ木々に吸い込まれていく。
ふとケトルは土に杭が埋め込まれているのに気付いた。境界を示す杭である。
ケトルの村は森のそばにあり、村人達は森からキノコや果物を採って生活している。子供も採集に出歩く。しかし奥に行ってはいけないと言い付けられていた。森は全てが村の領土ではなく、王国の所有する森の一部を税金を払って使わせてもらっているのだと村の大人は言った。
「ここから先は、王国のもの……」
ケトルは唾を飲み込む。
「でも……」
女の子の痛ましい声を思い出す。
「勇者とは、勇気ある人のことだ!」
境界を踏み越えた。