白と黒に覆われたピアノの上を、猫の指が軽快に遊ぶのです。曲調は格調高き天上の調べのようでいて、しかし、演奏の調子が小気味良く続くので、わたくしのような音楽の心得のない者すら、ざわめくような、高揚するような、わけもわからず平伏したくなるような感情を覚えるのです。これを感動と謂うのでしょうか? この、心の臓を包む興奮を?
聴衆達は皆、椅子に深く腰掛け、じっくりと耳をそばだてているようでした。ある者は珈琲を傾けながら。またある者は親しき者と静かに語らいながら。
わたくしはこの国の神を知りません。しかし信仰をモティーフとした絵画を拝謁する機会はありました。この光景はさながらそのひとつのようでした。

どれくらいそうしていたのでしょう。
ぼおっとしてピアノに釘付けになっていたわたくしを、店員がそっと席に案内しました。