今までだって、楽しみに待っていれば約束した日は必ずやってきた。夏休み、誕生日、クリスマス。
そしてロイさんとのアイスクリーム三昧の日も。
三日前からカウントダウンで勝手に忙しかった。アイスクリーム三昧ももちろん嬉しいけど、初めてロイさん家に行けるとか、二人きりの密室でのデートという大きな意味を持ち合わせている。
鞄に着替えと歯ブラシと、念の為タオルを一枚詰めたけど他に要るものが無くなって、もっと持って行かなくては!と何故か焦った。予備校から直に行くから参考書の一式は持って行かなきゃなんない。ゲーム機は…いいや。きっとそれどころじゃない。
後は何だ?。男同士だから万が一の場合も避妊具は要らないと思ってるんだけど、どうなんだろう。同性愛者のサイトには着けるのがマナーとか書いてあった。そもそも、オレが着けるんだろうか?ロイさんが着けるんだろうか?。
避妊具って買ったこと無いんだけどオレのサイズとかもあるのかな。学生用、とか?それはあるわけねえか。でも相手のサイズもわからないまま他人の使う物は買い置けない。ひひひひ。真剣に考えてるのに顔がにやけてきてヤバい。万が一にならねえかなあ、なりてえなあ〜。期待するだけは勝手だからほっといて欲しい。
そう、着替えとかが何を指し示しているのかはご想像の通りだ。
『母さん。週末は友達のとこに泊まりに行ってくるから』
『夜に騒いで、お家の方にご迷惑かけないようにね。エドは声が大きいんだから。何か皆さんで食べられるようなお土産を買って行きなさいよ』
『土産はもう決まってるんだ。連絡先とか必要?』
『携帯持って行くんでしょ?。何かあればメールするわよ。くれぐれもご迷惑かけないようにね!』
『はーい』
突っ込まれたらどうしようと様々な言い訳を用意して臨んだのに、報告はあっさりと終わった。ロイさんだってこれなら文句は無いだろう。先手を打っておきたかったオレは早速メールで連絡した。
『母さんに泊まりに行く了承をもらった。
手土産を忘れずに、ご迷惑かけないようにって言われたけど、連絡先は要らないってさ。
これなら泊まりもオッケーだよな?。
もちろん、ロイさんが困るならちゃんと帰るから安心して。
ロイさんとアイスクリーム三昧が楽しみすぎて寝らんねえ!』
相変わらずの押せ押せ戦法。メールには素直な気持ちも混ぜてみた。ロイさんがまた悩んで返事に困っちまうかななんて考えてたら、即返ってきた。
『負けた。
私も楽しみにしているよ
夕飯は用意が出来ないから、外で一緒に食べよう』
負けたって事は、泊まっていいって事だよな?。いやったああああ!。拳を強く握って、自動的に小さくガッツポーズ。頑張って押した甲斐があった。
ロイさんと夜を越せるなら、オレの寝床は床でいい。寝顔を盗み見たりできないかな。ああああ、緊張と期待と喜びが混ざり合って最大値まで膨れ上がる。
そんなわけで、約束の土曜日はもう明日なんだ。荷詰めも終わった。アイス以外の手土産も買った。今夜しておく事があるとするならば、身体の隅々までよく洗う事と、念の為一回抜いておくくらいだろうか。いや、また外を走って一旦落ち着いた方がいいだろうか?。
「兄さん邪魔だよ。どいて。何にやけてんだよ」
風呂の入り口でうろうろしていたら、アルにどかされた。にやけた顔を指摘されてちょっと焦る。
「気持ち悪いなあ」
「いいだろ別に」
「明日は泊まりなんだって?」
「あ、うん。まあ」
「ふうーん。頑張ってね」
頭の良い弟はにやりと笑って、意味深な事を言いやがった。何かバレただろうか。兄ちゃんの片思いの相手が男で年上のサラリーマンだとか、その人とよからぬ事を考えてるとか、顔からわかるものなんだろうか。何が、何がバレたんだ?。でも怖くて聞けない。
「あの、アル…」
「母さんには内緒にしといてあげるよ。ガリガリ君一本ね」
こくこくと頷いてしまった。これじゃ自分から『隠し事がありますよ』って言ってるようなもんじゃないか。でも、ガリガリ君一本でどうにかなるんだからオレは喜んで差し出そう。 アルは対価を払えば秘密はちゃんと守る義理堅い男なんだ。
外も走らず、今夜は大人しくして明日に備えよう。うろたえているうちにアルが先に風呂に入ってしまった。仕方無いので部屋に戻って順番を待つことにした。もう一回、持ち物をチェックしておこうっと。