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雨と海と

※大佐視点


ここの所、セントラルでは雨が続いている。
雨は嫌いでも好きでもない。ただ、発火布が濡れる事で錬成が難しくなり、もしもの時に錬金術による攻撃が出来なくなる可能性はある。
まあ、大抵の事件は私が現場まで出て行く事もないし、錬金術以外で戦えば良いだけの話なのだが。それでも部下達がふざけて『雨の日の大佐は無能』などとしつこく言っている事に呆れて嫌気がさしてしまう。君たちには面白おかしいそのイヤミも聞き飽きたよ。そろそろ台詞が変わる気はないのだろうかね。
本当はどうでもいいんだ。暇な部下達に付き合っていられる程の時間もないし、晴れたからと言って早く帰れる訳でもないからな。

窓の外はさらさらと小粒の雨が絶え間なく降っている。帰りまでに止まないだろうかとぼんやり眺めていると、中庭を横切る黒い傘。端から赤色がひらひらとはみ出ている事に気付いた。この司令部で、あんなにも鮮やかな赤を身に着ける人間は一人しかいない。
やれやれ、やっと来たか。すぐに報告を怠るから、いつも口を酸っぱくして注意しているんだ。心配してるなんて一言も口に出したことはないけど、ちょっとはかわいいところを見せたらどうだ。
なんて、言ってもどうにもならないだろう。あの小さいのは、ちっとも人の言葉など聞かないのだから。
どうにも鬱々とした感情が苛立ちと交わって、気分は宜しくない。全てを湿気のせいにして机に戻って仕事を進めていると、しばらくして扉を叩く音がする。

「開いているよ」

部下がくるかもしれない可能性に、無難な返事を返す。開いたドアから、予想通りの赤が入って来た。

「よ、久しぶり」
「鋼の。久しぶりになる前に、少しくらいは顔を見せなさい」
「セントラルは雨なんだな。南は晴天続きだったぜ」
「君は私に自慢しに来たのかね」
「まあそれもある。はい、報告書」

コートの裾が濡れている。前髪もぺしゃんとして、アンテナに元気が無いというか。大きさは相変わらずなのだが随分と雰囲気が違う。
机の前まで来て湿った紙の束が置かれる。封筒に入れてくれよと思ったが、細かい注意も面倒くさいのでそのまま受け取った。

「そんで、これは土産」

続いてポケットからそっと出し、差し出されたのは掌に収まる大きさの貝殻。巻貝の種類らしいそれは、色も形もあまり見たことのないものだ。

「どうしたんだこれ」
「旅先でじいさんに貰ったんだ、海の貝なんだってさ。いろいろ海について聞かされてさあ、長い話に付き合ったら最後にくれたんだ」
「海か。一度行った事があるな」
「へえ。大佐はあるのか」
「あるよ。大きくて広くて、潮の匂いが生臭い」
「魚臭いのはイヤだな」
「そういう匂いじゃないよ。こう、風が吹いて日差しが強くて、とても気持ちが良いところだ。…説明が難しいな」

鋼のが土産を寄越すなんて珍しすぎる。そして、私達が穏やかにこんな雑談をしている事も。

「なあ。海の貝を耳に当てると、海の音が聞こえるんだってさ」

錬金術師のくせに、こんな子どもっぽい事も言うのか。鋼のは今すぐにそれをして欲しそうにこちらを見ている。仕方なく耳に当てると、さわさわと反響したような音が、するようなしないような。

「どう?どうだ?」
「ああ、そうだな。こんな音だったかもしれん。風の音というか、波の音というか」
「そうか」

適当に話をあわせただけなのに、鋼のは嬉しそうに笑った。
しまったどうしよう。かわいい。とてつもなくかわいい。彼が初めて見せる態度に、不覚にもときめいてしまった。

「これ、貰って良いのだよね?」
「土産だからな」
「ありがとう。海の音を聞くよ」
「おう。気分転換にしてくれ」
「書類に目を通しておくから、明日また来なさい」
「あーい」

ひらひらと手を振って出て行く、小さな後ろ姿を引き留めたくなる。もうちょっと話をしたかった。少しでも慣れてくれた事が嬉しくてたまらない。
早く明日になったらいい。また他愛ない話をしよう。君のために甘いものを用意しておくから、お茶くらい付き合ってくれよ。






べたなネタが大好きです(*´`*)
15歳兄さんはすでに大佐のことが好きで、アタックするつもりでいたらいいなあ。大佐はまだ気付いてません。
サッカー見てたらこんな時間になってしまった。
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