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031八段目


薄暗い朝、天気予報は雨の確率60%。つけっぱなしのテレビから「傘はお持ちください!」ってお姉さんが言っている。後に「絶対損はさせませんよ!」と続くような自信満々の口調がなんだか羨ましい。
オレは制服に着替え、支度をしながらずっと迷っている。傘を持って出かけるかはとても悩むところ。
いつもなら、これくらいの降水確率じゃ傘なんて持って出かけない。でも今日はロイさんに会う日だから迷うんだ。

雨が降るとしよう。ロイさんが傘持ってなかったら、オレは持って行かねえと。愛するロイさんを冷たい雨に濡らすなんて、公衆の面前でそんなエロい事は出来ない。
じゃあオレが必ず持って行けば良いかというと、そうでもない。
ロイさんが傘を持って来たとする。オレも傘を持っている。これは自らチャンスを失うことになるじゃないか?。そう、『相合い傘』という大きなチャンスを!。
一つの傘の中に入れば、否が応でも体の距離は近くなる。濡れちまうよ?なんて男らしく心配しながら体をくっつけたり、濡れた服を拭いてあげたりも出来る(かもしれない)。あ、ハンカチも用意しとかないと。


結局、折り畳み傘を鞄に忍ばせるという、潔くない作戦に落ち着いた。第三の可能性である『ロイさんの仕事が忙しくてドタキャン』も視野に入れたからだ。
どっちにしろ雨は降って欲しい。でないと相合い傘もできないからな。

今回の目当てはチャレンジ・ザ・トリプル。プロレスラーの名前みたいでかっこいい。ダブルを頼むと一つオマケしてくれるなんて、サーティワンは太っ腹すぎると思うんだ。
先にロイさんに頼ませて、オレはまた被らないように選ぼうかな。お互いのアイスをピンクのスプーンで掬い、食べさせたり食べさせられたり間接キスまがいのいちゃいちゃがしたい。
実際にはオレがロイさんに差し出すばかりで、あまりロイさんから「あーん」はしてくれない。男同士だし、普通はそんなことはしないとわかってる。オレだって友達とそんなことはしない。ロイさんが会社の同僚と「あーん」とかしてたら、きっとオレは嫉妬で発狂する。


相合い傘に備えて今日は駅で待つ。電車が来る度にぶわっと増えては、お疲れ様の波が外に流れていく。一秒でも早くあの人を見つけたくて、改札の正面に陣取った。
オレの隣にいたお姉さんは彼氏が来たみたいだ。改札を出たばかりの背広姿の男の元へ走っていく。
彼氏であろう男はロイさんと同じくらいの背丈。その横には清楚な雰囲気のお姉さん。オレ達もあんなにくっつけたらいいのにとつい羨望の眼差しで眺めてしまう。

本来なら、ロイさんの横にはあんな感じのきれいなお姉さんが並ぶんだろう。男であるオレは、頑張っても受け入れてもらえないかもしれない。そんな事はわかってるつもりだけど。
ロイさんは優しいから、オレの下心に溢れた馴れ馴れしい態度にも付き合ってくれているんだと思う。主にあーんとか。
でも出来ることは全部やって、最後はきちんと好きだって伝えたいんだ。ダメ元でも、嫌われない程度に続けていたら少しくらいは馴れてくれないかな。今よりもう少しだけ距離を縮められないかな。恋愛初心者は初心者なりに、したたかに前向きに考えるようにしている。

とにかく、雨なら相合い傘のチャンスだし、アイスがトリプルならあーんのチャンスも三倍だ。オレがもっとセンチメンタルな人間だったら、この曇天に己の不毛な恋を重ねて嘆いていたかもしれないが、生憎そんな暇は持ち合わせちゃいない。
今日出来ることは今日やる。押せるなら押しとく。次のチャンスなんて来るとも限らないから悔いは残したくない。
男に全く興味が無いオレですら惚れてしまった相手、ロイさんと出会えただけでも奇跡なんだ。あの人に彼女が居ない今は、片思いのオレは頑張ってもいいはずだ。

目の前に誰かが立ち止まって、視界が遮られた。色んな事を考えている間に油断したみたいだ。いつの間にか雨が降り出していた事にも気付けなかった。

「すまない。待たせたね」

久しぶりに聞く声が、心地良く胸の中を擽る。抱きつきそうになる気持ちを抑えて、オレはゆっくりと視線を上げた。





今回はこれでおしまい。トリプルあーんや相合い傘が成功したかは想像にお任せします。
関東は晴れてます。雨の日にあげたかったー(笑)。
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