テイルズパロ設定のシリアス小説3連チャン企画。
第一段はシノ×アカネ。



とある月明かりが細々と道を照らす夜。
その少女は暗い道に一人立ち尽くしていた。

初めて自分の意志で踏んだ世界は、あまりにも広かった。
狭い狭い鳥籠に慣れた鳥が、翔ぶのを躊躇ってしまうくらいに。
あれ程までに焦がれた外なのに、いざとなると足が動かない。
どこに向かえば良いのか、分からない。
先の見えない暗闇が恐ろしい。
ふと、思い出した言葉。
『よくお聞きなさい、私の可愛い娘』
外の世界にはね、

「ねぇ」

『マモノガスンデイルノヨ』

「………っ!!?」


それは、一人の少女だった。

「君見かけない子だね?」
最近この村に来たとか?いやそんなわけないか。
こんな引きこもりの村に外部の人間なんて滅多に来ないもんなー。
綺麗に笑ったのは初めて見た紫色。
「あの…」

貴女、人間?

少女は爆笑した。
ひとしきり笑ってようやく落ち着いたようで、涙をぬぐって答えた。
「勿論、人間だよ…この村は魔物が入れないようになってるのさ」
神様の御加護ってヤツ?
何故か一瞬無表情になった気がした。

「あ、俺はシノ、君の名前は?」
答えようとしてハッと気付く。
私、さっき、声を出してしまった…?
力なく首を横に振るとシノは首を傾げた。
「教えたくない?」
違う
「名前ない?」
違う
「…喋れないの?」
頷いた。

「でも、さっきは喋っていたじゃないか」
もう一度首を振る。
「…俺には声を聞かせる価値もないって?」
「…がう、違う!!」
私と話したと知られたら、貴女は酷い目に遭わせられる。
私の声は人を不幸にする。
そう掠れた声で叫べばシノは満足そうに笑みを深めた。
「そんな綺麗な声が、不幸を呼ぶわけないだろう」

だから、どうか君の声で、名前を。
「…アカネ、です」

この世界には汚いものもたくさんあるけれど、同じくらい美しいものもたくさんあるよ。
だから、清い君に綺麗なものをたくさん教えてあげる。

「さあ、一緒に秘密の冒険をしよう!!」

出逢う筈のなかった二人の秘密の会瀬は、ただ月だけが見ていた。


『風と鳥の出逢う夜』

(閉じられた鳥籠の中に吹いた紫の風は)
(紅の鳥を乗せ空へと翔る )



シノにとってのアカネは自分の分身。勿論性格も育ちも事情も顔も何もかも似てないけれど、人より世界を知らないアカネに自分の知っている世界を教え込んだ。いずれ村を出ていかなくてはならないから、自分の生きた証みたいなものとして残していきたい、みたいな。

アカネにとってのシノは初めて自分で出逢った人。物心ついて割とすぐに家に閉じ込められていたために、今まで殆ど人に関われなかった。それで脱走して初めて会ったのがシノで、この後もシノに色々教えてもらいシノを通して世界を見ることになる。