〜暗いVer〜
翠嵐学園高等部のとある教室。
精密機械が並ぶそこはいわゆるパソコン室という部屋で、そこには一人の男子生徒が酷く周りを気にしながらも怪しげな笑みを浮かべていた。
「ふふ、ふふふ、やったぞ、ついに生徒会の極秘データの入ったパソコンにハッキング出来たぞ…!」
ぶつぶつと独り言を言いながら手は休めずにキーボードを叩く。
その時、キーボード以外の音が鳴る。
カツン…カツン…。
「…っ!!(誰だ!?)」
カツン…カツン…カツン。
廊下に響く足音が徐々に大きくなる。
カツン…。
ふいに音が止まる。
ギギギィ…と軋んだ音をたてて扉が開かれる。
「違反者確認…」
顔を出したのは、黒の執行人と呼ばれる、男にとって最も会ってはいけない人。
執行人は、灰暗く微笑った。
「執行させていただきます」
「はぁ、はぁ、何であんな所に…っ!」
男は必死に走る、走る。
捕まったら最期。
その言葉が足を動かす。
ふと、自分が大分離れた所まで来ていることに気が付いた。
ここは、パソコン室から遠くにある応接室。
いつの間にこんなに走っていたのかと思いながらも、ここまでくれば、と安堵の息を吐く。
「暫く応接室に隠れるか…」
「残念、ここは応接室じゃないんだなぁ、これが」
突然独り言に返事があった。
バッと後ろを振り向くと、そこには紫の魔術師が。
「何言ってる?ここは、応接室、だろう」
周りをよく見てみろ、と馬鹿にしたように言う。
そう、確かにパソコン室に近すぎるとは思ったのだけれど。
「あはは、違う違う」
ほら。
魔術師は壁に手をかけるといっきに壁を剥がした。
そこは、パソコン室から近い図書室。
「な…、お前、一体何をした!?」
「これ、俺が描いた壁紙」
よく出来てるだろー、と楽しそうに言う。
「な、そんな、有り得ない、こんなこと、どうやって、」
それを聞いて大きく破顔する。
「俺の魔法にかかれば全ては芸術へと変わるのさ」
言い方は冗談でも言っているかのよう。
ただ、そこに広がる光景は紛れも無く魔法と呼ぶに値するものだった。
「こんな、ピンポイントで壁紙を作って貼っておくなんて考えられない…!」
まるで、俺がここに逃げて来るのを知っていたかのようだ。
そんな心の声に返事があった。
「うん、ここに来ると思ってた、いや、分かってたよ」
言葉と共に現れたのは、紅の数術士であった。
「馬鹿な、こんな広い学園でこんな的確に予測出来るわけ…」
「私に計算出来ないものなんてない」
穏やかな双眸で、しかし堂々と言い放つ。
「何なんだよ、こいつらは…っ」
すると、廊下に足音が反響する。
「逃げないの?」
早くしないと捕まってしまうよ。
「、くそ…!」
またしても走り出す。
「あーあ、駄目だよ」
またしても、君は気付かぬ内に決められた道を進んでる。
その先にあるのは…。
走って走って、着いたのは行き止まりの部屋。
表札などろくに確認もせずに扉を開く。
「いらっしゃい」
「ようこそ、生徒会室へ」
そこには、今まで会った生徒会メンバー以外の二人、事実上のトップ二人がいた。
「待ってたよ、君がくるのを、首を長くしてね」
碧の指揮者が手を広げて言う。
「は、俺は、生徒会室になんか来るつもりじゃなかったのに」
気付いたらここに辿り着いていた。
「それは仕方ないよ」
君は俺の指揮に従わざるを得ないのだから。
「ふふ、流石パパ」
格好良いー、とのんびりと言う蒼の絶対君主。
こんな奴の指示で、俺は捕まるというのか。
「お前なんかにっ…!」
「なんかって酷いなぁ」
言葉とは裏腹に大して気にも留めないように言った。
「お待たせ」
「待った?」
「任務完了したよー」
残りのメンバーが帰ってきた。
それにお疲れ様ー、と声をかけている。
ふ、と突然雰囲気が変わった。
先程までののんびりとしていたのが嘘のように、冷たい空気が流れる。
笑ってはいるのだけれど、その表情に感情はなく、背筋に悪寒が走る。
「君は、生徒会の禁忌に触れた」
だから、見逃すわけにはいかないんだよね。
これは、本当にさっきと同じ人間なのか。
「お前は、誰だ…」
「俺?俺が、頂点だよ」
この学園の、ね。
全ては俺によって決まってるのさ。
その言葉で自分の愚かさに気付いたとしても、もう遅い。
役者は皆揃ってしまった。
「さぁ、始めようか?」
君は素敵な
(地獄への招待状を手に入れた)
長い、長すぎる…。
暗いシリーズは全部制裁ネタで統一してみました。
暗いのは書くの楽しいけど大変だなぁ。
そして、せっかくなので前に考えた決め台詞を言わせてみた。
それをやるために紫さんが有り得ないことをしてしまっているのは気にしない(←)
→次は明るい話