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君に黄色のねこじゃらし・9

※8の翌日だと思ってください。


久しぶりに、大佐に出勤命令が下りた。
中尉の代理と大佐病欠の言い訳だけでは、乗り越えられない案件があるそうだ。内容は詳しく教えて貰えなかったが、俺たちも聞かなかった。ただ、大変だという事は向こうの様子で伝わって来る。
相変わらず大佐を元に戻す方法はわからない。俺達に気を遣いながらも、中尉達には焦りが見えて心配になってしまう。

その日は朝早くから、ホークアイ中尉とブレダ小尉が迎えにやって来た。身支度を整えるまでは、大佐も自分で殆ど出来るので手間はあまりかからない。問題は猫耳と尻尾だ。
猫耳は引っ張ってガムテープで頭に貼り付けて、上から包帯で巻いた。その力技にアルはすごく心配してたし、小尉も気の毒そうに見ていたが、中尉の言い出したアイデアだった事とそれ以上の代案がなかった為に決行された。
尻尾はズボンの右に入れるか左に入れるかで迷った。これは中尉にはわからない具合だと思う。男にしかわからないポジショニングだ。

「大佐。ちょっとの辛抱だからね。帰って来たら僕と兄さんで外してあげるから、それまでは我慢だよ」
アルが大佐の頭を心配しながら優しく話しかける。俺はと言うと、昨日のねこじゃらし騒動から大佐に謝るタイミングを失って、機嫌が悪いふりをし続けていた。
馬鹿らしいと自分でも思う。でも、今更謝るのもおかしいし気まずいし。どうしろって言うんだ。

準備の整った大佐は、小尉の運転で連れて行かれた。暴れたり嫌がったりはしなかったので、今回は楽だった。悲しそうに車に乗せられる姿は、まさしくドナドナの子牛のようだった。

「大丈夫かなあ。大佐、耳が痛くないかなあ」
「平気だろ、あんなの飾りみてえだし。時々は窮屈な思いしたらいいよ。あー、居なくて清々するぜ」
「兄さん!」

アルに怒られながら、俺はどんどん気持ちのタイミングも失って行く。
大佐が居ないので、今日は二人で出かけられる。わかっていても、俺もアルも家にいた。いつ大佐が帰って来ても良いように。何かあったら迎えに行かれるように。
あんなんでも、猫のあいつは俺とアルにとってペットみたいなもんだ。
いけ好かないと思っていた上司が愛玩動物よろしく家族みたいな距離で存在しているなんて、不思議だし滑稽だと思う。でも今では、心配もするし大切だとも思う。俺もアルも言葉にしないだけでそう感じていた。

二時を過ぎた辺りで、電話が鳴った。反応の良いアルが飛んでいって、受話器を握る。

「…はい、はい。わかりました。じゃあ迎えに行きます」
「どうした」
「送れる人が居ないから、大佐を迎えに来て欲しいって」
「あいつ面倒だなあ。本当に邪魔くせえ。アル、行くぞ!」
「僕は留守番してるから、兄さん行ってきてよ」
「え、何で」
「帰り道でちゃんと謝って、仲直りしてきなよ。文句言ってたって出かける準備してさあ。本当、素直じゃないよね兄さんは」

既にコートまで羽織った姿に、言い訳が出来ない。気まずさと恥ずかしさに真っ赤になりながら、弟に言われるまま俺は大佐を迎えに出かけた。




つづく。
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