※現代パロディ社会人ロイと学生?兄さん。オチも続きもないです。



秋は月見バーガー。
特にマクドナルドだけひいきしてる訳じゃないんだが、月見バーガーの宣伝を見ると国民的行事として食べに行かねばならん気になるんだ。

制限の無い独り身だから、どうにも外食やジャンクフードに偏りがちだ。
でも今夜は月見バーガー。どうしても月見バーガー。昨晩、ベッドに入った時から決めていた。だからではないが、仕事も早めに切り上げてきた。駅に向かう途中で見上げた夜空には満月が輝いていて、やはり今夜しかないと決心は堅くなる。


地元のマックに入って、持ち帰りかイートインかで迷う。出来たてを食べるのがベストだと思い、月見バーガーのセット、ドリンクは爽健美茶(←カロリーに対するささやかな抵抗)をイートインで。
夜九時をまわった店内はかなり賑わっている。学生グループの盛り上がる声がうるさいのは、いつの時代も同じだと思って諦める。
見渡すとカウンタータイプの席が一つだけ空いていたので、ねじ込むようにそこへ入った。

マックに来ること自体が久しぶりだ。摘んだポテトが熱くて揚げたてで、何本か口に放り込んでそうだこんな味だったと思い出す。油の味なんだろうか。マックのポテトはマックの味がする。そういえば、今ポテトは安いんだっけ。一つ買って帰ってつまみにするのもいいな。

今年は肉が大きい大月見なんてのもあって心惹かれたが、30代の胃には優しくない事はわかりきっているのでやめた。
3月に18年ぶりのスーパームーンだったから大月見なんてやってるのかと想像していたら、「シリーズ発売20年目記念商品として2010年に販売された「大月見(だいつきみ)バーガー」も再び登場」と、ニュースサイトに書いてあった。ハズレだ。
自分のロマンチストぶりに恥ずかしくなり、誤魔化すようにがぶりと目の前の月見バーガーに食らいついた。肉と、卵と、ベーコンとオーロラソース。こうだろうと思い浮かべて欲しい味であったことに安心する。

食べ進んでふと気がついた。目の前のポテトが既に半分無くなっている。そんなに食べたっけ?と考えていたら、隣から伸びてきた手が私のポテトをひょいと摘んだ。

(……?)

隣には小柄な学生が座っていた。金色の長い髪を一つに括っているが、どうやら性別は男みたいだ。視線は携帯の画面に釘付けで、メールを打ったり何かを見ていて周囲に注意を払えないようで。
彼の目の前のトレイは既に空になっている。トレイに置かれたポテトのケースと私のポテトの位置が近いから、間違えているんだろう。困ったなあ。『それは私のポテトですよ』と告げるべきか、『良かったら食べて下さい』と譲るべきか。微妙な判断に迷う。

「あ…」

困っていたらポテトを摘んだ手が止まった。

「わ、すいません!ポテト食っちまった!友達でもねえのに!」
「いや、いいよ。もし良ければ食べてしまってくれ」
「ちょっと待ってて!」

私の話も聞かずに椅子からぴょんと下りて、焦った様子で消えてしまった。数分後に戻って来た彼の手には、トレイ。その上にでかいポテト。

「ごめん、これ、良かったら」
「ありがたいが流石に食べきれないよ」

そうかー、どうしよう。と、困っている。よく見れば整った顔立ちをしている。背も思ってたより小さい。何歳くらいなんだろうか。かわいいなあ男だけど。

「じゃあさ、半分こ」

半分こなんて言葉が妙にくすぐったい。言動もかわいいとかどうしたらいいんだ。わさわさとポテトの半分を私のトレイに分けて置き、自分も席についてポテトを食べ始める。

「悪りいほんと」
「いいよ。君が忙しそうだったから、私も声をかけ損ねたし」
「ならもっと申し訳ねえや。なんかおごろうか」
「気持ちはいただいておくよ。君も言っただろ、友達じゃないんだからと」

君からそんなにおごって貰えないという意味で返したんだが、うまく伝わっていなかったようだ。

「じゃあさ、友達になればいいんだ。オレはエドワード。宜しく」
「よ、宜しく。ロイ・マスタングだ」

勢いに押されて、自己紹介した上に差し出された手を握って握手までしている。あれ、なんでこうなった。

「ロイさん月見?、オレ大月見食ったけど足りなくて」
「良く食べるな成長期か」
「そうそう、伸びてんの」

うっかり会社帰りのマックで友達ができてしまった30代なんですが、これからどうしたらいいんだか本当に迷うんだ。
そして、エドワードは既に携帯出して番号交換する気満々なんだが。

「ロイさんスマホ?いいなあー、オレまだ古いの使ってんだ」
本当に友達みたいな口調で話すから、私もうっかりメアドを確認してしまった。

月見バーガーはおいしかったですよ、学生の友達が出来ましたよ、しかも馴れ馴れしくてかわいいですよ、という満月の夜の話。





オチはないです。月見バーガーうまかったです。