※ポエムです




最初はちょっとした好奇心だったんだ。

目をかけてる子供と、司令部でしか会った事が無いなあとふと思いついた。

相変わらずあのちっさいのは可愛げが無くて、一定の距離以上は絶対に縮めさせない。別に恩を売りたい訳ではないから、可愛い笑顔や感謝の言葉までは期待していないさ。あれも小さいながら一匹の男で、それなりにプライドも高いだろうと予想もついている。

しかし、あまりにも遠い。物理的な距離も心の距離も。こちらが一方的に親愛の情を持ちすぎているのか?。
そうだな。例えるなら、あの雰囲気は近所の野良猫に良く似ている。餌をやっているから私の顔を見て寄っては来るが、絶対に触らせる事はない。手を伸ばすと逃げたり威嚇したり引っ掻いたり。会いたい時には出会えず、こちらには予告も無くふらりと現れる。
私は揺れる尻尾を眺めるだけで、それがふわふわなのか毛並みが固いのか、想像するしかないんだ。

もし、私達が過ごす時間がもっと長かったらどうなるのだろうか。ここが軍の司令部で、ロイ・マスタングの執務室でなければ。
私も軍服でなく、君もその赤いコートでなく、もっともっとリラックスしてぼんやり出来るような環境下だったなら、君は私と仲良くしてくれていたんだろうか。

可能性を思い浮かべれば浮かべるほど、年が近かったらとか軍属でなかったらとか、果ては異性であったならとか。現実からかけ離れ過ぎてきてなんだか可笑しい。
そんな非現実にちょっと好奇心が背中を押しただけだったんだ。
まさか、こんな事になるなんて。


今私は、自宅のソファーで小さな体を組み敷いて上から見下ろしている。
目の前には金色の瞳が蜂蜜の飴玉のように光って、射るような鋭さでこちらを見据えている。

「……離せ」

やっと開いた唇から、強い拒絶の言葉が投げつけられる。

「だって君が逃げるから」
「不穏な動きされたら逃げるに決まってんだろ。退けよクソ大佐」
「クソだなんて酷い」

手足をばたつかせるので、更に体重をかけ直して拘束する。掴んで押し付けた手首は細い。片方は肉で、片方は鋼。知ってはいたが触れるのは初めてだ。

「離せ!、あんた何が目的なんだ!」
「可愛くないなあ」
「こんな状況で、可愛くはいそうですかって従う訳がねえだろが!」

とにかく怒っている。乗っかって拘束されているのが気に食わないんだろうな。
仲良くしたくて家へ呼んだ。茶を飲んで菓子を食べて話をして、それからどうしたっけ。そうだ。彼の三つ編みに触れた。金色できらきらして綺麗だったから。
そうしたら、鋼のは驚いた顔をして飛び退き、距離を取った。ごめんと謝ろうと、伸ばした私の手を叩いて払いのけた。
なのに鋼のは、自分で叩いたくせに気まずそうな顔をした。そんな顔をするなら最初から叩かなければいいのに。どちらかと言えば私の手の方が痛いと思うんだがな。
この子は時折、そういう顔をする。自分で乱暴な言葉を投げつけておいて、相手が傷付いた様子をみると、驚いて辛そうな顔をする。無意識なんだろう。そんな様子は私の胸の奥を微かに苛立たせた。

鋼のの肩がが揺れた。これでは逃げられてしまう。そう思った瞬間に、立ち上がろうとした彼を押さえつけていた。

「鋼の、逃げることはないだろう?、悲しいじゃないか」

私は彼の機嫌を損ねないよういつも通りの優しい笑顔を作っていると言うのに、彼の警戒は解けない。実際、私の中には今までと違った何かが沸々としている。彼は本能的にそれを危険だと悟ったのだろう。

「いやだ、離せ、よ…っ!」
「離したら逃げるだろ、せっかく話をしていたのに」
「当たり前だ!」
「じゃあ、離せない」
「わけわかんねえ!」

激しく首を振った鋼のの前髪が、彼の目をつついている。痛いだろうと思って、両手で押さえていた手首を片手で纏めて強く握り直す。空いた片手で前髪を払おうと、そっと手を伸ばした。

「っ!」

その瞬間、彼の表情が変わった。いつも自信過剰で人を小馬鹿にしたような態度から、今まで見たことも無い表情。びくりと体を震わせ、そこに在るのは何かに怯える十五歳の少年の顔。

私を拒否して、更に怯えているのか?。ただ、前髪を払ってやろうとしただけなのに。
何故だか酷く悲しくなった。もっと近い距離にいると思っていたのは、私だけだったのか。そしてその感情は色を変えて、怒りに近いものとなり心を一杯に満たした。

出会ってから今まで、彼に見返りを求めているつもりは無かった。ただ、私にも笑ってくれたらと思っていた。いや、私は無意識に見返りを求めていたのだろうか。それだけ「でも」いいと言い訳をつけて。

「なんで、笑ってんだよ。何考えてんだよ…!」

微かに震える声が、唇の間から漏れ聞こえた。この機械鎧は、どうやって外すことが出来るのだろう?。そう考えていた事は黙っておいた。

元には戻れないのだろう。今よりもう少しだけ彼に信用されていたとは思うのだが。
私は彼と仲良くなりたかっただけなんだ。

強いて言うなら、それが動機。






監禁しちゃうんじゃないでしょうか。多分。
続かないです。