結局、夕飯は無難にファミレスで食べた。あまりのんびりせずにそのままサーティワンへ。予定通りバラエティーパック六個入りを買って電車乗って、順調にロイさん家の駅に到着。うちの駅からあんまり遠くなくて、何かあれば来られるななんてほくそ笑む。

駅前のコンビニに寄って、夜に食べるおつまみとか菓子を買って、これから一緒の場所に帰るなんてまるで同棲中の恋人同士みたいでにやにやする。

「何?ビール買うの?」

ロイさんが冷蔵の棚の前で悩んでいる。

「いや、こっち」

となりのアイスの棚を指差して、いいかな、ってオレに了承を得るみたいに聞く。あああ可愛いいいい!。ロイさんかわいいいい!。沢山アイス買っても今日は誰も怒らないよ?大丈夫だよ?。オレは扉を開けて、ハーゲンダッツのバニラを一つ取る。

「家に買って帰るときは、弟が好きだから大抵ガリガリ君なんだ。ハーゲンダッツもいいよな。ロイさんは何が好き?」
「バニラが好きだな」
「オレも。ハーゲンダッツのバニラも好き。なんか大人ってイメージがある」

昔見たコマーシャルで、恋人同士の雰囲気の男女が指でアイスを掬って食べさせる。というのがあったんだ。その時は何も考え無かったけど、後から思い返したら相当エロい。なので、オレの中では『ハーゲンダッツのバニラは大人味』という認識がある。そんな下心を込めてバニラを選んだとは、ロイさんには言えるはずがない。

でかいサーティワンの袋の中にアイス。コンビニ袋にもアイス(とかお菓子)。幸せが詰まってるよなってロイさんに言ったら、そうだねって返ってきた。このやり取りもオレには幸せだ。





「お邪魔しまーす」
「どうぞ」

到着したのは立派できれいなマンション。中に入れば部屋もきちんと片付いていてなんだかおしゃれだ。白と家具の茶で統一された部屋は物が少なくて清潔で、あまり生活感が無い。一人暮らしなのに大きなソファーとか観葉植物って必要か?、やっぱり何か欠点を隠してなきゃ不自然だと思う。ロイさんは出来過ぎで嘘臭い。

「好きな所に座っててくれ。飲み物は紅茶でいいか?」
「あ、うん。あんま気ぃ遣わなくていいからなー」

荷物を端に置いてソファーに座ってみたが落ち着かない。せめてと思い目の前のテーブルにアイスクリームを並べる。これ全部好き勝手食べていいと思うとテンションが上がる。

「これだけ並ぶとすごいな」
「今夜は自堕落にアイス三昧だからな」
「いいね、自堕落」

自堕落がツボに入ったらしい、ロイさんが繰り返して笑う。背広を脱いでネクタイを緩める姿に目が釘付けになる。こないだからオレの中でブームになっている「意地悪ロイさん」が重なって変に興奮しそうだ。
すぐ真隣に腰掛けて、嬉しいんだけど近すぎてオレが汗臭くないか心配だ。待ち合わせ前に走らなきゃ良かった。落ち着け落ち着け。まだ宴は始まってもいないぞ。
アイスを気遣って、冷房はちょっと強めに入れたらしい。涼しくて快適になってきた。
さあ、そんな本日のお持ち帰りフレーバーだけど、二人でいちゃいちゃしながら六つ選んでみた。店のお姉さんがちょっと呆れてたけど、幸せいっぱいのオレ達は誰にも止められない。
オレの強い希望で、ラブポーションサーティワンとベルジャンチョコレートチャンク。ロイさんはダイキュリーアイスにラムレーズン。後は迷ってキャラメルリボンとトロピカルアイスを頼んだ。
クリーム系とシャーベット系がバランス良く並んで、これだけ食べたら暫くは満足しそうだ。

「何から食べようか」
「そりゃあ好きなものを好きなだけ!。端から一口づつ取ってくのはアリだと思う」
「それは贅沢だ」

それぞれにピンクのプラスプーンを握りしめ、思い思いのアイスを掬って食べる。ロイさんの顔がまた幸せそうに緩んで、つられてオレもにやける。

「ラムレーズンが美味い」
「もっとラムが濃くても私は嬉しいな」
「子供が食えなくなるだろ」
「じゃあ大人が頑張って食べる」

意味なんてないけど、バカみたいな会話が楽しい。暫く食べ続けてから、ロイさんが立ち上がって何か持って来た。

「飲んでてもいいかな」
「もちろん。ロイさん家なんだから」

ウイスキーらしい瓶と氷の入ったグラスが新たにテーブルに置かれた。色とりどりのかわいらしいアイスと対照的で、ミスマッチがおかしい。ロイさんは琥珀色の液体を注いで水みたいに飲む。アイスと酒って合うんだろうか。

「ロイさんは酒強いのか?」
「そこそこに。君は?…って、未成年か」
「飲めるけど、ビールはあんまり好きじゃない。それ、くれって言ったら味見させてくれんの?」
「味見程度ならね」

紅茶と似通った色の液体は、匂いはとても良い。飲めるのは嘘じゃない。だって弱いかどうかは聞かれてないじゃないか。
うちは母さんがいわゆる「ザル」ってやつだ。酒自体をあまり飲まないが、どんなに飲んでもニコニコしてて顔色一つ変わらない。対してオヤジが弱い。「下戸」だ。弱いくせにビールを開けて、真っ赤になってはへろへろになっている。オレはどちらの血を強く引いたのだろうか。
ちなみにアルは母さん似だ。どんなに飲んでも顔色が変わらない。しかし酒に興味が無いので、オヤジの付き合い以外は飲まない。遺伝的に良いところは全部あいつが持っていったのかもしれない。文武両道で外面もいい、オレの自慢の弟だ。