※久しぶりに片思い兄さんちょう短文。



ものすごい夢を見た。

大佐がオレにベタ惚れで、何でもかんでも全てを盲目的に受け入れてしまう程にメロメロ。まだガキで色気なんて無いようなオレを相手にしてるのに、何かしらの魅力に完全に参ってて心酔しきっている。
とにかく、俺のボキャブラリーでは言い表せないくらいに大佐がオレに惚れてるんだって状態。そんな前提の素晴らしい夢だ。

オレが何を言ってもどんな態度を取っても、大佐は諦めないし嫌いにもならない。冷たく言葉で拒否しても気まずくならず、しつこいくらい繰り返し大佐から求めてくれる。照れ隠しに罵倒しても殴ってもだ。
ああ、何て都合がいいんだろう。オレにばっかり都合いいのはオレの夢だからだけど、こんなに欲望丸出しなの内容を見ること自体も珍しい。


ソファーに座ってふんぞり返ってるオレの前には、片膝ついて『待て』の状態の軍服姿の大佐。大佐はオレに触りたくて仕方が無いみたいだ。強く求められている事がとてつもなく嬉しい。

「オレに触りたいの?」

触りたいのはほんとはオレの方だ。今すぐ飛び付きたいのを抑えて我慢して、余裕の表情を作って見下ろす。対して大佐は余裕のない切なげな表情でオレを見つめている。これが夢だと早めに気付けて良かった。自由な妄想の中なら何をしても良いはずなんだから。


「そうだな、ちょっとだけならいいよ、大佐」

勿体ぶって許可を出すと、そっとのばされる男の腕。大きな手のひらがオレの頬を撫でる。その手を支えてそっと頬擦りしたら、一気にぎゅっと抱き締められた。

「オレに触るのは好き?」

ソファーの下から膝立ちに抱きついてくる大佐を、迎えるように腕をまわして抱き締める。大佐の頭はオレの胸元に埋まり、甘やかしてるような格好はとても気分がいい。指先を黒髪の中に差し入れて何度も頭を撫でる。気のせいかもしれないけど、大佐はいい匂いがする。
軍服越しに肩や背中を撫でる。意外と細く感じるのは、オレの想像では大佐はそんなに大きくないからか。まあ、実物とこうした事がないんだからしょうがないよな。

「大佐。…たいさ…」

求める気持ちに相手を呼ぶ声が甘くなる。でも、オレを大好きなはずの大佐からは何も言葉は無い。

(あ……、そっか)

気付いた事実に悲しい気持ちになって、大佐を抱き締める腕に力がこもる。
多分だけど、声が無いのはオレが想像出来なかったからだと思う。大佐が特別に甘い声音でオレを呼ぶなんて、きっと有り得ないって心のどこかで思ってる。だから想像に至らないんじゃないか。
軍服だってそうだ。オレは軍服以外の大佐を知らない。そしてその体も。離れて眺めているだけでは確かな大きさはわからない。

「なあ、オレ…」

言いかけた言葉は光の中に消えた。今、オレの目の前には昨日から泊まってる宿の天井が広がっている。夢は良いところで覚めるもんだと決まっているが、これじゃあまりにも寂しい。

夢から覚めて、欠伸ではなく溜め息をついて体を起こす。
あいつの事をこんなに好きなくせに、オレは何も知らないんだ。良いと思った匂いも、撫でた背中や肩も手のひらの感触も。全て妄想の中でしか存在していない。
そうだよな。自分の夢だからと言っても全てうまく行くわけじゃない。酷いこと言ったり拒否なんてしたら嫌われるに決まってるし。
それにオレは、未だ夢の中でさえ好きだと告げることが出来ずにいる。

あいつの優しい声を聞ける関係になれるんだろうか。男同士の恋愛感情なんて不毛でしかないのに。
暗い事を考えていると、現実逃避に瞼が重くなって来た。二度寝の誘惑を断ち切りベッドから勢い良く降りて、誰に話しかける訳でもないのに「よし!」と大きな声で気合いを入れる。
夢に現実味を持たせるためにも、そろそろ顔見に行ってみようかな。ちょっとは押してみようか、匂いくらいは嗅げるかもしれないしな。後でアルにセントラルに行けるか相談してみよう。

悩んでいても立ち止まる時間は無い。目を覚ます為に、シャワーを浴びに風呂へ向かった。





大佐→→→←兄さんな王道ロイエドの大佐は、片思い兄さんから見たらきっと羨ましい筈だ!と思って。