6月×日。晴れ

梅雨の中休みってやつらしい。強い風に吹き飛ばされて流れる雲。留まらない雲に隠れる事を忘れたかのような太陽。照りつける日差しが目に痛い。
オレはどっちかというと夏はあんまり好きじゃない。眩しいし暑いから。その事をロイさんに話したら、

「君は色素が薄いからかな」

って納得していた。
確認するようにオレの顔を覗き込んで、じっと見つめる。その視線と顔の近さに心臓がばくばくして、我を失って押し倒しそうになる。でも公衆の面前でそんなことしたら犯罪だから、ぐっと我慢して耐える。どうしてここはアイスクリーム屋なんだろう。二人っきりの部屋とかじゃないんだろう。スーパーいちゃいちゃタイムが始まる度にそう思う。

「瞳も金に近いんだね。ブロンドだとあまり目立たないが…睫も長いんだな」
「家じゃオヤジも弟も金髪で見慣れてるから、考えた事なかった。変かな」
「いや、綺麗だよ」

ああああ!またこの人は無自覚に口説いてくるんだから!。どんだけタラシなんだよ。そんでオレはどんだけたらされたらいいんだよ!!。
負けじとオレも顔を寄せて、ロイさんの瞳を覗き込む。真っ黒だと思っていたら、濃い焦げ茶だ。

「…真っ黒だと思ってた。ロイさんのは濃い茶色なのか」
「真っ黒ではないよ。髪は黒いがな」

黒い睫が縁取って、ロイさんの目がこっち見てて、恥ずかしくなって体を引いた。きれいだなあ。好きな人だからそう思うのかなあ。

「オレも黒のほうが良かったな。格好いいし」
「それは無い物ねだりだ。君の金色、私は好きだよ」

好きって言った!、私は好きだって!!。たらされまくって幸せで死にそうだ。アイスよりも先に溶けそうになる。オレがたれる。自分でも何を言ってるのかよくわからない。
落ち着かせる為に早めにアイスを平らげて、ロイさんのりんごソルベをねだる。今日のロイさんは、りんごソルベとダイキュリーアイスでジュニアサイズ。オレは待ってる間に一個たべたから、サーティワンラブをレギュラーで。どっちも夏みたいな色をしている。

「ロイさんは夏休み無いの?」
「欲しいところだがね」
「そっかあ」
「君だって、受験勉強があるだろ?」
「あるけどさ。ちょっとくらい夏らしい事したいじゃねえか」
「あまり遊びすぎるなよ」
「ロイさんと遊べたら、それでいいんだけどな」

二回も口説かれたから、お返しに口説いてみた。でもやっぱり通じてない感じ。でも負けない。

「君の考える夏らしい事って?」
「お祭り行ったりプール行ったり。あと、バラエティーパック買って、ロイさんとだらだらアイス三昧したり」

どうよ。夏らしいって言うか、ロイさんとしたいことなんだけど。叶うのなら七夕の短冊にどれを書こうか迷ってるくらいなんだ。この際贅沢は言わねえから!どれか一つでもいいから!。

「君とアイス三昧はちょっといいなあ…」
「っ!。なあ、ロイさん家に呼んでくれるなら、オレがバラエティーパック買う!。いつも奢って貰ってるお礼もしたいしさ」

大きな魚が釣り針に引っかかった。それを釣り上げるべく、丁寧に優しく大胆に、竿を立てたり寝かしたりしながら釣り糸を巻いていく。ちなみに本当の釣りをしたことはない。時々遊ぶゲームだとHIT!って頭の上に出てる感じ。
ロイさんが黒い手帳を鞄から出した。パラパラと捲って、空いている日を探している。

「…朝や昼から空いている日が…難しいな」
「夏休みとか週末なら、予備校終わって夕方からでもいいよ。泊めてくれるなら更にありがたいけど」

一か八か押してみた。恋愛というのは、いつでも賭みたいなもんだなって思う。ここぞのチャンスに、どれだけ勝負できるか。間違えれば損失は大きい。言った後に緊張する。だってロイさんの顔はあまり晴れやかじゃない。

「ご両親が心配するんじゃないか?知らない大人と一緒だなんて」
「必要なら紹介しとくし、外泊の時はちゃんと言うから大丈夫」

泊まりがいいです!、絶対に泊まりがいいんです!!。でかいチャンスを目の前に、信じた事もない神様に祈ってみる。受験は自分の努力で勝ち取るから、どうかこの恋愛に力を貸してください!。

「うーん、7月になるけどいいかな。決まったら早めに連絡するから」
「いやったあ!。アイスは一緒に選ぼうな」
「私が出すよ」
「それじゃお礼にならないからダメ。オレもなんかさせてよ」
「ありがとう。楽しみにしてるよ」

後はテンション上がりまくってのぼせて、なんだかふわふわした足取りで家に帰った。期末試験頑張らなきゃ。ちゃんと予備校行かなくちゃ。オレにはご褒美があるから頑張れる。


夜中、お泊まり対策に色んな事を考えてシミュレーションしてたら、たぎりすぎてつい叫んでアルに怒られた。

「ぅおお!おお泊まりぃぃ!!!」
「うるせえぞバカ兄!」

あいつ、物腰柔らかなふりしてすげー怖いんだぜ。