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夏の忘れ物2


「おうわっ!」

一人の少年が、座っていた私の脚に器用につまづいた。両手にはソフトクリーム。何が何でも死守するんだという気迫の伝わる格好で、目の前に転がった。
「大丈夫か?」
起こしてやりたいが、手を差し伸べようにも私も片手が塞がっている。
とにかく、この事故でどちらが悪いかという議論は横に置き、こちらから手助けの意志がある事を表明する。
「立てるか」
「あー、これ一個持ってくれる?」
まさかのタメ口に不快感を出さないよう気をつけながら、彼が守ったソフトクリームの一つを受け取る。少年は起き上がり、私の隣に腰掛けた。
金色の長い髪を一つに括っている。さっき横切った金色は彼の尻尾だった。白い肌、はっきりとした目鼻立ちは幼いながらに整っていてみとれそうになる。
「いてー。前見てなかった」
「怪我は?」
「大丈夫。ソフトクリームが無事な…ら…あー」
彼が手にしていたソフトクリームは、斜めにしたらしく彼の服に垂らしてしまっている。
私は自分のソフトクリームを急いで食べ終え、ポケットからハンカチを取り出した。
「君は前を見ていなかった。私は脚を投げ出していた。責任は半々という事でどうかね」
「まあ、そうかなと思う」
「このソフトクリームを渡す相手は?」
「え?」
「まさか一度に二つを食べないだろ?」
「弟が」
私は彼にハンカチを差し出した。大きな瞳がぱちぱちと瞬く。
「私が触れて良いなら拭いてもいいんだが、通報されてしまうだろうからね。そっちも持とうか」
「え、でも」
「蟻がたかるぞ」
「たからねえよ!」
奪うように受け取り、ハンカチで服を拭う。広がるだけの染みは茶色。彼のソフトクリームはチョコレートで薄い色のシャツには天敵だ。
「早めに洗った方がいい」
「無理だなこれ…」
眉間にシワを寄せてもきれいな顔は様になる。サイドに長く下ろした彼の前髪にも、チョコレートソフトクリームがついている事に気がついた。金色の飴にチョコレートを付けたような色合いはとても甘そうに見える。
「じっとして。こっちもついてる」
被害が広がる前にと、指先で前髪を摘んでソフトクリームを拭う。急な接触に驚かせてしまったようだ。少年は固まったまま動かない。

「兄さん、何やってんの?」
彼と良く似た色合いの、短髪の少年がやってきた。ミュージアムショップで買い物をしたのか、図録を抱えている。
「君のお兄さんは両手にソフトクリームを握った状態で、私の脚につまづいて転んだんだ。君のソフトクリームは無傷だよ」
弟にソフトクリームを渡し、立ち上がる。
「私は食べ終えたから、君が座るといい」
「ありがとうございます。兄さん、お礼言った?」
「責任は半々…」
「もう!何言ってるのさ!」
兄よりも弟の方がしっかりした兄弟らしい。弟に礼を言われ、私はそのまま美術館を後にした。
ハンカチは置いてきた。誠意にしては薄っぺらいが、何も無いよりマシだろう。計算高い大人はそんな事を考えていた。



続きます


発送のお知らせ


自家通販の発送を全て終えました。お待たせしてしまい申し訳ありません。数日中に届くと思いますので、よろしくお願いいたします。

前回の記事からなんとなく短文を投稿してます。
「夏休み」って言葉だけでわくわくするのは、学生のような長い夏休みを味わう事の難しい大人も一緒で。
どうしてもマスタング視点になってグチグチしてしまうんだよなー。あれがうらやましいとか、これがうらやましいとか。
光の中にいると光を感じることは難しいけど、光から遠ざかるとやけに眩しいというか。
書き上げてあるので三回で終わります。ちょっとずつ手直ししながら上げてるんですが、相変わらず誤字脱字同じ表現使いすぎの呪いにかかってます。つらい…


画像は水戸に行った時に勇気を出して撮影した、悪魔の像。金色のつぶつぶが深淵の隙間からこちらを見ている…恐ろしい…

夏の忘れ物




携帯を忘れた。


気がついたのは電車に乗り込んでから。テーブルの上だとすぐに思い出したが、往復するほど余裕は無いので取りには戻れない。
いつも片手に鞄、片手に携帯を持ち、ニュースサイトを眺めて移動時間を過ごしているが、今日は空いた手でつり革をつかむ。帰宅するまで携帯のない生活だ。緊急連絡など来なければ良いのだが。


周囲の中吊り記事をぐるりと見渡しても興味の湧くような内容は見受けられず、窓の外は始まったばかりの九月が「もう夏は終わりましたよ」と八月ののれんをしまい始めている。周囲には学生達が二ヶ月前と同じように詰め込まれて、先週よりも混み合った賑やかな通勤電車。

そう、夏休みは終わったのだ。

学生時代より会社務めの年数が長くなっても「夏休み」という言葉には心が躍る。憧憬に胸の奥が焦れるような感覚を覚える。
始まらないはずのそれに何かを期待して、終わる寂しさに肩を落とす。ガラス窓の向こう側にある、もう決して交わらない世界を眺めて一喜一憂しているだけなのだが、どうしても漠然とした「夏休みがもたらしてくれる、ものすごい何か」が向こうからやって来てくれるんじゃないかと思っている自分がいる。いい年をして、おこがましいのは理解している。それでも当事者になりたい欲は無くならず、年を経る毎に膨らむばかりで。
それは、白馬に乗った王子様が目の前に現れて、今から舞踏会に行って結婚しようなどと言われるそれと良く似ている。認めたくはないが。

(…あり得ないなんて分かっているさ)

今年のお盆休みだって、結局何もせずに終わった。気になっていた美術展に行った程度で新しい出会いとか嬉しいハプニングとか、そういった類は一切無かった。
いや、ハプニングならちょっとだけあった。


美術展を見終えた後、中庭でソフトクリーム買ってみた。
真夏の暑さの中で冷たいソフトクリームを食べたかったんだ。蝉時雨が絶えず降り注ぐ木陰のベンチ。目の前の道には強い光と木の枝が和らげた影のコントラストが美しく落ちている。夏を感じるには素晴らしいシチュエーションだ。
同じ事を考える人達で、アイスクリーム屋のワゴンは列が出来ている。私もそこへ並ぶ。ソフトクリームなんて何年ぶりだろう。
わざわざ暑い中、並んで買ったソフトクリーム。先端を舐めれば冷たく甘い刺激が欲を満たす。
ベンチの端に腰掛けて堪能していたら、足に痛みが走り目の前 を金色の光が横切った。





続きます

自家通販を締め切りました


日記はメールで更新してるのですが、たまにうまくアップされてない時が。

遅くなりましたが、金曜日に自家通販受付を締め切りました。お申し込みありがとうございました。
お問い合わせなどの連絡が無かったりご不明な点がありましたら、ご連絡下さい。
お申し込みの方全てのご入会を確認しております。ありがとうございます。

そして発送が遅れてごめんなさい。半分ほど発送しましたが、持ってきてた新刊を私が汚してしまい、新しいものを取ってきました…
二、三日中には全て発送できる手筈です。ほんとすみません。


謝った後に遊んできた話というのもひっぱたかれそうですが、水戸に燭台切さん見に行ってきました。
小旅行が楽しみでのー。初めての電車!初めての土地!。水戸に行ったのは、大昔にバイトで一度だけ。駅前に水戸黄門像があって、売店で納豆売ってたのが衝撃でした。

徳川ミュージアムに行くバスはバスの所に案内が貼ってあってスムーズ(笑)バスも若いお嬢さんが多くて、さながら女子大のバスのよう。
そして、静かな住宅街の中、たどり着いた徳川ミュージアムには行列が出来ていたのでありました…。
いやね、混むとは思ってた。展示期間が9/2までで最後の週末だし、8月の夏休み期間最後の週末だし、日曜日がとうらぶのイベントだから前乗りの方々が来られるチャンスだし。結局、開催期間がのびたけど、それでも「この日でなければ」だったと思う。
雨の中4〜50分並びましたが、トーハクの鳥獣戯画を思えば可愛いもんです。お友達と一緒だから待ち時間も全く苦でなく。
新しい建物のきれいで小さな美術館は、係の方は5人程度。受付(実質1人)で支払い&入場を対応。そりゃあ時間かかるよね。
でも、すんなり入れても中が大混乱になるから良かったのかも。
若いお嬢さん九割。ほぼ明日オンリーだろうなという感じで、皆様並び慣れてらっしゃる…訓練されてるからアクシデント的な事は見受けられませんでした。素晴らしい。

肝心の刀は、奥のケースがお嬢さん達で黒山の人だかり(笑)なんとか見られました。薄暗い中で見た燭台光忠は、真っ黒な刀に金が流れて、また違った雰囲気が美しかったです。

期間のびたけど更に、10月から羽田空港の美術館で展示されるようです。…何という…(近い)。
焼けて刃でなくなった事で、展示の機会が増えるという。数奇な運命というか何というか。

私は歴史詳しくないけど、和物・刀が好きなミーハーなので、とうらぶ以降、色々見に行くきっかけが出来てすごく楽しいです。また次はどこへ行こうかな。
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