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相変わらず中二病

※妄想文の「中二病こじらせると大変」の続き。



あれからもオレは、件の夢を見続けている。夢だから、見る時も見ない時もある。夢を見たとしても全然関係ない内容だったりして。そんな朝は落胆と苛立ちに機嫌が悪い。
でも時々、心を抉るような痛みを残す鮮烈な内容をオレに叩きつけたりする。そんなのにぶち当たると、数日は何も手につかなくなってしまう。

この間はとんでもなく酷い夢を見た。すげえショックで、オレのくせに食欲まで落ちたんだ。

「…エルリック、エルリック?。おい」
「は、はい」

身の入らない授業中。気を付けていたつもをなんだけど増田先生に捕まってしまった。エドまた寝てんのかよーと隣の席の奴に笑われたけど、今日は寝てない。ぼけっとしてただけだ。

「大丈夫か?」
「あー、まあ」
「後で指導室まで来なさい」
「…はい」

あーあ、怒られてやんの!呼び出しだ!って後ろの方から茶化された。一部女子からは、いいなー私も呼び出されたいーなんて声も上がった。違うよ。先生は心配して呼んでくれたんだよ。
オレが悩んでると増田先生はちゃんと気にかけてくれる。優しいなあ、オレのこと良く見てくれてんだなあ。でもこれは担任だからだ。受け持つクラスの生徒が授業中にぼんやりしてたら困るからだよな。


放課後の指導室は相変わらず狭い。フルーツジュースの甘ったるい匂いはこもるけど、今は息苦しさを感じない。閉鎖された小さな空間に二人きりで、オレの秘密をバカにせず共有してくれる。そんな相手に嫌悪感は無くなっていた。

「先生、オレどうなるんだろう。なんか、ダメだった。塞がった。欲しかった物は手を出しちゃいけない物で、オレらほんとどうしたら」

オレが欲しかった物は、沢山の人の命を犠牲にして成り立っているものだった。あれを使うって事は、沢山の命をオレらの為だけに使うって事だ。そんな事出来る訳がない。

「そうか。でも、あまり塞ぎ込むなよエルリック」
「どうせ夢だからって思ってんだろ?。まあ、そうなんだけどさ」
「違うよ。その落胆で探し物を諦めようと君は思ったのか?」
「…諦めるなんて選択肢は無い。だから行き詰まってる」

先生の言葉は魔法みたいだ。まるで探していた道に導くような、温かい光みたい。オレの中からするすると言葉が溢れてくる。

「でも前に進むよ、必ず」
「大丈夫だよ、君なら。沢山の人達に愛されている事を、どうか忘れないでくれ」

まーた気障な事言ってさあ。大きな手がオレの頭を撫でた。初めて先生と触れたかも。くすぐったい感情にちょっと照れちまう。先生もはにかむように笑って、二人で向かい合ってニヤニヤした。

「何笑ってんだよ。やっぱおかしいか?」
「違うんだ。君が…君が私を頼ってくれる事が、すごく嬉しいんだ」
「あのさあ、先生は先生が思ってるよりもずっと生徒から慕われてるよ。外見だけキャアキャア騒いでる女子だけじゃなくて、ちゃんと先生として」
「ありがとう。でもね、嬉しいんだよ」
「オレこそ。こんな話、真面目に聞いてくれんの先生だけだ」

オレの言葉に驚くような顔をしたから、何か変なこと言ったかと心配になる。でもすぐ目を細めて、柔らかい笑顔。

「…素直なんだね。そんな君も素敵だ」
「変なの」

あからさまに誉められると、くすぐったさも限界を越える。顔がむにゃむにゃして戻らないから、今日はそろそろ撤収しようと思う。

「ありがとう先生。また報告に来ていいか?」
「待ってるから、君もあまり先を急いで無理はしないように」


この頃から先生への依存は始まっていた。自覚もあった。バカにされそうな夢の話を大真面目に聞いてくれて、しかも心配してくれて。親身になってくれんのは先生くらいだ。でもそれを勘違いしちゃダメだし、追っちゃダメだったんだ。
止めておけば良かった。夢に執着するのも先生に報告するのも。少し後のオレが未来から戻って来られるなら、きっとそう言ったと思う。



そのうち続く。
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