貴方は優しすぎます。
消えかけた痣の上についた艶かしく赤い痕。
鏡を覗く度、身体が覚えていて疼いてしまうから。
優しく優しく、日常を忘れてしまうように私の身体を包むから。
やっぱり貴方がいい。
先輩じゃなきゃだめだ。
そう思わせてしまうから。
先輩、貴方は優しすぎますよ。
ほらね。
二重になった痕が火照ってまだ眠れない。
さっきまでの肌の感覚が、髪の香りが、耳に残る息遣いが。
まだ消えなくて。
先輩は優しすぎて意地悪だよ。
「先輩。じゃなくて、名前で呼んでみ?」
そうですね。
確かに先輩のこと、名前で呼んだことってなかったかも。
でもね、今さら恥ずかしくて名前でなんて呼べません。
「いやさ、せめてさ…」
ん?
「まっ、いいや。なんでもねぇや」
先輩の言いたいこと、分かってる。
呼ばれたい「時と場合」もあるってこと。
素直に名前を呼んで、すがれたらいいのにね。
でもね、本当はね。
聞こえない程の、声にならない声でね。
貴方のこと名前で呼んでいるんだよ。
気づいてないでしょ?
だって、
きっとね、声に出して名前を呼んだなら、
貴方のこと「愛してる」って言ってしまうから。
だから、呼ばないよ。
「愛してる」は、言えない。
私が言ってはいけない。