6/2拍手コメントよりリクエストで、
「フレユリ」「ギャグ」&ラブ、です。フレユリだけどオールキャラです。








過酷な戦闘続きの旅において、心癒されることとは何だろうか。

それは温かい寝床でぐっすり休めることであったり、大きな風呂でリラックスすることであったり、あるいは美しい女性に触れることであったり。

しかし最も必要不可欠かつ、体調、モチベーションに直結することは何か、と聞かれれば、それは「食事」であると言えるだろう。

腹が減っては戦は出来ぬ。
昔の人も言っている。


野営に於ける食事など、本来は単なる栄養補給でしかない。命を繋ぐことができれば良いのだ。

味など二の次だ。

だかしかし、前述のようにモチベーションの維持は重要だ。
あまりにも不味い食事は士気を低下させ、体調すら悪化させる。

幸いにして凛々の明星一行には、料理上手が揃っていると言える。
料理そのものが好きではないために手抜きによって適当な食事を作る者もいるが、彼女の場合は栄養補給の観点的に「食えりゃいい」のだ。不味くとも死ぬことはない。

そう、死ぬことはないのだ。

ただ一人、その可能性を秘めた「例外」の作る料理以外は。









「ユーリ……これ、何の嫌がらせなんだ……?」

手渡された皿を穴が空くほど見詰め、フレンは微動だにしない。

皿の上にはてんこ盛りのイカ、イカ、イカ。
…と、申し訳程度の大根の切れっ端。

「嫌がらせって何だよ、失礼だな。大根とイカの煮物だろ、どっからどう見ても」

「イカしか入ってないじゃないか!!」

「何だそれ、ダジャレか?」

「誰が海からの侵略者だ!!」

「大根も入ってるだろうが」

「…せめて名前を『イカと』大根の煮物にしたらどうなんだ」

「んじゃそれで。とっとと食え」

「ぐっ………」


二人のやり取りを生暖かい目で眺めている仲間達は、フレンに多少の同情こそするものの、助け舟を出す気はさらさらない。

「なんかちょっと、可哀相な気もするような、しないような…」

「甘いわね。あいつのせいで、あたし達何回死にかけたと思ってんのよ!?」

「そうね。食材と回復アイテムとTPの無駄使いだわ」

「そうなのじゃ!海の幸と山の幸に、土下座して謝るのじゃ!!」

女性陣の言葉がフレンの胸に突き刺さる。

「死に……無駄…」

「一口食っただけでぶっ倒れるからな。残りが食えるわきゃねえよな」

「すごいよね…見た目はあんなに美味しそうなのに……まだ逆のほうが救いがあるよ…」

「てゆーか、暗殺とか出来そうよ?絶対何の疑問も持たずに食べてくれるっしょ。青年より、向いてるかもね〜」

「なんてこと言うんですかあなたは!!暗殺なんてとんでもない!!そんな、人間として逸脱した行為を僕がするわけないでしょう!!!」

「…ふーん」

自らの隣から漂う絶対零度の空気に、焚火すら一瞬凍りつく。

「あ、いや、その…ユーリ?」

「味覚が人として逸脱してる奴に言われてもな。…さっさと食え。片付かねえだろうが」

「……はい……」


一行は、フレンの作る独創的な味付けの料理によって、度々「被害」を被っていた。

仲間達が完食出来ずにいる中、唯一ユーリだけは毎回皿を空けていたのだが、とうとう先日、堪忍袋の緒が切れた。

これはその「報復」だ。

フレンの魔手にかかり、儚くも散って行った食材達に代わって行う、せめてもの意趣返しなのだ。


「…報復も意趣返しも同じことじゃないか…」

「うるせえ!唯一アレンジしないだろうと思ってたデザートまで手にかけやがって、オレがどんだけショックを受けたか、おまえにわかってたまるか……!!」

「手に、って…」



苺プリンかと思って食べたら、中のぷちぷちは唐辛子の種だった。

一応補足すると、唐辛子で最も辛いのは種の部分である。皮ではない。
素手で剥いたらデリケートな部分を触らないようにしよう。どの部分かはご想像にお任せする。


クリームに振られた黒いつぶつぶはチョコスプレーなどではなく、ただの黒胡椒だった。

ちなみに、プリンとクリームそのものは、しっかり甘かった。



「最悪だ…思い出しただけで体の震えが止まらねえ…!」

「いや、なんかスパイスを効かせた甘くないスイーツとか流行ってる、って聞いて」

「おまえの解釈のしかたはどうなってやがんだよ!?甘かったよな、きっちり甘かったよな!?効かせたとかなんとかじゃなくてただブチ込んだだけだよな、アレは!!流行ったのも微妙に前の話だよな!?大体そういうのはチョコとかパイとかクッキーとかでやるもんなんだよ!!どこの世界にプリンに唐辛子ブチ込む奴がいるんだよ!?」

「…だってチョコもパイもクッキーもレシピがないじゃないか」

「余計なことすんなって言ってんだよ!!!」




「スイーツが絡むと別人ですね、ユーリ…」

「好きな子を汚されたように感じるのね、きっと」

「…違うと思うわよ」

「あのー、青年?」

「…何だ」

「こっちはそろそろ食べ終わるんだけど、片付け、お願いしてもいーい?」

「ああ、構わないぜ。まとめてそのへんに置いといてくれ」

「そんじゃまあ、頼むわ。ごっそさん」

「ごちそうさま」

「フレン、頑張って下さい!」

「絶対残しちゃダメだからね!」


思い思いの『激励』の言葉を残して去って行く仲間達の姿を見遣り、フレンは再び手元に視線を落とした。

一応、ちまちまとではあるが食べ進めている。
それでもまだ半分以上残っていた。
まあ、そもそもの量が異常ではあったのだが。







「早く食えって。冷めたらもっと食いづらくなるぞ」

「…気を使ってるのか苛めてるのか、どっちなんだ」

「両方」

「……………」

「大体おまえ、味なんか分かってねえんだろうが。なんでイカだけそんな駄目なんだよ」

「失礼だな、分かってるよ!…食感とか、飲み込みにくいとか、色々だよ」

「やっぱ味じゃねえじゃねえか…。安い肉だって飲み込みにくいだろ」

「肉は肉だ、全然違うよ。…大体、ユーリはともかく他の皆だって好き嫌いあるのに、どうして僕だけ…」

「ジュディもなかった気がするが」

「そうだった?…この際どうでもいいけど」

「他の奴の料理で死にかけることはないからな。多少マズかろうが」

「カレーにらっきょう入れたりフルーツ蜜豆を汁ごと入れたりして『腹の中に入れば同じ』とか言う誰かの料理以下なのか、僕」

「あれは付け合わせとデザートだっつーのにな…まあなかなか強烈ではあったが、食えないことはない」

「…君に味覚云々の話、されたくないな…」

「うるせえよこの馬鹿舌。味を変えたきゃてめえの皿だけにしやがれ」

「なんか泣きたくなってきたな…。ユーリは苦手なものとか、ほんとにないのか?」

「あるぜ」

「え!?そうなのか?」

「不味いメシ」

「………それは誰でもそうだろう」

「じゃあそのイカの煮物、マズいのか?」

「いや…まあ…それは…」

「オレが作ってんのに、マズいわけないよなあ…?」

「…多分?…あ、違う、美味しい…よ」


口ごもるフレンにため息を吐いて、ユーリはフレンの皿から一つイカをつまみ、自分の口に放った。

「ん、美味い。味は程よく染みてるし、ちゃんと柔らかく仕上がってるし、これで食感とか飲み込みにくいとか言われたらこっちが泣きたくなるわ」

「うぅ…」

「……食感と言えばさ」

「うん?」

「オレの知ってる奴で、シイタケが駄目な奴がいるんだよな」

「ああ…いるね、そういう人。独特だもんな、あの歯ごたえとか」

「…オレも、てっきりそういう意味だと思ってたんだけどさ」

「違うのか?」

「ああ。……そいつが言うには、切った時の見た目も含めて、ナ…」

「うわあああぁぁ!!それ以上言うな!!シイタケも食べられなくなるじゃないか!!!」

「だよなあ…オレもしばらくの間、シイタケ見る度に思い出しちまってよ…」

「大体、見た目『も』って、そっちだけならまだしも、なんで、食感……!!」

「…食ったことあるんじゃねえの」

「やめてくれ………!!」


唇と手元を震わせながらフレンは物凄い勢いで頭を横に振っている。
具体的すぎる例え話は精神衛生上、非常によろしくない。


「早く食えよ。同じこと何べんも言わすな」

「そんな話されて食欲が湧くわけないだろ!?大体、元の量が多すぎるよ!普段の倍以上あるじゃないか」

「嫌がらせだからな」

「…気を使うほうはどこに行ったんだ」

「どうしろってんだよ」

「手伝ってくれないか?…もう、アレンジしたりしないから」

「なんだよ、『あーんして』で食べさせてくれとか言い出すんじゃねえだろうな。殺すぞ」

「まだ何も言ってないだろ!?それに、その方法じゃ結局僕が全部食べるんじゃないか」

「仕方ねえな…」


どの道このままでは、いつまで経っても片付かない。
ユーリはフレンの皿に手を伸ばし、イカを食べ始めた。


「…ユーリ…手づかみはやめなよ。行儀悪いな」

「手伝ってもらっといてなんだよその態度」

「それとこれとは別だ」

「やっぱ一人で食え」

「すいませんごめんなさい。…はあ…」

「……」

「ユーリ?」

「そんな顔して食われると、ほんと傷つくよな…ちゃんと美味いのに」

「…ユーリはなんでも美味しそうに食べるよね」

「おう。見習えよ」

「………」

「どうした?」

「ユーリ、ちょっと」

「?」

来い来い、とフレンに手招きされ、ユーリが体をフレンに向けたその時。




「…ん」

「………………!!!?」





「……ごちそうさま」

「お、ま…!?」

「なんか美味しい気がするな。これなら食べられ」

「死ね!!!!」










「ねえ…放っといていいの?たかが好き嫌いで森が破壊されちゃうよ…?」

「いいんじゃない?あいつが死んだら、あたし達の命の危険も減るし」

「ツバメの親子みたいだったわね」

「…ユーリが母親なんです…?」

「…とりあえず、しばらくイカ料理、出ないんでない?」

「そうじゃのー」



楽しく食事ができることは、何よりの幸せだ。






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終わり
▼追記