続きです。裏ですので閲覧にはご注意下さい!










「……ほんっとに、すげえな……」

「…だからそう言ったじゃないか…」




翌日、ユーリはフレンの部屋へ泊まりに来ていた。

ファミレスで食事をし、部屋に着いたらすぐに二人で卒論の制作に取り掛かった。

フレンはある程度草稿が出来ており、推敲を重ねる段階に来ていたが、ユーリは本人が言うとおりほぼ手付かずな状態で、フレンを驚愕させた。

隣が騒がしくなってからでは集中できないと思ったので、早めに今日の作業を済ませてしまおうと思っていたのだが、予想外に早い時間からそれは始まってしまい、二人の作業の手は完全に止まっていた。



「……まだ0時回ったばっかだぞ。いつもこんな時間から朝方までヤってんの?」

「今日はちょっと早いかな…だいたい、一番うるさいのは2時とか3時あたりなんだけど」

「おまえ、毎日そんな時間まで起きてんのか」

「逆だよ。その時間ぐらいに寝ようとすることが多い。だから、眠れなくて困ってるんだってば」

「ふーん…」

その時、反対側の部屋からも物音が聞こえ始めた。
何やらガタガタと騒がしい。

そちらの壁側にフレンのベッドはあった。


「…何の音だ、これ」

「僕が知るわけないだろ。なんかそっちはたまにそんな感じだな。反対側は声がうるさいんだけど」

ユーリは床に座ってベッドに寄りかかり、背後を振り返っていたのだが、フレンに向き直るとその顔をまじまじと見つめた。

「……何?」

「おまえ、なんだかんだ言ってしっかり聞いてんのな」

フレンの顔がさっと赤くなる。

「っな、仕方ないだろ!?聞きたくて聞いてるわけじゃ……っ!!」


フレンの動きが止まる。
ユーリの反対側、自分の背後から聞こえてくる「声」が、一際大きくなったのだ。
と、ユーリが「声」のほうに移動して、壁に耳を当てた。

「……何、してるんだ」

「このほうがよく聞こえるだろ……うわ、マジすげぇ…」

フレンは呆れてものが言えなかった。
わざわざ他人の部屋に来て、さらに他人のセックスを盗み聞きするなんて。
しかも、ユーリは非常に楽しそうだ。
興奮しているのか、僅かに頬が紅潮している。


「ユーリ……まさかとは思うんだけど、これを聞くために……」

「んー…まあ…そうかな」

「っ…!勝手にしろ!!」

壁から離れようとしないユーリに完全に背を向けて、フレンは作業を再開した。

呆れと怒りで、「声」も気にならなくなっていた。






どれくらいたった頃だろうか。

フレンは背後の気配に違和感を感じていた。
相変わらず「声」は漏れ聞こえてくる。自分の正面、ベッドのあるほうの壁の向こうも騒がしいままだ。

しかし、それぞれの壁の向こうから聞こえてくるのとはまた別の……、もっと生々しい吐息と水っぽい響きが混じっているような気がする。


「……ん…っ」


やはり聞こえる。


「は…ぁ、っう…く」


(……まさ、か……)


恐る恐る振り返ったフレンの眼に飛び込んできた光景は、にわかに信じ難いものだった。


下半身を露わにして、自身の性器を扱くユーリの姿。
壁にもたれたまま、忙しない息遣いで手を動かし続けるその様子に、フレンは頭が真っ白になった。



「…ん……?」

「なに、してるん、だ」


自慰を見られたというのに、ユーリは一向に動揺する素振りも見せず、手も止めない。


「何っ、て…見りゃ、わかる…だろ…ッ」

「そういう事じゃない!!ひ…人の部屋でわざわざ何してるのかって言ってるんだ!!」

激昂するフレンに少々白けたのか、ようやく手を止めたユーリが怠そうに壁に背を預ける。
隠そうともしないその部分がまる見えで、フレンは慌てて目を逸らした。

「んだよ…あと少しだったのに」

「だったらせめて風呂場に行けよ!!」

「…めんどくせえなあ…」

そう言いつつも立ち上がるのが視界の端に見え、フレンは小さく息を吐いた。

いくら親しい友人であっても、自慰をしているところを見たくはない。風呂場で自分に見えないようにしてくれるなら、とりあえず我慢できる。

そう思って俯いていたフレンだったが、伏せた視線の先に白い爪先が映ったのに驚いて顔を上げた。


「ユー…」

呼び終わる前に視界が回転し、背中を床に強か打ち付け、一瞬息が詰まる。

顔を上げた先には、長い髪を垂らして口元に笑みを浮かべる、どこか中性的な見慣れた顔。


自分がユーリに押し倒されたのだと気付いて、フレンは激しく動揺した。


「ななな何するんだ!!!」

「おまえ、そればっかだな……察しろよ、この体勢で」

いやらしい笑みを消すことなく徐々に近付いてくる黒紫の瞳を正視出来ず、必死で顔を横向ければ、首筋に柔らかいものが触れてフレンの肩が大きく跳ねた。

「ひィッ!?」

「…色気のねえ声だなぁ」

「あああ、当たり前だろ!?っ、み、耳元で喋るな!!」

「んー?なんで?」

「なっ…んぅあ!!」

ユーリの舌が耳の中に入って来て、その湿った音が直接頭の中に響く感覚に全身が粟立つ。

なぜこんなことをされなければならないのか。
混乱する頭でいくら考えてみても、答が出て来ない。

「なんで…っ、どういうつもりなんだ、君は!!ふざけてないでさっさとどいてくれ!!」

「やだね。あともうちょっとのとこで邪魔しやがって。責任取ってもらうぜ」

「なんで僕が……!!」

「おまえもツラいんだろ?毎晩あんなの聞かされたんじゃ、堪んねえよなあ…」

ふ、と耳元に息を吹き掛けられて、力が抜ける。
肩を押さえつけていたユーリの左手がするりと下りて下半身を優しく撫で摩ると、フレンの腰がびくんと引き攣った。

「う…っん!」

「…嫌がってるわりにはしっかり勃ってんじゃねえか。オレがシてんの見て興奮した?」

「ちがっ……」

「このまんまじゃ苦しいだろ?抜いてやるから大人しくしてろよ」

「結構だ!!」

思いのほか強いフレンの拒絶に、ユーリが鼻白む。

「ふぅん…だったら」

「!!?」

ユーリはフレンの胸元に馬乗りになり、両手を金色の髪に差し入れて力を込めた。
顔を固定されてしまったフレンが必死で腕を引き剥がそうとするが、ユーリが上から押さえ込む力のほうが強かった。

平素ならば腕力ではフレンに歩があるが、ユーリも非力ではない。
上からの力が加わって、どうにも押し退けることができなかった。

「っつ…!ユーリ、痛い……!!」

「とりあえず、コレ、どうにかしてくれよ」

「……ッな!!!」

ぐい、と顔だけを起こされたフレンの鼻先に、ユーリの性器が突き付けられる。
赤く誇張しきったそれの先端には、今にも零れ落ちそうな透明な雫が光っていた。
あまりに卑猥なその光景と、なんともいえない臭いに顔を歪めるが、ユーリはさらに腰を寄せてきた。

フレンの唇に先端が触れる。

「……………ッ!!」

「口、開けろって」

さらに押し付けられて、先走りが唇の端を流れていった。

口を開いたらどうなるか、想像できないわけがない。
絶対に嫌だった。

尚もぐいぐいと押し付けてくるのを、目も口も固く閉じて必死で抵抗する。


「はあ……ったく、往生際が悪ぃなあ…」

ふと、頭を掴んでいた力が緩んで、片手が優しく後頭部を撫でた。

解放してくれるのかと思ったフレンが恐る恐る目を開けた直後、頭を撫でていた手が素早くフレンの鼻を摘んで塞いでしまった。

「んン!!?」

「苦しいだろ?口開けて息すれば?」

どこか楽しげなユーリの様子に怒りを覚えるも、予想以上の息苦しさに早くもつらくなってくる。
強く摘まれた痛みも相まって、フレンの瞳にうっすらと涙が滲んだ。

「…その目、すげえそそられるんだけど…?」

「……っ、ぅ……!!」

「そろそろ限界?顔、真っ赤だぜ」

ユーリの言う通り、もう息を止めているのは限界だった。


「はあっ!!っは…ンっむぅ!!!」


耐え切れなくなって口を開けた途端、ユーリが一気に腰を押し付けて、フレンは口いっぱいにユーリの性器を頬張ることになってしまった。


「うあ……すげ、気持ちいー…」

「んん!!ぅむうッ!?」

「っ…ふ、やっぱ口のが全っ然イイわ」

「んっ、んん!!」

ユーリに頭を抱えられ、ゆっくりと前後に揺さぶられる。
喉の奥に一瞬でも当たると激しくえづくのだが、ユーリは動きを止めることはない。
ユーリの太股に手をやって押し返そうとするが、その度に反動を利用して逆に押し込まれてしまうため、とうとうフレンは抵抗を諦めた。

こうなったら、一刻も早く達してもらうしかない。
無駄に抵抗して長引くよりはマシだと思った。




「んっ、んん、っむ、んぅ…!!」

「っ…は、おま…っ、すげ、エロい顔、してんぞ…!」

「んむぅッ!?」

「あー…ッ、やっ…ば、も、出る……」

口内でユーリの塊が一層硬さを増して、フレンは戦慄した。

ユーリが身体を離す気配はない。
まさか、と思った。


まさか、このまま…



「は、あ…っ、く、んんッッ!!」

ユーリが切なげに呻いてフレンの頭を強く引き寄せた。
その瞬間、喉の奥に熱いものが流れて来る。

「ぅんっむ―――っ!!?」

生温かくて粘つく感触が口の中に纏わり付き、飲み込みきれなかった残りが溢れた唾液と一緒になって唇の端から流れていった。


ユーリがようやくフレンの口から自身を引き抜いた時、フレンは完全に放心状態だった。


「おーいフレン、生きてっかー」

なんとも気の抜けた言い方をしながらぺちぺちと頬を叩くユーリになんとか顔を向けると、ユーリの唇が自分の唇に重ねられた。


「んっ……」

抵抗する気力もなくて大人しく瞳を閉じたら、ユーリの舌が差し込まれ、激しく中を掻き回す。

さんざん口内を嬲って漸く離れたユーリの瞳には、まだ情欲の色が揺らめいていた。



「…おまえも気持ちよくなりたいだろ…?」


耳元で囁かれる甘く低い声に身体中が熱くなるのを感じて、フレンの頭からは抵抗の意思が完全に失われた。


「……僕、は……」

「いいから…もう黙っとけよ」


再び唇を塞がれて、フレンはゆっくりと瞳を閉じた。



その週末、フレンの部屋は他のどの部屋よりも騒がしかった。







ーーーーー
終わり
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