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本当のお別れ




『お疲れ様』

『何か困ったことはない?』

『疲れてない?大丈夫?』



ニコニコ笑いながら
私の愚痴を聞いてくれた。

いつも
差し入れにケーキや
ドーナツを持って来てくれた。


気遣ってくれてるのがわかって
優しい言葉をかけてくれるのが嬉しくて

あの頃の私は頑張れてた気がする。




私がそこで仕事を始めて2年目の年。
体調が悪いとのことで
役員から外れて
会う機会が減った。


それでも

役員でもなくなったのに
時々差し入れを持って来てくれて

いつものように

『困ったことがあったら言ってね』

そう言ってくれてた。



今年。
3年目の年になると
ほとんど来ることはなくなった。

『体調が悪くて、なかなかそっちに行けないけどごめんね』

時々電話で
私の様子を聞いてくれた。

仕事を辞めたいという話も一番にした。









私の退職日。

花束を届けてくれた。

配達されてきた花束を見て
お礼の電話をすると

『本当は手渡ししたかったんだけど、ごめんね』

と謝った。




帰りに
餞別のハンカチと
お菓子を持って行くと

偶然駐車場で会えた。仕事着ではなく
私服だった。



少し話した。

いつものようにニコニコ笑って
私を労い
話を聞いてくれた。



『体調、まだ悪いですか?』

私が聞くと

申し訳なさそうに話し始めた。



『昔、大腸癌やったんだけど、その後も検査で病院行ったりしてたんだけどね。医者が大丈夫大丈夫言うから安心してたのに、去年あたりから痛くなってきちゃってさ』

『他の病院で調べてもらったら、再発してて…もう身体中に転移してて、手がつけられないって言うんだよ』

『本当、医者もいい加減だよね』


笑いながら、言う。


『あと3ヶ月の命ですって言うんだよ。やらなきゃいけないこと沢山あるのに参ったよ』

『今ね、部屋片付けてたんだけど。大事にしてた写真も本も、こうなっちゃうとゴミでしかないんだよね』

『本当、ゴミだよ…』



絶望や

諦観の入り交じった


笑顔。





私は

死期を知らされた人に
かける言葉を知らなかった。


余命宣告をされた人を
励ます言葉なんて知らなかった。

『希望を、捨てないで下さい。気を明るく持って、前向きに…』

『そうだよね。こんな暗い話は止めよう。ごめんね』

ありきたりのことしか言えない私を気遣って
話題を変えてくれた。

ずっと笑顔は絶やさないまま。








帰り道。

車を運転しながら


私は泣いた。




我慢してた。




私もずっと笑顔で


耐えてた。








何故

あんなに優しくて

穏やかで

みんなに必要とされてて

まだまだ生きたい人が




死ななければならないのだろう…





私みたいな人間が

生きているのに


何故…………?









私は色々な職場を
転々としてきていて。

何人かは
良い人とも出会えた。

優しい人もいた。


それでも
職場が変わってしまえば
段々と疎遠になる。


今ではみんな

どう過ごしているか知らない。


生死もわからない。





いつだって
私の中では

前の職場の人々なんて


死んだも同然だった。


会わなくなれば

関係ないから。






○○さんとも

きっともう
会うことはなくて。


会わなければ

生きていても
死んでいても



わからなければ大差ない。










そう思いたいのに…
悲しい。





優しい笑顔を思い出すと

理不尽さに涙が出る。









私には何も出来ない。


どんな言葉も

きっと
気休めにしかならない。





だから。




せめて、

せめて、


貴方の痛みが少しでも和らぐように。


穏やかに過ごせる日々が続くように。




祈ります。






ありったけの


感謝を込めて……
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