話題:怖い話
あれは忘れもしない、10年前の…………いや、11年前だったかな?←
多分、夏の日。
名古屋で一人暮らしをしていた私は、仕事を終えて帰路に着いていた。
あの頃、地下鉄東○線は、痴漢が多いことで有名だった。
現に、まだ学生だった頃に三回程痴漢に遭い、二回程変態に遭遇していた。
その日は、夜10時頃に地下鉄で電車を待っていた。
……何か視線を感じる。
顔を上げると、背の低い男が、柱の陰からこちらを見ながらニヤニヤしていた。
何も見なかったことにして、さりげなく視線を逸らし、電車が来たので、その男が立っている所から離れた乗車口から電車に乗り込んだ。
電車は酷く空いていたのに、隣の車両に乗り込んだ男がこちらの車両に来た。
私は気付かない振りをして、更に隣の車両に移り、腰を下ろした。
男もこちらの車両に移動してきた。
これは、ヤバい。
直感がそう言っていた。
その男は、チラチラと何度もこちらを伺っている。
席はガラ空きなのに、私の席から斜め前の扉近くに立っていた。
電車が各駅停車する度に、必ずこちらを見る。
利用駅を知られたらヤバい気がした。
降りたら、同じ所に降りて、後をつけられる気もした。
私が降りる予定の一つ前の駅に着いた。
扉が開く。
男が立っている側と反対側の扉だった。
音楽が鳴り、扉が閉まる直前。
男が私から視線を外した隙に、私は外に飛び出した。
扉が閉まり、電車が出発した。
振り返って車両の中を見ると、男と目が合った。
男はもう笑っていなくて、ゾッとした。
その後、来た電車に乗って、最寄り駅で降り、私は無事に家に辿り着いた。
部屋のドアを開けると、
ブゥゥン…
そんな羽音が聞こえてきたかと思うと、
バチン!
と、私の頬に何かが当たり、床に落ちた。
電気をつけると、黒々としたデカいゴキブリが床にいた。
私が一人暮らしを止め、実家に戻ったのは、それから二ヶ月後である。