フレ♀ユリ、「オンナノコは大変です」の続編です。
フレン視点。
僕の親友が、女の子になってしまった。
幼い頃を共に過ごした幼馴染みでもあるユーリは、間違いなく男性だった。
それが、何故かはわからないけど女性になってしまったんだ。
理由、というか仮説はリタに聞かされたけど、元に戻れるかどうかは分からないらしい。
皆の前では平静を装っていたユーリだけど、本当はかなり動揺していた。
状況確認のために集まったかつての仲間には城で休んでもらうことにして、僕はユーリを下町の彼の部屋に送ることにした。
箒星までの道中、彼はずっと俯いたままで、ひと言も喋らなかった。
「ユーリ、着いたよ。鍵、開けて貰えるかい?」
「…鍵なんかかかってねえよ」
「ええ!?無用心だな」
取っ手を握って軽く押せば、確かに鍵はかかっていなかった。
「ほら、中に入って」
「…おう」
部屋に入って扉を閉め、灯りを点けようとしていると、背後からずるずるという物音がした。
振り返ったそこには、扉にもたれて力無く手足を投げ出し、座り込むユーリの姿があった。
慌てて駆け寄って自分もしゃがみ込み、声を掛ける。
「大丈夫?どこか身体の具合がおかしいのか?ユーリ!」
「具合ってか…身体はもう、おかしいだろ」
「ユーリ…」
暗い部屋に浮かび上がるユーリの顔はとても白くて、まるで人形のように生気がない。
少し柔らかくなった輪郭も、長さを増した気がする睫毛の下の瞳も綺麗だと感じたし、女性としての身体つき、というか、プロポーションはとても素晴らしい…と思う。
でも今はその現実の全てが、ユーリを苦しめていた。
「なあ…オレ、戻れんのかな」
「それは…。リタがいろいろと考えてくれてるようだけど…」
「二十年以上、男だったのに、今更女とか、無理だっての」
「ユーリ、大丈夫だから、そんな…」
「何が大丈夫なんだよ!?」
突然大きな声を出して僕を睨んだその瞳からは、涙が溢れていた。
こんなふうに泣くユーリを見るのは初めてだ。
「嫌なんだ、気持ち悪いんだよ!!自分の身体じゃない気がする、なんかおかしいんだ!!」
「ユーリ、落ち着け」
泣き叫ぶユーリの肩を掴んで言うと、余計にユーリは逆上してしまった。
「落ち着けるわけねえだろ!?自分でもわかんねえけど、不安でしょうがねえんだよ!気持ち悪い…、女になると気持ちまで弱くなんのか?なあ、どうなんだよ!?」
気持ち悪い、と連呼する姿が痛々しくて、見ていられなかった。
急激な身体の変化に、精神が追いついていない。僕にはそう見えた。
「なん、で、オレばっかり……。もう、嫌、だ…」
「……!!」
普段のユーリなら絶対にこんな言葉は口にしない。相当追い詰められている。
そう思った次の瞬間、僕はユーリの肩を引き寄せ、その細い身体を強く抱き締めていた。
なんでそんな事をしたのかわからない。
でも、そうしないとユーリが壊れてしまうような…、そんな恐怖を感じていた。
「…っく、フレ、ン…っ」
「大丈夫、大丈夫だから。ユーリはユーリのままだ、だから、大丈夫だ…!」
しゃくり上げるユーリの背中を優しくさすって落ち着かせる。
徐々に呼吸が穏やかになってきても、僕はユーリを抱いたまま動かなかった。
どれくらいそうしていただろう。
ふいにユーリがもぞもぞと動いたので、僕もユーリの髪に埋めていた顔を上げてユーリを覗きこんだ。
「ユーリ?」
「…わり。みっともないとこ、見せちまった」
「落ち着いた?」
「ん。…てかこの体勢、どうなんだよ」
僕とユーリは向かい合う形で床に座って抱き合っている。
僕の脚の間にユーリが収まっていて、ユーリの脚は大きく前に…、僕の後ろに投げ出されている。
つまりまあ、対面座位というか、そんな感じだ。
…多少の知識はあるんだ、僕だって。
「現金だなーおまえ。オレが女になった途端これかよ」
「これって何だよ!?君こそさっきまであんなにしおらしかったのに…」
すっかり普段の調子に戻ってしまったかのようなユーリの様子に安堵すると同時に、なんだか少し残念になる。
…なんで残念なんだろう、僕。
「もう大丈夫だから、離せよ」
言って僕の肩に手をかけ、立ち上がろうとしたユーリの腰を引き寄せて再び抱き締める。
ほとんど無意識だった。
「っちょ…、離せって!」
「いやだ」
「やだっておまえ…あ!痛いっての!!」
腰に回した腕に力を込める。
もともと細身ではあったけど、さらに細くなった身体は、このまま強く抱いたら折れてしまうんじゃないかと思うほど頼りない。
(女の子、か…)
共に育ち、戦ってきた大切な親友の性別が変わってしまったのに、僕はそれほど驚いていなかった。
いや、驚いたけど、不思議なほどすんなりと受け入れていた。
僕にとって、ユーリはユーリだ。
でも、今までとは別の…、何か、大切にしなければ、という思いが生まれていた。
「ちょっと、おい!苦し…っ、胸、胸が潰れる!!」
そろそろユーリの我慢も限界かな。仕方ない、怒りだす前に解放してあげよう。
「まったく…。こないだまで男だった相手に何してやがんだ、てめえは」
立ち上がって服の汚れを落としているユーリは少しふて腐れた様子で頬を膨らませている。
なんか、可愛いな。
「…今夜はずっと、一緒にいてあげるよ。だから安心して、ゆっくり休んで」
「は?何言ってんだよ、おまえ明日も仕事だろ?…てかむしろ安心して休めないっつーか」
「どうして?この前まで男だった相手に、何かするとでも思ったのか?」
わざとそんなことを言ってみると、月明かりに照らされたユーリの頬がさっと朱に染まるのが見えた。
「……っ、勝手にしろ」
背中を向けてしまったユーリを見つめながら、僕は何故かとても穏やかな気持ちだった。
「…ほんと、現金だな、僕は」
小さく呟いた僕の言葉は、君に聞こえてしまっただろうか。
風もないのに、微かにユーリの髪が揺れるのが見えた。
ーーーーー
終わり