急速平行落下

本当のことを言えば塾講師なんてやる気もないし教えるのは嫌いじゃないけど短気だから向いてないなあとずっと思っていてですね

モンスターペアレントが怖すぎて教職諦めて適当に生きている人が先生を名乗る資格なんかなくて

高校時代は勉強よりも部活の方が面白かったから殆ど勉強しなくて赤点ばっかりで英語なんか２しか取ったことないくらい頭悪いのに出来る奴ぶっていた訳でね

沢山いる講師の方々は教師を目指している人ばかりなのにそんなことはなくてヘラヘラしているような奴だったんです私


だからわからないこともあって知っているふりして取り繕って上手く上手く先生みたいな雰囲気を出していたんですよ






去年の今頃、テスト対策授業で一人の生徒を受け持ったんですよ
その子は入塾したばっかりで初めての授業の日だったんですよ

中学二年生、もうすぐ受験生なその子はバスケ部でキャプテンをしていた
あまり勉強が好きじゃないらしくてちょっと緊張しながらも隣の席にいる友達に勉強したくないな、って言っていたのをよく覚えています


その日は三時間の授業で教科は英語
全部の時間が単語練習と小テストで終わったのもよく覚えています
文法以前に殆ど読めない書けない状態でbe動詞もよくわからない状態で塾にきたのでした


勿論、テストの結果は30点いくかいかないかくらいで成績表も２

まあ私の授業担当じゃないからいっかなーと思っていたら六月から担当として週一で英語を教えることになってしまった


いい子なんだろうけど勉強は全くだったのでそりゃ教える方も苦戦続きで何回担当変えてくださいと頼もうかと思ったかわからないくらい悩んだ日もありましたね

宿題はやってこないわ単語は覚えてこないわやる気はないわ危機感ないわ声でかくてうるさいわやんややんや


しかも途中から国語も担当になって胃痛倍増
流石に森と林を書き間違えるなんて信じたくなかったなあ



でもその子は私のことを先生って慕ってくれていて

出来ない苦手なりに頑張って宿題やってくるようになって、単語が少しずつわかるようになって、be動詞も区別がついて、過去分詞も三人称単数形も殆ど解けるようになってきて

一回、私をびっくりさせようとしてテストめっちゃ頑張って83点取ったこともあったね
その前のテストは36点で悔しいって思って凹んだっけ

あの時は本当に嬉しかったなあ
一緒にミルクティー買って塾の前で飲んだっけな



２だった成績表も３になって少しずつできること増えていって









入試前、その子はスポーツ推薦をもらった
実力はあるけど内申点が足りていない学校だった

期待しちゃだめだよ、と注意はしたけど推薦が貰えたことに舞い上がってその子はまた勉強から離れていった
宿題をやらない度に厳しく叱ったつもりでも本人からしたらうるさい先生で面倒くさかっただろうなと今になって思います



結果は不合格
心配していた内申点不足が原因だった

同じバスケ部の友達は皆スポーツ推薦で高校が決まったようでその子は焦って勉強を始めた

でも手をつけていなかった分の代償は大きくて毎日居残りをしながら一生懸命問題を解いていた


過去問を解くと、いつも記述問題を解かずに出来ないと言い訳をするその子を毎日叱った
長文が読めないから解けないと言えばとりあえず辞書で単語を引いて読みなさいと返した
もう嫌だ帰りたいと言えば、なら受験生やめちまえもう家帰れ塾に来るなと繰り返し怒った

嫌な先生だったと思う
私は自分に絶対教わりたくない

でも、その子は先生と頑張ると結局は言って一度も担当変更を申し込まなかった
他に沢山いるベテランの講師や教師志望の講師じゃなくて私がいいとずっと言ってくれた



気付くと、過去問を解いても空欄で出す箇所は減った

英作文もぎこちなくではあれどきっちり書いてあったり
長文は書き込みをしながら一生懸命問題を読んだ後があったり
漢字もほぼ満点だったり
作文も200字ギリギリまでいっぱい書けるようになっていたりしたんだ


でも、それでも力は足りなかった
倍率が高すぎて第一志望の学校は受からなかった

もう少し早くに勉強していれば受かったかもしれないしやはり同じ結果だったかもしれない


「先生ごめんなさい、落ちました」と電話が来た時に私は何も言えなかった

先生として最低だと思う
落ち込んでいる時にフォローしてあげるのも仕事の一つだし、今後の受験をどうするかも決めなくてはいけない
なのに、「そうか、いっぱい泣け」としか言えなかった
これは今でも後悔していることのひとつ



二次募集でその子は別の高校にいくことに決めた

流石に二次募集だからかベテランの講師陣が中心に授業をしていたけど時々私も授業をしていた

授業がない日も顔を合わせると「先生だ！」と手を降ってくれたりした



12時に発表と聞いていたのになかなか連絡なくて

もしかして落ちたのかな、いや大丈夫なはず、充電切れて電話できないのかな、何かあったのかなとずっとそわそわすること１時間半

電話がきて




「先生ありがとうございました」

と言われた時は出先なのに叫んでしまって周りの人に怪訝な顔をされてしまったじゃないか



はじめて先生やっててよかったな、と思えたよ

先生らしくない先生でごめんね
いっぱい怒ってごめんね

私を先生として成長させてくれたのは紛れもない貴方でした


毎週顔を合わせなくなると思うとせいせいする反面、少し寂しいです

高校生としてたくさん泣いて笑って怒って悔しくなって恋をして青春することを祈っています


合格おめでとう、ありがとう

担当になれてよかったよ

私も貴方が大好きで、大切な生徒です