話題:今日見た夢



朝、家から出ると町が水浸しになっていた。
空は快晴だったが、冠水でもしたのだろうかと道を歩いていると水嵩がじわじわと増している事に気付いた。
このままでは危ない。そう思い高台を目指したが、増えていく水に足を取られ、思うように進めずにいる内に足首まであった水嵩は膝下、腰までと増えていき、ついには私の身長を越えてしまった。

『あ、死ぬな』

沈み、もがきながら呟いた言葉と共に口から押し出された空気を眺めていたが、いつまで経っても呼吸が苦しくなる事はなかった。
ふと冷静になって水底に立つと、水の中にも関わらず呼吸が出来ている。
不思議に思いつつも、溺れ死ぬ危険は無さそうだと判断すると辺りを散策する事にした。

暫く水底を歩いていると、何処からか楽しそうな声や音楽が聞こえてきた。
水の中に居る所為か声や音楽があちらこちらに反響し、何処から聞こえてきているのかすぐに分からなかったが何となく音が大きく聞こえる場所を目指していくと、近所の広場に辿り着いた。

其処では半人半魚の姿になった近所の人達が楽しそうに歌ったり踊っており、硝子のように輝く水面から降り注ぐ光も相まって、まるで竜宮城にでも居るようだった。

暫くその光景を眺めていると、ふと自分の身体に何の変化も起きていない事に気付いた。
水の中で呼吸こそ出来ているものの、姿形は人間のままだ。
他の人達のように下半身が魚になっているわけでも、皮膚が鱗で覆われているわけでもない。
改めて辺りを見回すが、自分と同じ姿の人間は誰一人居ない。


寂しい。陸に戻りたい。


恐らく、此処は自分が居るべき場所ではないのだろう。
楽しそうにしている人魚達に背を向けると、人の姿では思うように進めない水の中を行き、陸を目指す事にした。