深夜に道路を走っているとヘッドライトに照らされて、やや離れた所に何かが転がっているのが見えた。
はて、あれは何だろうか?
目を凝らし、数十m先に転がる何かの姿を見る。
路肩に横たわるそれは白線を乗り越え、車道に一部がはみ出しているようだ。
ゴミだろうか?
それにしては大きいが。
道路にはみ出す異物を警戒し、減速した車はゆっくりとソレに近付いていく。
まず最初にはっきりと確認出来たのはごろんとした胴体だった。
次いでそれから生える不自然に折れ曲がった腕と脚。
その周りに広がる赤い染み。
何て事だろう…これは人間だ。
しかし、その身体にある筈の首が無い。
身体の向きを見る限りでは本来なら車道側に頭がある筈なので嫌な想像ではあったが、何らかの理由で倒れて車道にはみ出した当人は、その存在に気付かなかったり或いは避けきれなかった車に次々と轢かれて頭部を無くしてしまったのではないだろうか。
人の頭なんて石で思い切り打ち据えただけで原型を留めないほど潰れるのだ。
1t程の重さの塊がその上を何台も通過すれば、あっと言う間に跡形もなくなってしまうだろう。
そんな事をぼんやりと考えていると、いつの間にかアスファルトに転がるそれを車は通り過ぎていた。
気持ち悪いものを見たな…そう思いながら、不思議と通報しようという気にもならず家路についた。
後日。
ふと、あの時見たものについて妙に気になり調べてみたが、最近そんな事故があったと言う記録はなく、思い返してみればテレビでの報道も一切無かった。
昼間に首の無い死体があった道路を通ってみたが、事故があった形跡も見当たらない。
更に目撃者の無い事故であれば、目撃者を求める立て看板が近くに置かれるものだが、それすらもなかった。
果たしてあの時、私が見たものは何だったのだろう。
あれは実際に存在していたのだろうか。
今となっては分からないが、アスファルトに染みを広げる赤色と、死体の白い肌のコントラストが今でも忘れられないのだ。
2016-5-8 12:26